新しい足回りと熟成エンジンで格段の扱いやすさも手に入れた
多くのメーカーが600クラスのスーパースポーツから撤退する中、YZF-R6は今年モデルチェンジした数少ない最新モデル。これまでのR6の特徴と言えば、ミドルスーパースポーツの中でも特にスパルタンな走り。まずエンジンは1万6000回転まで常用できる超高回転型。そのパワーバンドの中心も1万2000回転以上。回すと非常にパワフルで、その時のエンジン音はまるで金切り声のようなエキサイティングさで、直4の高回転サウンド好きにはたまらないものだ。
だが、さすがにそんな高回転域を扱うのは難しい。峠道はもちろん、タイトなサーキットでもパワーバンドを上手く使うのが至難の業。速度維持が難しい登りのタイトコーナーだと、1速から2速にシフトアップする際にパワーバンドから外れたりした。足回りも、高荷重を掛けたとき、つまりかなりハードなライディングをしたときに初めて最高の旋回性を発揮するようなセッティングだった。
そんな、ある意味クセの強いR6だが、フレームとエンジンの基本レイアウトは今度の新型でも受け継いでいるため、基本的な性格が変わっていないと思う人も多いと思う。ちなみに、外観は現行のR1調の洗練された姿へと刷新され、前後の足回りもそのR1のSTDモデルと同系列のカヤバ製になった。
この足回りが走りを大きく変えていた。加えて、エンジンの性格もいい塩梅でマイルドになっている。かなりピーキーなエンジンなのは同じだが、パワーバンドは1万回転からとなり、1万2000回転で一段と強力になる。パワーの核はタコメーター読みで1万4000~1万5000回転にあり、伸びはレッドゾーンの1万6000回転まで続く。
ココを使っていれば、新型はサーキットだって峠道だって意のまま。旧型だとシフトアップの際に半クラを使わないといけないような場所でも普通にシフトアップができ、2速で駆け足したり、3速で流す事もできる。6速100㎞/hは5500回転だが、そこでも何不自由なくクルーズできる。
そう、新型は「普通に使える」扱いやすさを手に入れたのだ。しかもハンドリングが熟考され進化している。250スポーツのように小さく勝手に曲がり込むタイプではないが、ペースに関係なく、自分の意志で意のままに曲がれる従順さが生まれた。旧型の神経質さは消えたのだ。それにこれまでより何倍も路面の荒れに強く、足まわりがひとグレード上がったようなスタビリティもある。
エキサイティングなエキゾーストノートや使いこなしている事を実感できる操縦感覚も健在だが、これまでのあまりに過激過ぎて使いずらかった部分が新型ではマイルドになり、より完成度を増しているのだ。
それでも、尖りに尖った600ccスーパースポーツの貴重な生き残りモデル。レプリカマニアを自負するライダーは、一度乗っておいた方がいい1台である。
SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高 2040×695×1150㎜
ホイールベース 1375㎜
最低地上高 130㎜
シート高 850㎜
車両重量 190㎏
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 599㏄
ボア×ストローク 67×42.5㎜
圧縮比 13.1
最高出力 118.4PS/14500rpm
最大トルク 6.3㎏-m/10500rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 17L
キャスター角/トレール 24度/97㎜
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ320㎜ダブルディスク・φ220㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70ZR17・180/55ZR17
DETAIL
RIDING POSITION(身長:176㎝ 体重:68㎏)
バランスのいいライポジで、スポーティな走りでのホールドしやすさは見事。加速では腰が自然に止まり、減速では腕に無駄な力が乗らない。下半身だけでなく上体、胸、肘まで総動員した全身ホールドも自然にやってのけられる。その分、街での快適さは二の次だ。