バイクがもたらす特別な気持ち、忘れていた日々が蘇る
レインボーブリッジを前にバイクが信号待ちをしていると、バイクが一台、二台と連なり始めた。メーカーもカテゴリーもさまざまだが、行先は同じなようだ。隣についた若者は、スマホのナビを心配そうに見つめている。きっと他県ナンバーだろう。
海上のループへ入ると、高層マンションの灯りが流れていく。暑くもなく、寒くもない。大きなRを描きながら、いつの間にかできたバイクの群れは、同じ角度で旋回する。
ミラーをのぞくと、しっかりと千鳥走行が形成されていて、少し可笑しくなった。マスツーリングのリーダー気分だ。二台後ろに水平対向エンジンがチラリと見え、やっぱりね、と安心する。
19時ジャストの到着。会場には、バイクがあふれていた。観覧車とフジテレビの特徴的なビルが奥に見え、ゆりかもめが宙をゆく。お台場らしい景色の中で、初めて訪れたいつの日かの大黒PAを思い出す。
試乗車が次々と発進し、来場者とすれ違う。
会場は思っていた以上に静かだ。排気音は絶えず聴こえているが、イベントが行なわれているわけでもなく、騒がしい声はしない。
ただ不思議な高揚感が会場全体から感じ取れる。静かだけど熱い。日本人は気軽に周りの人たちと語らったり、盛り上がる習慣は持たないものの、仲間意識のような雰囲気に満ちている。それが何とも心地いい。
「久しぶり」という声がよく聞こえてくる。数カ月ぶり、もしくは数年ぶりに会う場として、土曜の夜のBMW Group Tokyo Bayが選ばれたのだろう。
僕も「おお、久しぶり」と他社の先輩たちから声をかけられる。
「バイクですか?」
「あたりまえじゃん、最近どう?」
みな首からカメラを吊り下げて、一応仕事でやってきたものの、日中のプレス向け試乗会などで会うときとは気分がちがうようだ。
コーヒーを片手に会場のバイクを見て回った。まさにオールジャンル。原付からリッタークラスまで、国内外の車種が入っては出ていく。運営の話によれば、BMWが約6割、その他が4割程度とのこと。
Night Rider Meetingは今回で6回目となる。感触的に過去最高の動員と、現地スタッフが答えていたが、駐輪場の誘導は手慣れたもので、訪れるバイクが長時間待たされることもなかったようだ。
特に何をするでもない。だけど、「夜」というのがいい。
次回の開催日程はまだ定かではないが、これまでのペースなら秋ごろ、9月か10月だと現地のスタッフは話していた。
学生時代、時間とエネルギーを持て余しながら、何をしていいか分からず、ただただ夜、バイクに乗っていた。そんな昔のことをふと思い出す。
現に、昔の自分を見ているような250cc乗りの若者たちがここにはあふれていた。
会場から出ると、一台のバイクがゲートブリッジ方面へと突然ウインカーを出した。その気持ちよくわかる、何だか直帰するにはもったいない、いい夜だ。
文・写真:西野鉄兵