スポーツ性能を高めてモデルチェンジ。守備範囲を広げた充実進化!
YZF-R25が日本でデビューしたのは2014年12月。クラストップの動力性能と市街地走行、ツーリングでの扱いやすさで一躍人気モデルとなった。
だが、2017年5月に、かつてのレーサーレプリカのようなCBR250RRが、2018年2月にはフルモデルチェンジでスポーツ性能に磨きをかけた新型ニンジャ250が登場。
R25は実際の乗りやすさ、速さでは依然としてトップレベルにあるものの、装備やスペック面の優位性が消え、存在感は徐々に薄れ始めていた。
それだけに、新型R25はCBR250RRを超えるハイスペックモデルになるとも噂されていたが、ヤマハの答えはサーキットでの戦闘力に的を絞った先鋭化ではなく、普段使いでの乗りやすさを保ったままスポーツライディング適性を高めるという正常進化だった。
フロントカウル先端にM字型ダクトとゼッケンスペースを配し、サイドカウルやタンクのデザインも一新。ハンドルもちょうどバー1本分に相当する22㎜低くなり、少し離れて見ると同社のGPマシン・YZR-M1を思わせる精悍なルックスが目を惹くが、何より気になるのは倒立フロントフォークの新採用でハンドリングがどう変わったか。
結論から言うと、新型は対応する走りのステージがスポーツライディング側に大きく広がった。サーキットでのラップタイム短縮の切り札になることはもちろん、公道レベルでも接地感の高さ、操作に対して車体が反応するまでの速さをしっかりと体感できる。
倒立フォークのメリットはインナーチューブとアウターチューブの嵌合部が長いことによって、フォークシステム全体の剛性が高められ、ブレーキングやコーナリングで大きな荷重を受けてもインナーチューブのたわみ、システム全体のねじれが起きにくいこと。加えて、バネ下重量が軽くなるので路面追従性も上がる。
スーパースポーツがこぞって倒立フォークを装備している理由はここにある。難点は高価になることだが、前モデルとの価格差はABS付きで3万円少々。性能差を考えれば納得のコストアップだ。
従順だが「本気モード」のポテンシャルもトップレベル
実際に走らせてみると、ハンドル位置が下がったことで体重が乗せやすくなり、低速域での落ち着きが少し増している。
渋滞路でのふらつきが抑えられるので、市街地では好ましい変化だが、それを感じるのは30㎞/h程度まで。クルージング速度域では前モデル同様に軽快なハンドリングになる。
10%程度の急な下り勾配でフルブレーキングして一気にフルバンク、という走り方も試したが、ブレーキングでフロントサスペンションが一気に沈む前モデルに対し、新型はジワッと沈んでストロークの奥でグッと踏ん張る。
しかも剛性が高く、ブレーキを残したまま寝かし込んでもフロント回りがバタつくことがない。前後サスペンションが踏ん張ることでフルバンク中の安定性はさらに高まり、バンク角も前モデルより増している。
こう書くと、真価を発揮するのはスポーツライディング時だけと思われそうだが、フロントタイヤの接地感が掴みやすく、少し乱暴に操作しても車体姿勢を乱しにくいという特性はビギナーにも優しいし、市街地での乗り心地も前モデルと乗り比べると少し硬くなったかな、という程度の違いだ。
エンジンは基本的に前モデルから変更なし。低中回転域の力強さによりゼロ発進が楽で追い越し加速も速く、高いギアでトコトコ走るのも得意。
中回転域からの全開加速ではフラットに速度が乗っていくのでエキサイティングさには欠けるものの、実際の速さはトップレベル。
カウルデザインの変更で空力抵抗が減り、最高速がアップしているというから、レースシーンでもCBR250RRの独走を許さないはずだ。
普段は従順だが、いざとなれば牙をむいて相手を倒す実力の持ち主。それが新型YZF-R25なのである。
文:太田安治/写真:南 孝幸・森 浩輔