手の内にある車体とエンジン。だから「攻め」の走りもできる
アドベンチャーというカテゴリーが250㏄でも過熱化するなか、ヤマハはマウンテントレールと謳う生粋のオフロード車、セロー250およびツーリングセローという布陣で、冷静に対抗する状態が続いている。
1985年登場のロングセラーモデルだが、2005年に車体をトリッカーベースに刷新し、空冷SOHC2バルブ単気筒エンジンも排気量を225→250㏄化。改良を重ねつつ、いつの時代も根強くファンに支持されてきた。
排ガス規制によって2017年に一旦生産終了となっていたが、昨夏レギュレーションをクリアさせて再デビューしている。
新型はロングタイプのリアフェンダーに点灯面積の広いLEDテールランプが組み合わされるなどリアまわりを一新。エンジン・クランクケース左前方には、蒸発ガソリンの外気排出を低減するためのキャニスターが備わった。
しかし全体的なシルエットは昔のままで、慣れ親しんだセローそのもの。今回乗ったツーリングセローには、ウインドシールドとナックルガード、アルミアンダーガードや大きなリアキャリアが備わっているが、これもまたお馴染みの仕様だ。
走りの持ち味も代々変わらない。低速からトコトコと粘り強いトルクを発揮し、クラッチミートに気を遣う必要がまったくなく、半クラを使わずとも歩くような速度で走ることが可能。51度ものハンドル切れ角が確保されているから自在に操れる。
混雑した市街地もスイスイ軽快に走るが、やはりマウンテントレールの本領を発揮しに、森へ分け入って楽しみたい。
トレッキングバイクとして最高の相棒となることは、すでに語り尽くされているが、ダートをノンビリ走るだけでなく、俊敏性や瞬発力も持ち合わせているから、その気になればアグレシッブなオフロードライディングも充分に楽しめることもセローの大きな魅力。
オーバースペックではない手の内にある車体とエンジンだから、行けるかどうか確信が持てないようなシーンもエイヤっと、思いきってトライできてしまう。シングルトラックを外れて崖を登ってみたり、丸太越えであったり、遊び感覚で挑めてしまう。
たとえ失敗したって大したことにはならない。前後サスペンションがソフトに衝撃を吸収し、底付きしようが大きな反発はなく、車体に力を分散させてタフに持ち堪えてしまう。
崖を這い上がる際や倒木を乗り越えるときにスキッドプレートを強打させても、セミダブルクレードルフレームは衝撃をすべて受け止めてしまうのではなく、たわむようにして逃がしてくれる。そんな柔軟さのあるシャシーが、オフロードでのファンライドで、とても優位に働くのだ。
足着き性の良さも扱いやすさに大きく貢献しているし、道なき道に入り込み、身動きできなくなったらスタックバーで引っ張り上げればいい。これぞまさに冒険バイクである。