うーん、実にいい香りだ。これは決して「におい」ではない。
バイクは見て触って乗ってナンボなのに、排気ガスの香りでワクワクになるなんて!まさに想定外のツーリングレッスンとなった晴れときどき曇りの水曜日。
ロケーションは東京の奥多摩周遊道路を使うルート。昔から緑が豊かで、クルマ・バイクの交通量も少ない平日だから気分は上々。「KRS」こと柏秀樹ライディングスクールは、バイクジャーナリスト歴40年以上の柏秀樹がライディングレッスンで延べ2万人以上教えてきた経験をベースに、KRSを受講してくれるライダーに「安全安心快適に速攻で役立つアドバイス!」がコンセプト。だが、悩ましくも嬉しい2スト・エンジンの香りのために、スクールという仕事以前に久々のワクワクを味わってしまったというわけ。
2ストの香りは山口県岩国米軍基地のアメリカ人の友人とバイク談義した高校時代から好きだったから、実に感慨深い。
常連の受講生が乗ってきたその2ストバイクは、絶版バイクでダントツ人気のホンダNSR250R。そんな2スト・レーサーレプリカを「みなさーん、このバイクの後ろだとにおいが気になるかも」と事前に説明。そして彼がまず走り出して私が後ろにつく。走りを見せてもらうためだ。
ふんふんなるほど!この受講生もやはり問題があった。2ストだから、というのは関係がない。直線はピーっと高回転で加速して、カーブはゆっくりトロトロ。略して「直ピー・カートロ」のメリハリはまずまずだけど、フォームがお地蔵さんみたいに硬い。そりゃお地蔵さんのままじゃ、血行がけっこう悪くなるだけ。というか疲れが早くなることと、手の力が抜けないとイザという時の危険回避力も低下しやすい。なので積極的に頭をイン側にいれるリーンインにしたり、車体だけ傾斜させてライダーが起きているリーンアウトにしたり、お尻と頭を少しイン側にずらすハングオフにしたり、変幻自在なフォームができるといいね、とアドバイス。
この4つのフォームはできればいいってもんじゃない。ゆっくりと息を吐く呼吸と、ぎゅーっと力を入れてからハンドルグリップがユルユルになるような脱力をカーブ手前やカーブの途中でも余裕でできることを狙う。それをやりながら自分の車線のど真ん中を常にトレースすること:つまりセンターキープメソッドの略であるCKMもセットだからややこしい。これは簡単そうで実は意外に難しい。ついついカーブ手前でイン側に寄ってしまうし、カーブ出口で外にふくらんでしまう。呼吸も止まってしまう。完璧なCKMは難しいから無理に飛ばさなくても走り甲斐があるし、対向車がセンターラインを越えてきても正面衝突を避けやすいというメリットがある。
呼吸と脱力をしながらCKMをする、これぞ具体的な「モノサシ」。このモノサシをちゃんと励行してこそちゃんとスポーツになる。息が止まって肩やひじや手がガチガチになる走りなんか効率が悪いし、度胸だけで走りがなんとかなるものじゃない。脳に刻むべき大事な走行データを記録してくれなくなるよ。頑張りすぎる走りは入力データが飛んじゃうのだ。
バイクをサイエンスせず、スピードやバンク角ばかりに気を取られていると、何を、どんな手順でやれば良いの?なんて疑問が浮かびにくくなるかも。結局、度胸だけでは10年後も10万km走ってもナーンにもそこから生まれるものはない。慣れで飛ばせるだけ。上手いわけではない。だから危険性は増えることがあっても減ることはない。
アドバイスをするにつれてちゃんとした走りに変わっていくNSRの受講生。ひとしきり走って休憩したら「僕のNSRに乗ってみてください」とも言われて、実は内心嬉しいわけで。プロから見て問題点があれば指摘して欲しいということで、エンジンや駆動系はかなり程度が良くて感動したけど、特にフロントサスはちょっと整備してあげてね、とアドバイス。サスペンションの中のオイルって相応の距離で交換しないと路面からの情報が正しく伝わらなくなるからね。彼の場合、ブレーキ操作もちょっとラフなのよね。動きがちょっと渋いサスとラフなフロントブレーキ入力はちょっと危険。そこもどのように改善するか具体的な方法をアドバイス。
ピッカピカのドカに乗ってきた受講生からも休憩時に「乗ってみて!」と言われたので遠慮なくグルグルのUターンチェックの後に乗せてもらいました。カーブではシュワっと頭がイン側に入るからCKMしようにもグイッとイン側に入ってしまう。ステアリングヘッド周りの軽さがとても気持ちが良いね。フロント19インチの私のビッグオフバイクとは曲がり方が根本的に異なるし、ちょいと開けただけでロケットのような加速をするからやはり、心して用心深く走らないと危険が危ないよ。
基礎ができればポテンシャルはちゃんと引き出せるし、モノの価値がよりわかるようになります。これが大事なのよ。何はなくても基礎の御嶽山?
ちゃんとレッスンで基礎力を充実させると走りはますます広くて深くて楽しく、もっと楽チンになるのです。これ、大事です。
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