今までにない新しい概念の3気筒スポーツの誕生
2012年、ヤマハが新開発した3気筒のCP3ユニットは世界各国のモーターショーで展示され、近い将来、このエンジンを搭載した新しいモデルが出ることは誰もが予想していたことだった。
MT‐09が完成形として現れる1年前のことだ。
「きっとスーパースポーツに搭載されるはずだ」「いや、世界で人気が高まっているんだからアドベンチャーに搭載されるんじゃないのか」、世界中のメディアが様々な観点からヤマハのNEWモデルの完成形をイメージしていた。
しかし、ヤマハが出した答えは、その予想したカタチのどれとも当てはまっていなかった。
モタードのような雰囲気があるが、ストリートファイターのようにも見える。
すでにMT‐01やMT‐03などのモデルが存在し、その名称を継いでいる3番目のMT。
しかし、それは誰も見たことがないカテゴライズされないオートバイだった。
そして、「只者」ではないその姿、存在感を感じたのは誰よりもユーザーだった。
MT‐09の登場で、ヤマハは長いトンネルから抜け出し、快進撃を見せることになるのだ。
珍しいだけではない独創のテクノロジーだけが
新感覚のスポーツモデルを生む
ヤマハが提唱する「クロスプレーンコンセプト」に基づく設計思想で開発された3気筒エンジン。
それまでも3気筒モデルのオートバイが存在しなかったわけではないが、MT‐09の誕生で、単に珍しいものではなく目的のための3気筒エンジン搭載が理解されることになる。
MT‐09のメカニズムは「軽さ」「スリムさ」を中心に考え、どうすればストリートで、いつでも楽しめるバイクを造ることができるのか、という目標のために最新技術を惜しみなく投入されている。
パワーだけを追求するのであれば、高回転型の4気筒ユニットで十分なのであるが、MT‐09に求められたのは、ライダーの意思に即座に反応でき、いつでも取り出せる潤沢なトルク。
そこで採用されたのが、3気筒エンジンというわけなのだ。
さらに、3気筒エンジンを採用することでエンジン幅はスリムにでき、エンジン重量も当然軽量化できる。
同じヤマハのFZ8の4気筒エンジンと比べると10㎏も軽いのである。
それだけでライダーへの負担はかなり減る。
ヤマハがすごいのは、決して3気筒が当たり前でなかった時代に、オートバイとしてもカテゴリーのない新しいモデルを作り出し、それを世界のライダーに理解され、支持されたことだ。
過去を振り返ってモデルを造るのではなく、求められるものを新たに開発し、自らが市場を生み出したのだ。
2015年の国産モデルはトップ3を〝MT〟が独占
2014年に登場したMT‐09は、これまでの既成概念を打ち破ったモデルとして、話題になっただけでなく、「誰もが操れて楽しめるのに、エキサイティングな走りを併せ持つ」モデルとして一気に人気を獲得。
2014年の販売台数は2556台と251㏄以上のモデルでトップセールスを記録した。
同年の7月に発売を開始した2気筒のMT‐07、そして、翌年にはMT‐09のプラットフォーム展開モデルとしてMT‐09トレーサーも登場し、MTシリーズの勢いは止まらなかった。
翌2015年には、追加カラーを設定しただけであったが、セールスはさらに勢いがつき、MT‐09、MT‐09トレーサー、MT‐07、の3機種が、国産モデルの小型二輪(401㏄以上モデル)トップ3を独占してしまった。
2016年には、ABS仕様車のみだが、トラクションコントロールを採用し、さらにユーザーの満足度を高めていく。
MT‐09の人気は当然日本だけではなく、欧州では「ダーク・サイド・オブ・ジャパン」のキャッチフレーズのもと、ヤンチャな雰囲気を打ち出して、ヤマハの新しいイメージを構築。
ミラノのファッション・ウィークでは、ベルギーの著名なデザイナーである、ダーク・ビッケンバーグのファッションショーとコラボして、写真のようにタキシードを来たライダーがMTに乗ってランウェイサイドを埋め尽くすという、驚きの光景も見られた。