月刊『オートバイ』で連載中の菅生雅文氏による連載ツーリング紀行〈ROLLING LIFE〉。その第1話「変わらないもの」を全3回(前編・中編・後編)に分け、公開します。以下、アウトライダー菅生氏の紀行文です。
画像: アウトライダー菅生雅文のツーリング紀行〈ROLLING LIFE〉第1話「変わらないもの」前編/裏磐梯(福島県)

改元にともない、史上初の10連休となった今年のゴールデンウィーク。多くのライダーがツーリングに出かける中、僕も野営道具を積載して高原へ。
昭和から平成とバイクで旅してきて実感した、令和を迎えても変わらない想いを綴る。

道はつぎはぎだらけだが、だから走り甲斐がある

山形・福島県境の白布峠へと向かって、ぐいぐいと標高を上げ続ける。西吾妻スカイバレー。海抜1000メートルを軽く超えている。ゴールデンウィークも明日で終わりだというこの季節に、斜面には残雪。革ジャンの首元から飛び込んでくる冷気が気持ちいい。

振り返ると会津地方のシンボル、磐梯山が見える。平野部は見当たらず、いくつもの山々がつらなるそのふもとには桧原湖が光る。スカイバレー。「空」の、「谷」。よく名づけたものだ。僕がこの道を初めて走った昭和の終わりから、このダイナミックな眺めは変わらない。変わったのは、かつてはここが有料道路だったということと、平成の真ん中あたりで無料化されてから、ずいぶん路面が荒れたことだ。

画像: 道はつぎはぎだらけだが、だから走り甲斐がある

日本中の山岳ワインディングロードは今、どこもこんな感じだ。少子高齢化社会に対応するため社会保障費は増大する一方。交通量の少ない山岳路だもの、補修に回す予算は優先順位が下がっても仕方ないのだろう。

道が荒れているなら荒れているなりに、走り方を工夫すればいい。どう走れば安全にライディングを楽しめるか。コーナーのライン取りも、教科書通りではよろしくない。つぎはぎだらけのアスファルトで、どのラインを通り、どんなリーンをすべきなのか、瞬時に判断して次のコーナーへ。

うまく走ることができれば、それは喜びにつながる。道の良し悪しは関係ない。どんな状況であろうと、前向きでないとね。今日だってこんな晴天の日に、午前中からバイクに乗れている。それだけでしあわせだ。しかも昨晩お世話になったキャンプ場に、重い荷物は置いてきている。あまりに気持ちのいいキャンプ場だったので、今夜も連泊するつもりなのだ。

リアが軽いと心も軽い。僕は買ったばかりの愛車にムチを入れ(でもまだ新車なので回転数は5000以下で)、西吾妻スカイバレーの谷から空へと駆け上がっていく。

退屈な慣らし運転を贅沢で楽しいものへ

画像1: 退屈な慣らし運転を贅沢で楽しいものへ

今回は、先週納車されたばかりのヤマハXSR700の「慣らし」を兼ねたツーリングでもある。

慣らし運転は、最初の1000キロをただダラダラと低回転で走ればいいというものじゃなく、1速からトップギアまで、それぞれのギアにそれなりの負荷をかけながら加減速し、発進・停止し、またサスペンションや車体各部にも適度な振動を与えてやるのが好ましいものだと、僕はそう考えている。

であるなら、トップギアの使える高速道路をある程度走り、下道に降りてからはストップ&ゴーを強いられる街なかを抜け、ワインディングロードで中低速での開け閉めを繰り返すようなツーリングこそが「慣らし」に最適なのではなかろうか。

裏磐梯ならば、自宅から2泊3日で行き来して、走行距離がちょうど1000キロになりそうだという計算もあった。高原から山岳路までライディングを楽しみ、夜は湖畔でキャンプをしながら月明かりに照らされた愛車を眺める。

なんて贅沢な「慣らし」だろう。僕はスロットルをじわりと開き、XSR700の中低速時の頼もしいトルクを堪能し続けた。

画像2: 退屈な慣らし運転を贅沢で楽しいものへ

〈中編へ続く〉

文:菅生雅文/写真:柴田雅人

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オートバイ 2019年11月号 [雑誌]

モーターマガジン社 (2019-10-01)

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