70~80年代を受け継ぐ名車たち
全てを一からつくり上げたニューモデルもあれば、過去のモデルからイメージ、デザイン、技術を受け継いだオートバイもある。このページでは、70〜80年代のオートバイから「何かを」受け継いだオートバイの例を少しだけ紹介してみよう。
グッツィ独特の世界を気負わず日常で楽しめる
今のモト・グッツィと言えば、ネオクラシックのV7シリーズが人気だ。かつての名車、V7をオマージュしたラインナップで、そのオシャレなルックスやコンパクトで取り回しやすい車格などもあって人気のモデルになっている。しかも、なかなか奥の深い走りのテイストを秘めている。
そのルックスが生み出す雰囲気だけでなく、エンジンフィール、走り、操縦感覚にいたるまで、古いモトグッツィのテイストを匂わせる。オンザレール感覚の高速安定性と身軽なフットワークなど、グッツィならではの車体レイアウトが生み出す、アクでもあり魅力でもある個性を楽しめるのだ。V7シリーズの話を冒頭で長々書いたのは、このV9シリーズがそれと良く似た車体レイアウトをしているからだ。
さて、このV9ローマー、エンジンはクランクケースをそのV7ベースで開発。シリンダーから上を完全新作した853㏄・2バルブで性格はトルク型。55馬力のパワーを6250回転で発揮する。数字だけ見ると非力だが、カワサキのW800やトライアンフのボンネビルT100などと似たスペック。V7シリーズ同様、力量よりもそのパワーフィールに重点を置いた造り込みだ。
外観デザインは先に登場しているV9シリーズモデルのボバーがカスタムチョッパーの雰囲気を醸し出しているのに対し、スタンダードなクルーザールック。タンクデザインは同じで、かつてのV50のデザインを意識したエッジのあるティアドロップタイプだ。
車格はこのクラスにしてはかなりコンパクトで、400と言っても通用しそうなほど。深いフェンダーやフォークを長く見せるデザインは典型的なクルーザールックを強調するため。V7シリーズとはまったく違う乗り物のように思えるが、走ればこれがしっかりモト・グッツィなのだ。
このような姿カタチをした小柄なバイクながら、ゆったりと高速コーナーに入ればまるでレールに乗ったような安定感がある。重心は低く、切り返しは軽い。それにエンジンフィールも似ている。いや、排気量が大きい分、ドスの利いた排気音やトルク型ツインのピックアップも強烈だ。
おそらく3000回転以下あたりを使った追い越し加速など、グッツィの「意地」とも言うべき、身震いを荒々しく乗り手に伝えながら、スポーツスターの883などよりずっと力強いダッシュをする。シャフトドライブなので、コーナリングや強引な切り返しでラフにスロットルを操作すると、ハブギヤがカコッと音を立てて騒々しかったりするが、基本的にはクルーザーを意識させず、ふつうのコミューターとしても走れたりするのだ。
このローマーは、モトグッチのアク、コク、味はしっかりと色んなところで匂わせつつ、街でも普通に楽しめるモデルなのだ。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高 2240×865×1165㎜
ホイールベース 1465㎜
シート高 785㎜
車両重量 199㎏
エンジン形式 空冷4ストOHV2バルブV型2気筒
総排気量 853㏄
ボア×ストローク 84×77㎜
圧縮比 NA
最高出力 55PS/6250rpm
最大トルク 6.3㎏-m/3000rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 15ℓ
キャスター角/トレール NA
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ320㎜ディスク・φ260㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 100/90ー19・150/80ー16
V9に流れる名車のDNA
V9のルーツとして欧州でその名が挙がっているのが、軽快なフットワークが評価されていた1980年代のミドルクルーザー、V50C。写真はそのカスタム車だが、タンクの形状や全体のシルエットは、長い年月を経ても現代に受け継がれているようだ。
V50C (1983)