1100の登場で拡大するスクランブラーの描く世界
2014年の発表時から、ドゥカティのラインアップの中でも特異なキャラクラーを打ち出しているスクランブラーシリーズ。デビュー時に、4タイプを一気にラインアップしたところからも、メーカーの本気度が伝わってきたが、実は市場投入当時から独立したブランド「ドゥカティ・スクランブラー」として展開している。
それもあって、両ブランドから生み出される車両は、例え、同タイプのエンジンを採用していたとしても、全く毛色の違うモデルになる。800㏄クラスのスクランブラーに使われているL型2気筒のベースは、モンスター796のエンジン。
イタリアンデザインに身を包み、テクニカルに操る楽しさを追求するモンスターに対して、スクランブラーは、自らの歴史であり、60年代後半から70年代前半に成功した「スクランブラー」のエッセンスをプラス。ある種クラシカルな印象の機械的な美しさを持った造形が特徴となっている。
そのデザインに合わせ、エンジンは低中速トルクを重視した味付けで、モーターサイクルが持つ「乗ることそのものの本質的な面白さ」を生み出しているのだ。
そのスクランブラーシリーズに、2017年のミラノショーで発表され話題となった1100が最上位モデルとして加わった。1960〜70年代当時、250、350、450とラインアップしていたスクランブラーであったが、今回のモデル追加で現代のスクランブラーでも400、800、1100と、3つの排気量から選べるようになった。
それも、ただ単に大排気量のモデルが追加になっただけではなく、加速や減速、車体の動きを測定するIMUを搭載。トラクションコントロールやコーナーリングABSなど、むしろ、近年ドゥカティブランドが推し進めてきた「テクノロジーと操る楽しさの融合」を可能とする最新の電子制御を備えたモデルとしての登場である。
OVER1000㏄の重量感を感じさせない軽快さ
試乗会の舞台となったポルトガル・リスボンは、残念なことに朝からスッキリしない天気。イメージしていた気温よりも大幅に低く、次第に雨も降ってきたせいで若干ナーバスになっていた。さらに、追い打ちをかけるように、スタートして30分で叩きつけるような雨。走っていることだけで精一杯の状態だ。しかし、こんな時こそ電子制御の恩恵、ライディングモードが生きてくる。
スクランブラー1100に搭載されたライディングモードは、「アクティブ」・[ジャーニー]・「シティ」の3タイプ。操作は簡単。左スイッチボックスの上下セレクトボタンを下側に長押しするだけで、モード変更可能だ。早速、シティに設定してみる。
シティはエンジン出力が800㏄モデルのスクランブラーと同等レベルまで抑えられ、トラクションコントロールの介入は最大となるので、安全性の高さと滑らかな走りを約束してくれる。まさに、大雨にはぴったりだ。実際、雨と寒さでツラい状況だったのだが、その状態でワインディングに行っても走行中のケアを車体に預けられることで、心配なく走ることが出来た。
その後、天気が回復。求めていた試乗が可能になった。既にワインディングを楽しめるルートを走行していたので、モードをジャーニーに変更する。ジャーニーはエンジン出力はフルで発揮するが、トラクションコントロールは穏やかな乗り心地を演出する介入度。基本的には、このモードでどこでも対応できる万能な印象だ。
それにしても、スクランブラー1100はハンドリングが軽快だ。いや、正確に言うと、ハンドリングを含めた、乗り味、レスポンスなど、様々な状況で軽快で優しい印象だ。
海外メディアのブッ飛ばし系ライダーのライディングにも応えるのだから、タイヤも見た目で決めつけてはいけない。
今回試乗したモデルは、3タイプの1100の中で、ドレスアップ要素の高い「スクランブラー1100スペシャル」。基本的なスペックはスタンダードと変わりはないが、唯一のスポークホイールを採用している。これも軽快さを生んでいる要素のひとつだろう。
スクランブラーの走りの面白さは、何よりも低回転域で発揮される太いトルクが生み出している。低速域での扱いやすさはもちろん、コーナーでそこまで回さずともトルクでしっかりと走らせられるので、技術的に自信がない人でも、乗りこなせている瞬間を感じることができるはず。もし、初めての大型として乗る人で自信がないと言うのであれば、モードをシティから始めればいいのだ。
逆にライディングに自信があるのであれば、モードをアクティブに選択して走れば、スロットルはよりダイレクトに反応し、スポーツライディングに適したトラクションコントロールとなる。もし、それ以上を求めるのであれば、前後にオーリンズ製サスペンションを装着しているスクランブラー1100スポーツだってあるのだ。
これまで800では多彩なバリエーションで独自の世界観を表現してきたが、1100は電子制御を導入することで、受け入れられるユーザーの領域を格段に広げている。それと同時に、ライバルが多い「ヘリテイジ」や「ネオクラシック」と呼ばれるカテゴリーに対し、堂々と参入できるモデルを誕生させたとも言える。日本国内への導入は2018年6月。発売が待ち遠しい1台だ。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高 2190×920×1290㎜
ホイールベース 1514㎜
シート高 810㎜
乾燥重量 194㎏
エンジン形式 空冷デスモドロミック2バルブ
L型2気筒
総排気量 1079㏄
ボア×ストローク 98x71㎜
圧縮比 11 : 1
最高出力 86PS/7500rpm
最大トルク 9.0㎏m/4750rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 15L
キャスター角/トレール 24.5°/111㎜
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前 ブレンボ製320㎜径
セミフローティングダブルディスク
後 245㎜径ディスク
タイヤサイズ 前 120/70ZR18
後 180/55ZR17