これほどライン変更が自在なバイクを経験した事がない!
外観はもちろんフレーム、サス、エンジンを完全新設計! ようやく登場した第6世代になるオールニューのGSX-R1000。その上級スポーツバーションGSX-R1000Rに試乗してきた。
GSX-Rは、ライバルたちがこの3~4年前を境に大変更を受けて更新される中、09年に登場した第5世代モデルをベースに更新されてきた。レースでタイトルは取ってきたものの、実際の市場ではやはり戦闘力も鈍ってきていた。そんな状況下でのオールニューモデルだ。スズキの屋台骨になるブランドであって、ステータスシンボルでもある。開発にかけるスズキの意気込み、ファンの期待はただならぬものだった。
プロトタイプが発表されて以来、この新型の目玉となるニューアイテムはさんざん本誌でも取りあげてきた。バルブタイミング可変システム「VVT」を装備するエンジンは、軽くなり、小さくなって202馬力を1万3500回転で発揮。その小さなエンジンを活かして大幅にディメンション、剛性バランスを見直した新型フレーム、それにショーワの革新的なサスペンションも装備している。スーパースポーツモデルとして戦闘力に関わるベースとなるパートは、文字通り「一新」されているのだ。
すべてが違う、新作のGSX-Rだというのは理解しつつ試乗に挑んだのだが、あまりに外観イメージが伝統的で、古典的とも思えるようなGSX-Rテイスト。安定のシンボルフォルムだ。代わり映えしないんじゃないだろうか……そんな疑念も湧いてしまう。
最新の電子テクノロジーがハードな走りを支える!
フィリップアイランドの1コーナー。ここは280~290㎞/h近い速度から減速して侵入して、コーナーの中では180㎞/hくらいに落して切り返しつつ、Rがキツくなる奥のコーナーに向けてさらに減速して切り込んでいく。ちょっと度胸試しみたいな場所なんだが、ココに突っ込んでみて思った。
「やはりこれまでと同じGSX-Rだ」…クセが無く素直で従順そのもの。だが、何かスゴいところがあるのか?……と想定内の感激を味わっていたところ、2~3周するうちにハタと気付いた。…過去のGSX-Rや他メーカーのリッタースーパースポーツでココを走って、これほど速かった事はないのだ。しかも、こんなに身軽に高速コーナーを切り返し、ラインを自在に変更できるバイクを経験した事がない……。走りのテイストは間違いなく、これまでと同じGSX-Rなんだが、もっと、ずっと身軽で、スタビリティが良くて、乗り手に優しく従順なのだ。そんな要素のバランス点が格段に高くなっている。
この新型は、エンジンが前寄りに搭載されているし、それに合わせて、リアアームも伸びている。旋回性を生み出したり、舵の利き、安定性を左右するアライメントは「より動きやすい」設定が選択されている。それが活きているのはよくわかる。サスの動きも欧州製のリプレイスもののようにスムーズに強減衰を発揮して車体を落ち着けてくれる。だが、それよりも何よりもフレームがいい! タッチの違いで言えばしっとりしていて、かなり柔軟になったような印象を受けるのだ。その柔軟さに慣性が加わって、重くなりがちな高速コーナーでの機動をやりやすくしている。最初の入力を柔らかく受け止め、ブレる事なくしなやかに実行する……そんな感じだ。
たしかに、見た目もメインビームが細くなっているし、どれほど剛性を抜いたのか? と開発者に尋ねたら、「数値的な強度はほとんど変わっていません。捻れやたわむ位置を変えただけです」…と。このすばらしい機動力をもったハンドリングの立役者はこのフレームだと思う。
強烈なパワーを発揮するエンジンだが、いい意味で全く緊張感無く使いこなせる。主にフルパワーモードで走っていたんだが、それでもレスポンスが優しい。でもパワーの立ち上がりはリニアでコシが強い。このパワーでこのタッチは驚異的。クラスの中でも最高レベルのパワードライバビリティだ。そんな操作感だが、車速のノリだけが異常に速い。
遠心力応用式のVVTは1万回転でクランクシャフト8度分進めた状態にインレットカムをずらす。どう変っているのか体感的には全くわからなかった。最初からスムーズで8000回転とか、もっと下から力の漲る、途方も無く幅広いパワーバンドを持っているエンジン。そんな印象。
また内蔵されるトラコンの作動も非常にスムーズだ。このセットアッププログラムもレベルが高くすばらしいが、このコースで走ると、スタンダードのタイヤではすでに能力不足。20分の試走枠の後半ではちょっと多めに開けると滑る。トラコンの威力に大感謝した。レーシングコンパウンドを使ったタイヤも試したが、マッチングが良くて、さらにハンドリングをすばらしく感じるのはそのためだった。
バックトルクリミッターの作動も自然だから、最初からそれを使うつもりでシフトダウンもできる。シフトと言えばアップとダウンともに機能するオートシフト機構を採用している。シフトペダルの動きに過敏ではないから足が触れたぐらいで失火しないし、シフトのときは軽く、ボタンで切り替えているようにカチッとギアを変える。よほど意地悪な操作をしない限りミスはしない。知っている限り、もっとも信頼できるシフターだと思う。
こういった全てのパートが見事にシンクロして、スーパースポーツモデルとは思えない扱いやすさを手に入れているのだ。それがとんでもない機動力、速さを実現する。足がいいから、たぶん峠道でもその片鱗は味わえる。早く日本の公道で試してみたいと思っている。
■主要諸元
全長×全幅×全高 2075×710×1150㎜
ホイールベース 1420㎜
シート高 825㎜
車両重量 200/202(ABS)/203(R)㎏
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 999.8㏄
ボア×ストローク 76×55.1㎜
圧縮比 13.2
最高出力 202PS/13200rpm
最大トルク 12.0㎏-m/10800rpm
燃料供給方式 FI
タンク容量 16ℓ
キャスター角/トレール 23°20′/95㎜
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ320㎜ダブルディスク・φ220㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70ZR17・190/55ZR17
各部パーツの全面見直しで大幅進化を果たす!
MotoGPの技術も取り入れて開発された新GSX-R。ショートストローク化と高圧縮化でパワーアップ、吸気側の可変バルブタイミング機構を中核として高回転域の力強さと低中速域での扱いやすさを両立させるブロードパワーシステムも備えた水冷直4エンジンは、コンパクト化も追求。それを搭載するフレームも新設計され、上級モデルのRではショーワ製のバランスフリーフロントフォークなど最新のサスを採用してハンドリングを磨き上げ、新デザインのフルカウルで優れた空力特性も実現。さらに慣性計測装置・IMUにより制御される、トラクションコントロールやABS、スタビリティコントロールなど高度なライダーサポートデバイスも充実させている。
ライディングポジション(身長:176㎝ 体重:65㎏)
少しステップが前方気味に配置されることがあるGSX-Rシリーズだが、新型のGSX-R1000Rは、ごく自然な前傾ポジョン。ステップからシートまでの位置関係が良好で、我々日本人にも超高速コーナーでのホールドがしやすい。シートはそれなりの高さ(825㎜)。車体はコンパクトで、またがるとカウルまわりのスリムさがよくわかる