【前編】
【中編】
本当は教えたくない、とっておきのキャンプ場
曽原湖の湖畔にある「ほとりの遊びばキャンプ場」は、実にこぢんまりしたものだ。水場には蛇口がひとつ、トイレも大小の便器がひとつずつと設備も質素。けれども、ここからの眺めは特筆に値する。
夕暮れ時は湖の正面に立つ磐梯山が赤く染まり、シルエットを湖面に映してそよ風に揺れる。刻々と色を変える空、静まり返る水辺、取り囲む雑木林。頭上から野鳥のさえずりが聴こえる。
裏磐梯は大小いくつもの湖を有し、それぞれの湖畔にはさまざまなキャンプ場が点在しているが、景観の良さではここがトップクラスだろう。CMやファッション誌の撮影にも使われているというぐらいだから、さもありなん、である。
また管理人の若者が素朴でマジメ。もともとここは、彼のおじいさんが管理していたところなのだそうだが、閉鎖され荒れてしまったのを数年前からコツコツと手入れをし、見事に復活。
春はキャンプ場に降り積もった枯葉をすべて片づけてからじゃないと営業しないというぐらい、現在は管理を徹底している。枯葉ぐらい、ほったらかしでもいいんじゃない? と水を差せば、春は新緑、夏は深緑と、季節ごとの景観を味わってほしいのだという。
マジメすぎて好きになった。ここに連泊したくなったのは、彼の人柄に惹かれたせいもあるかも知れない。
いつの時代も、どんな時も変わらないしあわせ
日が陰り始めたら、途端に肌寒くなってきた。焚き火台に薪を足し、火吹き竹で風を送る。裏磐梯は標高約800メートルの高原地帯だから、朝晩の寒暖差が大きいのだ。
寒くても飲むものは飲む主義なので、同行の柴田雅人カメラマンと缶ビールで乾杯。松本副編集長は今ごろ貸別荘で、ヨークベニマルで買った肉でも焼いているだろうか。
僕はコッフェルでお湯を沸かし、袋入りのカット野菜と鶏肉を茹でて鍋を作る。味付けは、スーパーの麺コーナーで購入した喜多方ラーメン味噌スープの素。僕のキャンプめしは基本、いつも鍋だ。
つまみ代わりにのんびりつつき、冷めれば再加熱する。食い足りないならうどんで〆ればいい。調理で失敗することはないし、食べ終わった後の洗い物だってラクだ。いつも鍋ばかりで飽きないかと言われることもあるけれど、僕にはめしよりも大切なことがあるのだ。
キャンプツーリングの楽しみというのは、昼も夜も愛車と一緒、というところにある。焚き火に当たりながら、「今日の道、よかったな。明日もよろしくな」なんて心でつぶやきながら、月明かりに光る愛車を眺めていると、それだけでしあわせな気分になる。大事なのは、めしよりもこっち。こればかりは時代が変わろうと、いくらオッサンになろうと変わらない。
GAFA、AI、IOT、新時代の荒波があらゆるものを飲み込んでいくなかで、闇、月明かり、火、ときに濡れたり凍えたりすること、そうした根源的なものを実感する行為はやっぱ重要だよなあ、なんて、酔った頭で考える。
焚き火の横では柴田カメラマンも愛車の250TRを惚れ惚れと眺めている。いいっスよねえ、バイクって。見上げる夜空には無数の星。
いいよなあ、ホントに。
文:菅生雅文/写真:柴田雅人