CRF450Lは、現世代の17MY CRF450Rの開発を機に企画されたという。CRF450Rは、19モデルで大きなマイナーチェンジされたため、最も近い車種でいうと18モデルのCRF450Rになる。いまは、コンプライアンスが重視される2010年代。2ストロークが規制を通る90年代ではないのだ、レーサーを公道で乗れるようにするために必要なモディファイは、すでに公表されているものでは到底足りない。
CRF450Lと、18 CRF450Rを前に語ってくれた、CRF450L開発責任者の内山幹雄氏に公道化の情熱を聞いた。
見た目、CRF450Rそのもの。だってほとんどRのパーツだもの
連載vol.1で披露したとおり、そのスタイリングはまさにCRF450Rそのものだ。実に、使用するパーツの70%がCRF450Rだというから、とんでもない開発努力。だからこそ、入念な公道化がされている。おそらく、これをR化するのは不可能に近い。
フレームは6速化にあわせてワイドに、そして剛性の適正化が随所に
まずは、フレームのミドル部分。このパーツは、Rの5速を6速化する上で、クランクケースがワイドになっているのにあわせて、再設計されている。
CRF450L
CRF450R
裏からみてもわかりづらいが、リブの形状などでフレームの剛性もR比で若干落としている。
CRF450L
CRF450R
ネック部分も、剛性を落とすために変更されているパーツだ。Rには、CRF伝統のステアリングダンパーをつけられるように雌ネジがあいているが、Lにはちがうダボあとがある。CRF用ステダンは装着不可。スペック上キャスター角が異なるが、これは突き出しや、リアサスのセットによるものでネックの角度は変更無し。
エンジンマウントは、上部ハンガーを再設計して剛性を落としている。
パワーデリバリーの最適化
CRF450R
CRF450L
エアクリーナボックスはまったくの新造で、箱型。Rは箱というよりカゴで、ほとんど全開放状態だ。エアクリーナ自体の大きさもひとまわり小さなものを使用している。吸気をおさえることで、トルクに振る設計。
さらにその上に、CRF450Lは吸気の蓋がついている。トルクデリバリーだけでなく、「音量をおさえるための蓋」とのこと。レーサーの吸気音はかなりのものになるのだ。
エンジンは、圧縮比やカムプロフィールによるところがパワーデリバリーでは影響が多い。特に圧縮比は、トレールならではのリニアさを出すために、13.5→12.0に変更されている。トラクションさせることが難しいレーサーの気むずかしさを打ち消した形だ。
CRF450R
CRF450L
排気系は当然まったく別物で、デュアルマフラーがシングルに、排気管の太さも細いモノに変更されている。シングルマフラーの理由は、キャタライザーの効率を勘案した結果。
ここまでやるか、騒音対策
一番驚かされたのは、こちら。言われないと絶対にわからないが、スイングアームの上部中央に黒いゴムが見えるだろうか。スイングアームの形自体は変更されていないが、この穴から発泡ウレタンが注入されておいて、チェーンがスイングアームを叩く音を小さくしている。実際、スイングアームを叩いてみると、あきらかに音が異なるのにビックリ。
テストを重ねた上、採用されたタイヤはIRCのGPシリーズ。最もロードノイズが低いという。
スプロケットにも、ゴムリングをつけて騒音抑制。
エンジンには、両側プラスチックのカバーが装着されている。これも騒音対策だ。そして、さらに涙ものなのは、フレームのアンダーパイプの間に納まったリザーバータンク。ここに水タンクがあることで、エンジンの騒音を消しに行く狙いがある。
特に、EURO4を通すための騒音対策には、舌を巻く。いま、レーサーをストリートリーガル化するということは、こういった開発陣の弛まぬ努力の積みかさねがあってこそだ。ちょっと保安部品をつければいいのではなんて、そんな甘い物ではない。この開発姿勢に、税抜き120万円の中身が、見えてきはしないだろうか。