目指すのはすべてのユーザーの望みを叶えること
Kabuto製のヘルメットが高い安全性能を持っていることは、「前編」のコラムからも伝わったと思う。そこで、ここではもう一つの魅力であるデザイン性の高さや、細部にまで渡るユーザーメインの設計思想などから、Kabuto製ヘルメットの人気が高まっている理由を掘り下げていきたい。
Kabutoのヘルメットについてよく言われるのが「軽さ」と「デザイン性の高さ」である。実はこの2つの要素は無関係ではない。それどころか、深い関係性があるのだ。
「前にも言いましたが、シェル表面に折り返しのリブを作ることで高い強度を持たせることが可能となります」と開発の南さん。形状を工夫することによって各国の安全規格を余裕でクリアするだけの強度をもたせているのだ。そのリブも単なるカッコだけの造形ではない。エアロパーツと組み合わせ、ちゃんと意味をもたせていることも特徴である。
「CFD(3次元数値流体解析)などを駆使し、空気の流れを徹底的に研究し、ライダーにストレスがかからないよう考慮しています」
興味深いのは、ヘルメットの種類によって空力特性を変えているということ。
「主にレーシングライダーが使うフルフェイスヘルメット【RT-33】は空気抵抗の低減はもちろんですが、前傾姿勢のときにリフト(上に引っ張られること)を防ぐことも重視しています。またコーナーリング中などでは風が正面から当たるとは限りません。それらの状況を統合し、求められる特性になるような形状にしています」
それには、Team KAGAYAMA U.S.A.から今年の鈴鹿8耐に参戦した、浦本修充 選手もこう証言する。
「速度が上がっても頭が振られないので、1時間連続で走っても首に対する負担が少ないんです。その効果を高めるには個人の頭にあわせたフィッティングが必要なんですが、Kabutoはその対応もしっかりしてくれます。調整してもらうと全然違いますよ」
フィッティングサービスは一般のライダーでも、全国のプロフィッティングサービス認定店で受けられる。プロのレーシングライダーと同じサービスが受けられるのは嬉しいことだ。
対して同じフルフェイスヘルメットである「エアロブレード5」は、ロングツーリングで長時間高速道路を走り続けても疲れにくいような空力特性にしているという。サーキットと高速道路では速度域が異なるため、同じ仕様にはならないのだとか。そしてジェットヘルメットやシステムヘルメットでも、それぞれのシチュエーションにあわせた空力特性が採用されているとのこと。さまざまな環境でライダーの集中力が途絶えないようにすることも安全に対する配慮だと言えよう。
また「着脱しやすく、速乾性の素材を使った内装」にもライダー主体の考えが反映されている。その点も含め、今年の鈴鹿8耐にau・Teluru MotoUP Racing Teamから参戦していた国内でも指折りのトップライダー・秋吉耕佑選手にKabutoヘルメットについて語ってもらおう。
「2007年頃から(Kabutoのヘルメットを)使っていますが、日本ブランドということも含めて信頼しています。以前、最高速度が340km/hを超えるMotoGPマシンに乗ったときも、こちらの要求に対する対応が早かったのも良かったですね。研ぎ澄まされた世界だとわずかな視界のブレや内装のズレも許されないので、そのあたりを素早く対応してもらえることはとても重要なんです。実はシビアに見ていくと季節によってもフィッティング感は異なるんです。Kabutoさんはそれをすべて対応してくれるんです」
「着脱しやすいのはツーリングでもメリットがあるし、内装がフィットするのは集中力が途切れず疲れにくいことにつながります。デザインがカッコいいのも良い。それは遠目で見ても感じますし。僕からも空力や曇りにくさなど、色々なことをフィードバックしています。それらが製品開発にも活かされ、一般のライダーの手元に届いているというのも良いですよね」
ヘルメットの開発陣によると、秋吉選手はプロライダーの目線から、物事をシビアに「良いか悪いか」の2択で判断することが多いそうで、それだけに秋吉選手からOKがもらえれば安心できるという。
「安心感、存在感が違う。もう他のヘルメットはかぶれません」という秋吉選手の言葉からもお互いの信頼関係が強固であることが伝わってくる。
またKabutoのモノ作りはレースだけに偏っているわけではない。多くのユーザーの使い方やシチュエーションを考慮して製品開発をしている。
ジェットヘルメットの開放感と安全性、着脱の容易さが欲しいという要望があれば、ストリートモデルにふさわしいデザイン性を取り入れたシステムヘルメットを製作する。
ツーリングで眩しいと思えばインナーバイザーを装備する。眼鏡ユーザーでも扱いやすいようチークパッドにスリットを入れたり、インカムを装備できるスペースを確保したモデルも。
「安全性に関しては全ての製品で変わりませんが、それ以外は好みや使い方に合わせてそのユーザーが本当に求めている機能を持つヘルメットを作っています。良い意味で一貫性がないとも言えますね」と南さんは笑う。そして、そのユーザーファーストの思考は価格にも反映されている。
「うちのヘルメットは性能の割に安いと言われています。我々は“適価”だと考えているのですが。なにより、いくら製品が良くてもお客様が購入できなければ意味がないですからね」
確かに、一般的に「高価=信頼性が高い」と受け取る風潮がある。しかし、冷静に考えれば内容が充実していて実績があるのならば、価格は安いに越したことはない。Kabutoのヘルメットはまさにそれ。信頼性に対するコストパフォーマンスの高さはバツグンなのだ。
高い安全性とフィット感、存在感を示すデザイン、優れたコストパフォーマンス。なんだか良いことばかりのように聞こえるが、それらが現実となっているのは開発者をはじめKabutoのスタッフ達の情熱があるから。鈴鹿8耐にKRP SANYOKOGYO&RS-ITOHから参戦していた岡村光矩選手から、こんな言葉が聞かれた。
「若い頃、新しいヘルメットを買いにお店に行ったら手頃な価格でカッコいいのがあった。それがKabutoでした。軽くてフィット感も良く気に入っていたんですが、レースを始めたら壊してしまったんです。落ち込んでいたとき、たまたまお店に来ていたKabutoの営業さんが『レース頑張っているようだから少しサービスしてあげるよ』って。どこの誰だかわからない小僧にですよ!(笑)。しかも箱を開けたら『レース頑張って』というメッセージが入っていたんです。もうこのメーカーしかない!って思いました」
そんなエピソードからもKabutoの人情味あふれる社風が伺える。
「モノは人が生み出し、販売している」
「Kabuto」は、そんな当たり前のことを思い出させてくれるブランドであった。
撮影/柴田直行