ナナハンが連れてきた時速200キロの世界
160㎞/hは250㏄でかろうじて届く速度だった。2ストのヤマハYDSならスンナリ達するのだけれど、4ストのホンダCB72は時間がかかった。しかし、最後にはもうひと伸びしてYDSを抜き去った。180㎞/hは、カワサキ650W1スペシャルだと車体がバラバラになりそうで達しない。むしろ同じカワサキの2ストA7(350㏄)や、4ストDОHCのホンダCB450なら届きそうな勢いだった。全部60年代の話だ。
その当時、世界最速と言われたトライアンフT120Rボンネビルが(実測で)185㎞/h出るという話に、皆んな打ちひしがれた。やはり敵わないのだ。そこに登場したホンダ・ナナハン、つまりCB750Fourは、ボンネビルを打ち負かすために200㎞/hを実現するという。誰も知らない、到達できない世界だった。これはメーカーも同じで、タイヤやドライブチェーンも技術開発を強いられることになる。同時期、2ストのカワサキ500SSマッハⅢも、200㎞/hに耐えうるタイヤのテストに明け暮れていた。
実際、CBは200㎞/hをメーターで読むことは出来た。しかしCB72が160㎞/hに達するのと同じくらい、ガマンと時間が必要だった。ウワサでは国内仕様とカムシャフトなどが異なる対米仕様のK0(ゼロ)だと、もっと容易に200㎞/hに達したらしい。これは道路を含めた「出せる環境」も大いに影響しただろう。左手をFフォークのインナーチューブに沿わせ、タンクの上にこれでもかというくらい伏せた姿勢で、スピードメーターの針が200の数字に届くのを待った。
その遥かな時間は、今でも覚えている。当時の200㎞/hを今の感覚で言うなら、350㎞/hの世界なのかも知れない。
PHOTO:富樫秀明