最大出力80HP、のキャッチコピーと共に世界デビューしたEVモトクロッサーSTARK VARGに乗った。その体験の深みは、インプレ取材などという枠組みに収まることがなく、オフロードバイクの本質を再考させられる心境に至った。これは、既存のオフロードバイクへの挑戦である

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STARK VARGの革新性はどこにあるか

スタークフューチャー社のSTARK VARGは、モトクロッサーである競技専用の「STARK VARG」と公道走行可能なエンデューロバイクの「STARK VARG EX」という2種類の電動オフロードバイクとして展開されている。今回、栃木県のオフロードピット那須で、サンドコースと林間セクションを持つ多彩なコースにてSTARK VARGを体験する機会を得た。本業はロードのレーサーながら、最近はハードエンデューロを中心にオフロードでも精力的に活動している濱原颯道がSTARK FUTUREとアンバサダー契約を結んでおり、彼が所有する車体をお借りした次第。初中級レベルの編集部稲垣では心許ないので、濱原にもインプレッションをヘルプしてもらっている。

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事前に聞かされていた情報があまりにも濃く、構えてインプレッションに臨んだ編集部だったが、その先入観を遙かに超えた驚きがあり、STARK VARGが革新的な要素に満ちたバイクであったことをまずはお伝えしておきたい。

たとえば……モトクロッサーとエンデューロバイクは通常、使用用途に合わせて全く異なる特性を持たされることが多い。例えばKTMのSX(モトクロス)とEXC-F(エンデューロ)はフレームもエンジンもベースを共通としているが、その乗り味は全く違う。あまり気づかれないことかもしれないが、STARK VARGはその両方の特性を一台で実現しているというところに注目したい。書き出しに、モトクロッサーとエンデューロバイクの2種類をラインナップしていると書いたが、そもそもそのカテゴライズ自体がSTARK VARGの前では本質的に無意味だ。STARK FUTURE社は、ロングレンジのバッテリーと公道走行可能な仕様を、EXと名付けてエンデューロモデルとしているだけのことなのだ。

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従来のICE(インターナル・コンバッション・エンジン。内燃機関のことで、EVと対比して語られる文脈ではICEと呼ばれることが多い。つまりはエンジン車のこと)では、エンジンの出力特性、サスペンション、車体構造など、あらゆる要素で別設計となっていた使用競技種目間の壁を、電動化によって取り払っている。STARK VARGは10馬力から80馬力まで自由に出力を調整でき、しかも単に最高出力を制限するだけではなく、トルクカーブそのものをモード毎に最適化しており、1台で文字通り異なるクラスのバイクとして乗り分けることができる。さらに回生ブレーキ(エンジンブレーキに相当)の強さも0%から100%まで独立して調整可能で、パワーと回生ブレーキの設定は最大5つのマッププリセットを保存できる。レスポンスもこれによってフィーリングが変わるため、ヤマハTT-Rのようなバイクにもエンデューロバイクにも、はたまた450ccモトクロッサーを遙かに越える超絶マシンにもなる。

モトクロッサーとエンデューロバイクの定義をも破壊する存在、これが革新的でなくてなんなのだろう。さらに言えば、この革新性はこれだけにとどまらず、様々なところでその可能性を我々に示してくれる。

濱原が語るSTARK VARGの魅力

車体力学とサスペンションの新境地

STARK VARGの車重はカタログ値で118kgとされていて、マシンをスタンドから起こしたり、メンテスタンドに上げようとするとずっしりと重い。ヤマハYZ450Fが109kgなので、450ccモトクロッサーよりもおよそ10kgほど重いことになる。サスペンションを手押ししてみても、その重量を支えるためかスーパークロスの車輌かと思うほどに硬い。

しかし「乗ってみると車体の重さを全く感じないですね」と濱原は語る。「小さなジャンプでも体を動かしやすい軽さがあります。カタログには118kgと書いてありますが、それを感じるのはスタンドに乗せている時だけ。実際に乗るとかなり軽く感じます。ICEではクランクの回転マスによる慣性が複雑な動きを生み出しますが、EVではそれがなく、車体の動きがより自然でシンプルになるんじゃないかと思います。単純な重量による慣性と、エンジンの回転マスを加えた複雑な慣性では、体感が全く違いますよ。EV車では慣性の働き方が単純化されていて、これがサスペンションの性能と相まってモトクロスもエンデューロも快適に走れる要因になっていると思います。

画像: 車体力学とサスペンションの新境地

あと、ギャップをほとんど感じないんです。車体の重量による慣性がギャップをキャンセルしている可能性もありますが、サスペンションの性能が非常に高い。フープスでも回生ブレーキの調整を弱めれば、リアタイヤが路面に引っかかるのを軽減できるので、速く走れる上に車体が暴れにくい」

サスペンションはKYBベースのテクニカルタッチ社サスペンションが最初から装着されている。試乗車は濱原の好みによってインナーチューブをコーティングされているが、バルビングはスタンダードから変更されていない。「KTMやハスクバーナのコーンバルブ付きマシンなど様々なオフロードバイクに乗ってきましたが、STARK VARGのサスペンションは凄まじいです。コーティング処理だけでは得られない動きで、元々持っているサスの性能が本当に素晴らしい。

バイクを倒し込む時も全く重さを感じません。ガレ場で振られた時も同様です。この感覚は乗ってみないと理解できないでしょう。カタログスペックからは想像できない軽快さです」

操作のシンプル化がもたらす集中力と走行革命

EVバイクの最大の特徴はシフトチェンジやクラッチ操作が不要な点だが、そのメリットは単なる操作の簡略化という話にとどまらない。

「ギアがないのが本当に良いですね」と濱原は語る。「コーナーの立ち上がりですぐフープスが来るような場面で、通常なら3速に入れるべきか2速で走るべきか迷うところですが、そういった悩みが一切ない。ただアクセルを開ければいいだけです」

画像: 操作のシンプル化がもたらす集中力と走行革命

ICEでは、コーナー立ち上がりからジャンプへの連続セクションなどで、素早いシフトチェンジが要求される。ジャンプ中にシフトアップするには、ニーグリップを強めたり、スタンディングからシッティングに移行したりと、様々な「所作」が必要になる。STARK VARGではそれらがすべて不要となり、ライン取りと姿勢制御に集中できる。

「半年以上ぶりにモトクロスに乗りましたが、普通に乗れました。それどころか、今までより走りやすい感じさえしました。シフトチェンジもクラッチ操作もないので、コーナー立ち上がりでアクセルを開けて、リアブレーキを“握る”(※編注:標準ではSTARK VARGのリアブレーキは左手レバー。オプションでコンベンショナルな右足にも設定が可能)だけ。リアの挙動が非常に安定するんです。

操作が簡単だからつまらないかと思ったら、むしろ簡単だから新しいことができて、面白さはこれまでのバイクと変わりませんね」

音の少なさもライダーの集中力向上に貢献している。エンジン音がないことで、タイヤや路面の状態を音で判断できるようになるのだ。

「タイヤと路面が接触することで発生する音、というものを初めて聞きました」と濱原は驚く。「カチパン路面を通るとスキール音のようなココココという音がします。根っこにリアタイヤが当たる時の音もはっきり聞こえるので、冷静に状況を判断できますね。エンジン音でかき消されていた情報が入ってくるため、『あ、開けすぎだ』とすぐに気づけるんです」

出力調整とマップ切り替えの無限の可能性

STARK VARGの魅力の一つに、10馬力から80馬力まで自由に出力を調整できる点がある。しかも、ただ最高出力を制限するだけでなく、各出力モードでトルクカーブ全体が最適化される。これにより、1台で様々なタイプのバイクを乗り分けることができる。

「今回は55馬力のセッティングで乗りました」と濱原は詳細に解説する。「40馬力だと全開まで開け切れてしまい、スロットルを戻す量が増えて疲れます。逆に60馬力だと不意にアクセルを開けた時のパワーが強すぎる。55馬力にして、スロットル開度90%くらいで調整できるようにしています。実際には50馬力程度しか使っていないでしょう。

画像1: 出力調整とマップ切り替えの無限の可能性

コーナーでは回生ブレーキを50%にすると、リアブレーキを使わなくても飛び込みやすいなと感じました。フープスなどでは40%の方が突っかかる感じが少なくて良い。マップをコーナーとフープスで使い分けるといいかもしれませんね」

これらのセッティングはハンドルに備えられたボタン一つで切り替えられるため、セクションごとに最適な出力特性を走りながら選択できる。従来のICEでは不可能だった柔軟性だ。この柔軟性はセクションごとに求められる出力特性が大きく異なるエンデューロやハードエンデューロでより効果を発揮すると言う。

「キャンバーのような滑りやすい状況で45馬力や50馬力は不要で、10馬力に設定し回生ブレーキを0%にすると、凄く滑らかに走れる上に自転車のようにシャーッと転がっていく。僕らが走るようなキャンバーは角度が深く、ICEだとわずかなクランキングで引きおこされる車体の揺れをきっかけにずり落ちていくことも多かったのですが、STARK VARGはモーターなのでクランキングはおろか振動もなく、キャンバーでは圧倒的に有利に感じました。クラッチが無いことはここでも有利で、クラッチミートに神経質になる必要がありません」

「マップは5個まで設定できます。55馬力の回生ブレーキ40%と55馬力の回生ブレーキ50%を入れておくだけでも、弱めの回生ブレーキを使うことでフープスをスムーズに走ることが出来ますね。また、モタードだったらターマックで80馬力&回生ブレーキ90%にして、ダートセクションに入ったら40馬力に変更、回生ブレーキをもっとカットする、なんてこともボタンを押すだけでできてしまいます」

従来のICEでも電子制御によるマップ切り替えは存在するが、出力そのものを大幅に変更することはできない。

画像2: 出力調整とマップ切り替えの無限の可能性

「ICEもマップ切り替えはあるけど、馬力調整までなかなかできないですよね。それに対してスタークは10馬力から80馬力の間で調整できる。これはこれまでのマップ切り替えとはまったく違うものですね」

冒頭に説明したモトクロッサーとエンデューロバイク両方の特性を再現できるところも、このマップ切り替えと、特異な足回りによる効果だと言える。

「モトクロッサーが大きなジャンプに対応するためにシャープな車体とサスペンションを設定しているのに対し、エンデューロバイクはもっとマイルドな特性を持たせてあります。KTMで言えばSXとEXCは完全に別物で、SXをEXC化したりその逆はできないレベルで違う。しかしSTARK VARGはその両方をこなすことができる。その秘密は電動化による出力特性の自由な変更と、車重による慣性特性、そして高性能サスペンションの組み合わせにあると思います。

画像3: 出力調整とマップ切り替えの無限の可能性
画像4: 出力調整とマップ切り替えの無限の可能性

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僕はSTARK VARGをハードエンデューロで使う時はリアホイールを18インチに履き替えて、フロントもエンデューロタイヤに変えています。フロントの突き出しを10mm調整し、サスペンションのコンプレッションを3クリック調整しただけです。こうするようになってから実際、僕は450ccのモトクロッサーを手放しました。理由はSTARK VARGで事足りるから。趣味でハスクバーナのTX300は持っていますが、実は必要ないんです。1台で何でもできてしまうので、結果的に安上がりですよね」

ジャンプと姿勢制御の新たな感覚

EVバイクでもジャンプ中の姿勢制御は従来のICEと同様に可能だが、その操作感覚は異なる。

「EVでも、飛んでる時にスロットルを開けるとフロントが上がるし、リアブレーキを踏むとリアが上がります。それで姿勢制御ができます。どこからでもトルクが出るので、高速走行中でもわずかに開けるだけでフロント上がりのモーメントが生じます。自由自在に動かせるのはすごく良いですね」

一方で、エンジン音に頼っていたジャンプの距離感覚などは新たな適応が必要になる。

「ジャンプの飛距離がわからない。ICEだとジャンプを飛ぶ時に音で判断するんです。でもEVではその感覚が使えない。まだ体で覚えきれていないですね」

これはEVへの移行期には避けられない適応過程だが、慣れれば問題なく対応できるという。

画像: ジャンプと姿勢制御の新たな感覚

EVオフロードの実用性とランニングコスト

また、バッテリーの課題もまだ残っている。

「満タンからのバッテリー持続時間は、私のペースだと40〜50分程度、速いライダーだと25分ぐらいです。全日本モトクロスまでは持ちませんが、普通のサンデーレースは全然大丈夫。1日3走行程度のレースなら、合間の1時間半〜2時間で充電できるので十分です。

充電速度は100Vだと遅いため、200V電源の方が効率的です。モトクロスのような連続した激しい走行で使う場合は、発電機を使用しながら休憩するサイクルをまわすことになりますが、100Vの発電機では1時間に20%ほどしか充電できません。上級者レベルでは、少し休憩時間が多くなってしまうかもしれませんね。ただし、僕が白井(編集部注:茨城県にあるトライアルコース)で走った時は半日で30%しかバッテリーが減らなかった。山で使う分には全然減らないです。停車時には、バッテリーを一切消費しないからだと思いますね」

EVを動かすためにエンジンの発電機を使う絵面は滑稽という見方もある。いかにもSNSで誰かに指摘されそうなものだが、我々はエコを理由にEVバイクに乗るわけでは決して無い。

画像: EVオフロードの実用性とランニングコスト

編集部・稲垣によるインプレッション

五感がリセットされる新しい体験

STARK VARGは、オフロードバイクの本質的な理解を高めるための乗り物だと言うことができるのかもしれない。

STARK VARGを初めて駆った時、まず驚かされたのはエンジン音の不在がもたらす感覚の変化だった。エンジン車では気づくこともなかったタイヤと路面の接地音、サスペンションの動き、風切り音までもが鮮明に聞こえてくる。それは単なる「静か」という以上の意味を持っている。

ガレ場でタイヤが根っこに当たる音、凹凸を通過する時のサスペンションの動き、タイヤがたわむ時の「ポコッ」という音——これらは普段エンジン音に埋もれて聞こえない情報だ。この聴覚フィードバックの変化は、路面状況の把握に直結する新たな情報源となる。正直なところ、その音の情報をまだ処理し切れてはいないので、もっとEVでの経験を積んでいくことが必要だと思った。音を理解していくことで、ICEよりも深く路面状況を感じ取れるようになるはず。おそらく、タイヤやムースによってそのフィーリングも変わってくるだろう。例えばMTBのタイヤはそのフィードバックが多いためにサイズや中身の違いでフィーリングが大きく異なるのだが、それと似たような感じになるのかもしれない。

画像: 五感がリセットされる新しい体験

さらに言えば、この静寂さはエンジン音とモーター音の違いだけで生まれているものではないだろうとも感じた。STARK VARGをはじめとするEV車は、実はその構造が非常に単純である。電気を使うからさぞかし複雑だろうと思われるかもしれないが、モーターとバッテリ、そしてモーター冷却以外のコンポーネントはほとんど無い。だから、走っていても動いている部分が圧倒的に少ないのだ。ICEの場合、いろんな部品が揺れたり擦れたりする。エキゾーストまわり、ラジエターまわり、各種ガード類や、その他なんやかや。その揺れや、騒音が意外なほど大きく、EVに比べて不快感があったことに改めて気付かされる。これは、四輪でも感じ取れることだろう。上質で静謐なEVの加速感と、脈動や振動を伴うICEの加速感。いろんな面で、EVは静寂かつコンフォータブルである。そしてそのコンフォート性能が、車体や路面のフィードバックを緻密にライダーに伝えてくれるのである。

頭脳と身体が解放される驚異的な軽減効果

僕の場合、ヤマハYZ250FXでモトクロスコースを攻めると心拍数は180〜190にまで上昇する。しかし、今回のSTARK VARGの試乗では160程度に抑えられた。

なぜこれほどの差が生まれるのか。単にシフトチェンジやクラッチ操作が不要だからという表面的な理由だけではないなと思う。エンジン車では、ライダーは無意識のうちに「次のシフトアップはどこで」「このコーナーは何速で」「ジャンプ前にシフトダウンすべきか」といった「判断」と、それらの操作のためにニーグリップを強めたり、スタンディングからシッティングに移行したりといった「所作」を常に行っている。その所作の中で、意外なほど筋肉を使っているし、そういった細かな判断・運動が連続していたことが心拍数の上昇につながっていたのだと思う。

STARK VARGでは、これらの精神的・肉体的負担が大幅に取り除かれる。その結果、路面状況の読み取り、ライン取り、バランス維持といったライディングの本質的な部分にすべての注意を向けられるようになる。「100%荒れているギャップに集中できる。100%コーナリングに集中できる」と濱原が語るように、本来オフロード走行で重要なこと以外の負担がなくなるのだ。

これは心拍数の差以上の意味を持つ。長時間走っても疲労が少なく、精神的な余裕が格段に増すのだ。「集中していない」わけではなく、必要な部分だけに精神的エネルギーを使える状態——これもオフロードバイクの本質に迫る体験だ。

カテゴリーを超越する新たな領域

このバイクの革新性は「エンジンをモーターに置き換えた」という単純な話ではない。ICEの文化の中で長年培われてきたカテゴリーの境界線を、EVの特性を活かして取り払い、再定義している点にある。

STARK VARGは濱原の言葉を借りれば「操作が簡単だからつまらないかと思ったら、むしろ簡単だから新しいことができて、面白さはバイクと変わらない」ものだ。これはまさにEVオフロードの本質を表している。既存のバイクを「置き換える」のではなく、これまで存在しなかった新しい領域を切り開くこと——それこそがSTARK VARGの真価なのだと思う。

静寂の中で路面との対話に集中し、複雑な操作から解放され、一台で様々な表情を持つバイクと過ごした時間はあっという間に過ぎた。ICEに慣れ親しんだライダーにとって、STARK VARGは文字通り「目から鱗が落ちる」体験となるだろう。

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