圧倒的な一体感がライディングを支える
MTシリーズの頂点に立つMT-10は、鈴鹿8時間耐久4連覇を成し遂げた生粋のスーパースポーツ、YZFーR1の基本コンポーネンツを活かして作り上げられた超快速ネイキッドモデルだ。1000㏄クラスのスポーツネイキッドはSSモデルのエンジン/車体をベースにすることが多いが、開発陣が何より腐心するのがスポーツ性能と街乗りやツーリングでの快適さ、扱いやすさのバランス。だから結果として構成パーツの約40%が専用設計になったのは、開発陣がコストと時間を掛けても妥協を許さなかったからに他ならない。さらにパワー特性とトラクションコントロールの介入度合いを決める電子制御システムの作り込みにも相当の手間が掛かっているはず。そうした苦労はR1と乗り比べるとはっきり実感できる。
MT-10のエンジンを始動すると、聞き慣れた並列4気筒の連続音ではなく、ビートの効いた排気音が低く響く。クロスプレーン型クランクシャフトを採用しているためV型4気筒エンジンに似たサウンドで、特に低中回転域ではドロロロ……といった音質。好みはあるだろうが、聞き慣れてくると耳に優しくて疲れないし、回転の上下による音質の変化が適度な刺激になって飽きさせない。そして高回転域では多くのモトGPマシンにも似たエキサイティングサウンドを奏でる。
走り出して最初に感じるのはオートバイとライダーの一体感が高いことだ。それも「スポーツネイキッドカテゴリーの中では最軽量の部類だから」で片付くレベルではない。ライダーが意図した方向にスッと自然に向きを変え、切り返しでもタイムラグなしに車体が反応する。これは車体剛性の高さと短めのホイールベース、そしてマスを集中させた車体レイアウトによるもの。低速域では若干フロント回りに重さと剛性の高さを感じるが、乗用速度域では軽快で、実にスムーズにトルクが立ち上がるエンジン特性と操作系の軽さもあって公道走行の速度域内ならどこをどう走っても快適だし、混雑した市街地走行もまったく苦にならない。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高 2095mm×800mm×1110mm
ホイールベース 1400mm
シート高 825mm
車両重量 210kg(※SPは212kg)
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 997cc
ボア×ストローク 79.0mm×50.9mm
圧縮比 12.0:1
最高出力 160PS/11500rpm
最大トルク 11.3kg-m/9000rpm
燃料タンク容量 17L(無鉛プレミアムガソリン指定)
変速機形式 6速リターン
キャスター角/トレール 24°00′/102mm
ブレーキ形式(前・後) φ320mmダブルディスク・φ220mmシングルディスク
タイヤサイズ(前・後) 120/70ZR17・190/55ZR17
価格 167万4000円/199万8000円(SP)
作動性に優れたサスで乗り心地が素晴らしい (太田安治)
今回は都心部から高速道路経由で峠道を走ってきたが、高速クルージングでの快適さは文句の付けようがない。アップライトなポジションで首、腕、腰への負担が少なく、初期作動性に優れた前後サスペンションで乗り心地も素晴らしくいい。不快な振動も一切無く、前述したように吸排気音を楽しみながら走り続けられる。標準装備のクルーズコントロールをセットすれば「うっかり速度違反」の心配も無いし、燃費も稼げる。正直なところ「オートバイにクルコンなんて……」と思っていたが、一度使うと癖になる便利さだ。
とはいえ、感心したのはSP専用装備の電子制御サスペンション『ERS』。サスペンションユニットは前後ともオーリンズ製で、前後とも伸び側減衰力と縮み側減衰力をそれぞれ簡単なスイッチ操作で細かく設定可能。スポーツライディングならセミアクティブ制御のA-1にしておけば車体の挙動変化を抑えて高い旋回性とトラクションが得られ、街乗りやツーリングではA-2にして乗り心地の良さを優先、といった切り替えができる。
さらにサーキット走行ではセミアクティブ制御をオフにして、コースやペースに合わせてマニュアル設定する楽しみも備えている。伸び側、縮み側の減衰力を変更することで車体の反応がどう変わるのを簡単に体感でき、車体セッティングのスキルも磨けることもSPの魅力。スタンダードとSPの価格差は約30万円だが、その価値は充分過ぎるほどあると思う。街乗り比率が多く、峠道では適度にスポーツライディングを楽しみたい僕は迷わずSPを選ぶ。
MT-10のスポーツ性能は過去何回かの試乗で判っていたが、丸一日乗ってみてツーリング適性の高さと走行フィーリングの上質さを再認識させられた。ツーリングといえどもスポーツマインドは忘れないというライダーには最適な1台。『ザ・キング・オブ・MT』というキャッチフレーズはダテではない。
扱いやすいモードなら全然不安なしです! (平嶋夏海)
実はリッタークラスの大型モデルに乗るのは初めてだったので、ちょっと緊張しました。足着きも少し厳しかったですし(笑)。でも、いったん走り出しちゃえばすごく楽でした。ハンドル位置も遠くないし、ステップ位置も高すぎないのでリラックスできます。高速道路ではすごく安定性が高くて、サスペンションがしっとり動き、エンジン回転数が低くて振動がないので「ああ、これが大型バイクの乗り味なんだな」なんて感心しながら走ってました。SPの電子制御サスペンションは乗り心地がいいし、峠道でもしっかり踏ん張って安心できました。もっと走り込んでからいろいろ調整して違いを体感したいですね。
DーMODEはいろいろ試してみましたが、最弱の「3」だと400㏄バイクみたいな扱いやすさです。といっても8000回転を超えると超速くてビックリしましたが。さらに「1」では身構えていないと上半身がのけぞるほどのもの凄い加速です!
装備面を見てSSモデル的な性格だと思っていましたが、気持ち良くツーリングできます。高級感もあって素敵なオートバイです。
快適性とスポーツ性を両立するMT-10の魅力を堪能したい
MTー10の魅力を堪能できるのはワインディングロード。R1用をベースに剛性バランスを調整した車体によってコーナーがクネクネと続くような峠道でのフットワークは軽快かつ安定感の高いもので、意のままにコーナーを切り取っていけるから自分のライディングスキルが上がったように感じるほど。試しにDーMODEを『2』、TCSを『1』という最もスポーティーな設定にしてみると、僅かなテールスライドでコーナー出口にブラックマークが残り、立ち上がりでスロットルをワイドに開けばフロントホイールを持ち上げて猛然と加速する。このスポーツライディング性能はライバル車と比べても群を抜いているから、腕に覚えのあるライダーほど魅入られるだろう。