クアルタラロはどーなる? ドビツィオーゾは? そしてロッシは?――なんて土曜のレポートを結んだMotoGP第4戦・スペインGPですが、オープニングレースのMoto3クラスのレースからくぎづけになってしまいました!
このスペインGPは、Moto2クラスで長島哲太が自己最高の7位、そしてMotoGPクラスでは、中上貴晶が4レース連続のトップ10フィニッシュを達成!
それでも、このスペインGPのハイライトはMoto3クラスでしょう。
Moto3クラスっていうのは、4ストローク250ccマシンによる軽量級クラス。このクラスは、日本人ライダーが5人も参戦していて、まだ記憶に新しい、2019年シーズンの開幕戦で優勝したのは鳥羽海渡(ホンダTeamアジア)でしたね。
このレースで光ったのは、Moto3参戦5年目になる鈴木竜生(すずきたつき=SIC58スクアドラ・コルセ)です。
本誌でもなんどか取材させてもらっている21歳で、Moto3クラスでの5年って、もう堂々たるベテランの域。これまで何度も惜しいところを走りながら、転んだり転ばされたり、超激戦クラスで揉まれ続けていて、決勝レースの最高位は4位、いまだ表彰台はなし。いつ表彰台に乗るか、いつ勝つか――ずっとそう期待され続けてきたライダーですね。
タツキ(こう呼ばせてもらいます いつもの親愛の情的呼び捨てです・笑)は、ここヘレスは得意なコースで、昨年のスペインGPも6位入賞。今年は開幕戦、それに前戦アメリカズGPと転倒でレースを失っていますが、アメリカGPはレース序盤から先頭集団を走り、ラスト5周まではアーロン・カネット&アンドレア・ミーニョというチャンピオン候補を従えてトップを快走! しかし、その後なんと単独で転倒! スリップダウンで体へのダメージはなさそうだったのに、なかなか起き上がらないほど精神的にガックリきていたのが印象的でした。
けれど、タツキの走りは明らかに変わっていました。これまでも、トップグループを走ることは度々あったし、大集団の中でトップを走ることもありましたが、すぐに集団に飲まれ、最終ラップに入るころには表彰台圏内なのに、終わってみれば6位とか8位とか、そんなレースが多かったんです。
けれど、アメリカズGPでは3列目スタートから好スタートを見せ、序盤にトップグループに加わると、5周目くらいからはトップ争いを展開。ロングストレートでも誰かのスリップにつきすぎずに、ひとりガバッとラインを変えてブレーキングで抜き去る――このパッシングパターンをモノにしているように見えました。
その後もいつものように集団に飲まれず、トップ争いの台数を減らすようにスパートして後半の勝負に持ち込んだのに……っていう局面での転倒だったのです。
そこを猛省したんでしょう。タツキはヘレスで予選2番手を獲得するや、決勝レースではホールショットを獲って序盤からグイグイ前へ。ツイスティなヘレスの抜きにくさを考えて、どんどん前に出る作戦だったようです。オープニングラップなんか、2番手以下に1秒近く差をつける、抜群の好スタートでした。
「レースは、このコースがすごくパッシングしにくいことを知っていたから、できるだけずっとトップにいたいと思っていて、ラスト5周くらいまではほぼ作戦通りに走れてはいたんです」とタツキ。
レースはタツキを先頭に、チームメイトのニッコロ・アントネッリや、ロレンツォ・ダラポルタ(レオパードレーシングHONDA)、前戦アメリカズGPを勝って、ここまでランキングトップを走るアーロン・カネット(MAXレーシングKTM=あのマックス・ビアッジがチームオーナーです)、セレスティノ・ビエッティ(SKYレーシングVR46=つまりバレンティーノ・ロッシのチームです)らがトップを狙い、いつものMoto3クラスのように、10台以上の大集団がタテ長にトップグループを形成。相変わらず、ワンミスで順位が10も落ちてしまうような、Moto3クラスらしい超接近戦でした。
それでもタツキはレースのほぼ8割がた、トップを走行。何度もパッシングを受けて順位を下げますが、悪いときのレースのようにそのままズルズルと順位を落とさず、そのたびに抜き返すファイトを展開。ここでも、前戦アメリカズGPで効果のあった「スリップにつきすぎずにライン変えてズバッと抜く作戦」が当たってました。
ここんところ、レース後にタツキと連絡を取ってみると――。
「前走ってて、やっぱり抜かれるじゃないですか。そこで様子見てなんてやってたらすぐに置いて行かれちゃうから、とにかくグループの先頭に居続けることだけ考えてました」(タツキ)
レースはずっと、15台ものマシンがつながる大行列の展開。タツキは抜かれても抜き、また抜かれても抜き返し、というファイトを見せ続けます。
レオパードの2台が前に出たり、カネットが前に出たり。ラスト5周くらいには大行列の台数は10台くらいに減ったかな、いやまた15台つながったか、なんて展開になりながら、ずっと5~6番手に控えていたアントネッリが前へ。ここでもタツキは一時的に6~7番手に順位を落としますが、そのまま遅れずにチェイスします。
ラスト4周くらいになると、1台また1台と転倒で姿を消し始め、最終的には6台ほどのトップ争い行列へ。ラスト2周になるとビエッティがスパートしますが逃げられず、アントネッリ→ビエッティ→コンフェイル→カネット→タツキ→ダラポルタ→ミーニョといったオーダーで最終ラップへ。
タツキはすぐに4番手に上がると、逃げ始めたアントネッリとビエッティを追ってコンフェイルをパスして3番手、コーナーあと4つ、ってあたりでビエッティをパスして2番手に浮上!
そのままアントネッリにも襲い掛かりますが、抜くまでには至らず、2位でフィニッシュ! 惜しくも優勝は逃しましたが、初表彰台を獲得、チームに初の1-2フィニッシュをプレゼントしました!
「こないだのアメリカズGPでは、ホントに表彰台まで、そして優勝まであと一歩だったから、今回の表彰台はすごく重要なこと。僕にとってもそうだし、チームにとってもそう。なんたってここヘレスは、マルコ・シモンチェッリがグランプリで初めて優勝した(2004年/GP125クラス)サーキットだから。チームにとっても1-2フィニッシュなんて、すごく誇らしいです」とタツキ。
タツキが所属する「SIC58スクアドラ・コルセ」は、故マルコ・シモンチェッリさんのお父さん、パオロ・シモンチェッリがオーナーを務めるチーム。タツキはチーム入りしてしばらくは、パオロさんちに住まわせてもらったり、毎晩のようにご飯に連れて行ってもらったり、本当にファミリーの一員、って付き合いをしていました。もちろんタツキ、英語もイタリア語もペラペラ。
そしてタツキは、なるべく先頭で周回するという作戦がズバリ当たって、後続を引き離せないまでも、抜かれたら抜き返すファイトを見せてくれました。今までと違うのは、ラストラップにかけてのポジション取りの逆算と、スパートのタイミングだったでしょうね。
「作戦通り、とにかく全力で逃げたんです。ハードブレーキングに自信があったし、それで何回もパッシングできた。ラスト5周くらいまでは上手くいってたんだけど、ラスト2周くらいの6コーナーでミスをしてちょっとふくらんでしまって、アントネッリやビエッティ、カネットに抜かれてしまった。それで、最終ラップに全力でみんなを抜きにかかって、2位表彰台を獲れました! もう、シャンパンかクラッシュか、ってレースでした。すごいうれしい!」
チームオーナーのパオロさんをはじめ、チームの喜びっぷりがすごかったですね。もう、首取れちゃうんじゃないかってくらい首振ってたし、パオロさんは大泣きしていたそうです。
「パオロはきっといま、泣いちゃってるだろうな。2年前にこのチーム、このファミリーに来て、たくさんパオロや彼の家族と一緒にいました。ずっと表彰台に乗りたいと思っていたけど、てこずってました。だから、この表彰台はうれしいし、チームのみんなに感謝したい。パオロには、こんなビッグチャンスをくれて、本当に感謝しています。それでもまだレースは続くから、最終戦のバレンシアまで全力で戦っていきます」
レース後にタツキにメッセージを入れると、たくさんのメッセージがあるだろうに、きちんと返信をくれました。
タツキからのメッセージには、こうありました。
「まだ勝ったわけじゃないから、このまま気を引き締めていきます!」
タツキ、次は表彰台の一番上にいる姿、見たいぞ!
■MotoGP第4戦 スペインGP
Moto3クラス 正式レース結果
1 ニッコロ・アントネッリ ホンダ 39m30.327s
2 鈴木竜生 ホンダ +0.242s
3 セレスティノ・ビエッティ KTM +0.305s
4 アーロン・カネット KTM +0.472s
5 アルバート・アレナス KTM +0.563s
6 鳥羽海渡 ホンダ +1.133s
7 ヤコブ・コンフェイル KTM +1.187s
8 ロレンツォ・ダラポルタ ホンダ +1.291s
9 小椋 藍 ホンダ +1.430s
10 アンドレア・ミーニョ KTM +1.441s
写真/Honda motogp.com SIC58 Squadra Corse 文責/中村浩史