既存の概念を覆すケタ外れのパフォーマンス!
HP4レースがいかにすごいマシンであるかは、そのスペックや車両構成に注目すれば疑いの余地はない。
215PSという最高出力は、ベースのS1000RRから16PSアップで、WSBKを闘うBMWのワークスマシンに劣ることわずか5PS。各部の公差も厳しく管理され、エンジンはワークスマシン同様、熟練メカニックによって組み上げられる。
そして、車重はガソリン満タンで171㎏。ノーマルから36㎏超も軽量化され、なんとワークスマシンよりも8㎏も軽い。モトGPマシンと比べても4㎏重いだけである。新しいHP4レースは保安部品を持たないサーキット専用車とは言え、この軽さには驚かざるを得ない。
軽量化のために、燃料タンクをアルミ製とし、チタンボルトまで投入されているが、何より、フレームや前後ホイールをカーボンファイバー・CFRP製としていることが、HP4レースの大きな特徴となっている。
ポルトガルのエストリルサーキットで行われた今回の試乗会でも、BMWがこのカーボン素材の開発に積極的に取り組んでいることが、ひしひしと伝わってきた。
HP4レースにまたがってみると、少々シートが高く、ステップも後退していて、ハンドル位置も低め。ただ、その違いはさほど大きくなく、S1000RRから乗り換えても違和感はないし、サーキットではピッタリくる。シート高は3段階に調整でき、標準の中間位置でもノーマルより少々高い程度。市販のSSとしても標準的な水準だ。
そして、その軽さが尋常でないことは、車体を足で支えただけでわかる。実際、車重は250㏄スポーツ並みでしかないのだ。
ピットロードを走り出すと、市販のスーパースポーツとは異次元の乗り物であることを痛感させられる。アクラポビッチのレーシングマフラーからは、上質でスムーズなS1000RRとは違って、弾けるようなサウンドが放たれる。リアサスは私の体重が軽いこともあって硬質で、ゆったり感はない。
軽くスラロームすると、ステアリングには、これまで経験したことのない軽さとレスポンスが感じられる。思わず、そのシャープさに気が引き締まる。心して乗らねば…。
ところが、実際にコースインしてみると、不穏な挙動は一切なく、安心感を通り越し、キツネにつままれたような気分になる。どこまでも従順で、確実に止めて、曲げることができる。立ち上がりのリアのスライドによって挙動が乱れることもない。
これは軽さの恩恵だけではないはずだ。おそらくは、フレームやホイールがカーボン製のため、長きに渡って親しんできた金属製のものとは、まったく違った特性を示しているからなのであろう。
固くて脆いイメージもあるカーボンだが、実際はしなやかなのだ。しかも、しなやかであっても、バネのように変形が繰り返されることはなく、元の状態に戻る。それに加えて、カーボンの繊維の方向によって、剛性バランスをアレンジすることもできるのだ。
フレームは十分な捻り剛性を持ちながら、横曲げにはしなやかさを発揮し、旋回性の高さに貢献。また、ホイールはリムのしなりで要らぬ挙動を吸収してくれているようだ。
そして、エンジンはS1000RRよりも低中回転域が強力なうえ、淀みなく立ち上がり、高回転域がフラットに高トルクで、コントローラブル。レーシングエンジンとして理想的な特性と言っていい。
今回の試乗は、HP4レースというマシン自体の素晴らしさに加え、BMWが車体構成部材の新世代素材としてカーボンファイバーに注目していることも非常に印象的だった。
SPECIFICATION
全長×全幅×全高 2070×777×1193㎜
ホイールベース 1440㎜
最低地上高 NA
シート高 831㎜
車両重量 171.4㎏
エンジン形式 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 999㏄
ボア×ストローク 80×49.7㎜
圧縮比 13.7-13.9
最高出力 215PS/13900rpm
最大トルク 12.2㎏-m/10000rpm
燃料供給方式 FI
燃料タンク容量 17.5ℓ
キャスター角/トレール 65.5度/NA
変速機形式 6速リターン
ブレーキ形式 前・後 φ320㎜ダブルディスク・φ220㎜ディスク
タイヤサイズ 前・後 120/70ZR17・200/60ZR17
TEXT:和歌山利宏 Photo:BMW、和歌山利宏、南 孝幸