いつもならどこかカッチリ感に支配された足が、このパニガーレV2ときたら、実に滑らかだ。余裕あるシャーシに抱かれ、155馬力のエンジンはどこからでも開けられる。加速、減速、旋回が織りなす旨味成分が絡み合い、いつまでも飽きが来ない。パニガーレV2、これは間違いなくドゥカティが作った傑作料理の一つだ。Red Essence、すなわち赤の神髄。ドゥカティが込めた情熱はゴージャスに香り立つ。スペイン南部、MotoGPトラックの一つ、ヘレスで確かめたこのバイクは、間違いなく、現行ラインアップ中、最良のスポーツマシンだ。そしてドゥカティ謹製のLツイン搭載マシンの最高峰へと昇華しただけあって、美しさ、楽しさ、そして包容力。そのすべての純度が高い。大きさだけでは示せない威厳がここにあった。

やめたくない、それほど楽しめる走り。V2の最上級を語るだけの旨味あり

2本目。後半にふたたび雨が降ってきた。ヘルメットのシールドに雨粒が付くのが解るが路面はそれほどでもないだろう、と思っていたら、バックストーレート後の左7コーナーあたりでリアがズルリと動いた。3速の高めの回転で旋回するさなかでの動き。セッションの時間も後半だったので無理せずピットに戻ることにした。

ピットに戻る間、そのリアが横に滑るスムーズさがじつに掴みやすいインフォメーションとして伝わってきたことを考えた。あれはタイヤが滑ったのか、それとも滑った時に介入したトラクションコントロールの技なのか。そうだとしたら相当スムーズ。

しかしその段階では積極的に開けて確かめたというより、偶然滑ったという印象で判別がつかなかった。短い瞬間だったが、現象をわかりやすく理解できる。そんな印象だった。

画像1: やめたくない、それほど楽しめる走り。V2の最上級を語るだけの旨味あり

午後、天候は晴れ、霧吹きで路面を濡らすような雲は来なかった。コースにも慣れ、パニガーレV2をもう少ししっかり味わおう。まずエンジンの特性はレブリミットまでフラットなトルク特性で、演出的な盛り上がりや山場はない。

予想しやすく開けていてわかりやすい。そしてブレーキ周り。レバータッチ、そしてフロントの減速力、フロントフォークの入り方がスピードを調整するような場面から裏ストレートエンドの30Rヘアピンへの進入時でも同様に受け止めてくれる安心感がある。

攻めきるほどブレーキングポイントを詰められてはいないが、このトラックで最も速度が乗る状態からフルブレーキングを敢行しても、車体はしっかり受け止めてくれる。午前より自分のペースも上がっている。
 
一部にモノコックフレームは硬いのではないか、という話もある。たしかに、エンジンの真上にエアクリーナーボックスとステアリングヘッドを組み合わせたような箱が載っている。エンジンもフレームを兼ねていて、スイングアームやサブレームがそこから生える。

画像2: やめたくない、それほど楽しめる走り。V2の最上級を語るだけの旨味あり

イメージしてみても、最近、アルミ鋳造で肉厚を適材適所でコントロールし、しかもメインビームが細めに仕立てられたツインスパー系のフレームを見ると、長い距離で剛性バランスを取っているように想像ができる。対するパニガーレV2のそれは、レゴブロックで作ったような構成だ。
 
なるほど、動きの硬さをそのイメージに纏めることもできる。ただ、今回は知ってみてその動きを見ると、959パニガーレと同じフレームを使いながら、サスの減衰圧特性の変更や車体姿勢変更、ライディングポジションの変更などもあって、やっぱり乗りやすい。
 
どの段階でも動きは速いのに安定感もあるし、落ち着いている。そんな表現がしたくなるのに、身のこなしは軽い。そして、パワー。立ち上がりで全開にしながら曲がる10コーナー。ここはその前にある9コーナー(アンヘル・ニエト・カーブと呼ばれる)からアウトに立ち上がり、ワイドな11コーナーへと向かう場所だ。

セカンド全開で立ち上がるとアウトでズルっとくるのだが、その滑り方も実にマイルド。車体が硬く、ピキピキ動く感じがない。電子制御がなんらか助けてくれているはずだが、とても自然で違和感がない。
 
12コーナーは高速コーナーで、クリップ位置を意識してアウトから一気に入る。そして立ち上がりラインに乗せられたとき、これが気持ちよい。そこからタイトな最終を上手く回れて、立ち上がりでアウトにはらんだころ、フロントが軽くなる。気持ちが入りすぎてフロントを強めに残しながら曲がるこの最終でも、よじれて車体がイヤイヤをすることも無くしっかりと減速しつつも旋回してくれる。
 
短いメインストレートから1コーナーへのアプローチでも同様。フルブレーキングするポイントから1コーナーへは上りで、そこから曲がると2コーナーに向けて緩く下る。菅生のハイポイントからレインボーに行くみたいに見える。しかし、その先は2/3ヘアピンのような30Rが待っている。
 
つまり、ブレーキングを強めにしつつ曲がるカーブが意外に多い。そのヘレスをしっかり学習させてくれるパニガーレV2は乗りやすいということだ。

画像3: やめたくない、それほど楽しめる走り。V2の最上級を語るだけの旨味あり

前夜の夕食時、この春から市販車部門で開発をしているエンジニアと同席になった。彼は以前MotoGPなどのレースマシンでシャーシを担当した車体屋さんだそうで、モノコックフレームやその開発などを含め造詣が深い。

彼の言葉を借りれば、タイヤ、エンジン、電子制御。そしてライダーの乗り方などなど、様々なファクターがあるから、ツインスパーやトラスフレーム、あるいはモノコックというような「どれがベスト」とは様々な段階があるから決定づけるのは難しい、と話していた。おそらく959パニガーレと今回のV2を比較しても同様だろう。僕が感じた乗りやすさは間違いないし、自信と楽しさがある。
 
サーキットだけでバイクの結論を出すのは早計だが、パニガーレV2とのファーストコンタクトはかくもスイートで素敵なものだった。合計70分の走行がこれほど楽しめるとは正直思っていなかったし、プレステでいくら練習してもヘレスはいまいちつかめなかったが、現実のほうが遙かに短時間に習得できた。これもパニガーレV2のパッケージの正しさを表す証左なのではないだろうか。その点でもこのバイクを高く評価したいと思う。

(試乗・文:松井 勉)

Riding Position

「DUCATI Panigale V2」Detail

タンクからフェアリングへ下側へと流れるラインと、ノーズからエンジン脇へとメインパネルの下をくぐるようにデザインされたダブルレイヤーを採用。テールエンドやテールランプのカタチも合わせて最新パニガーレファミリーの意匠を身に纏っているのが解る。

エンジン真下に抱えるコレクターボックスから短く出されたエキゾースト。ユーロ4を見据え2本出しサイレンサーだった959パニガーレ時代よりも、騒音規制も厳しくなったユーロ5に適合させながらこの形状としたことは素晴らしい。ドゥカティ・パフォーマンスが用意するオールチンタンのフルエキキットに交換すると、最高出力が118Kw、107Nmとなり、ユニット重量が7キロ低減される。トラックデイ専用にする場合、このオプションも気になるところ。

パニガーレファミリーと歩調を合わせるようなデザインになったヘッドライト周り。ロー、ハイともLEDライトとなった。また、ライト脇にあるエアインテークからエアボックスに導くダクト形状を変更。これにより圧力損失を低減し、エアフローを効率化した。

フロントフォークはショーワ製BPF。フルアジャスタブルタイプの倒立フォークだ。インナーチューブはφ43mm。120mmのストロークの初期から抜群の作動性を示す。フロントブレーキユニットは、ラジアルマウントされるブレンボ製M4.32モノブロックキャリパーと、φ320mmディスクを備える。

画像1: 「DUCATI Panigale V2」Detail

ホイールはV字スポークを持つタイプに変更。リアブレーキは、φ245mmのディスクプレートとブレンボキャリパーを組み合わせる。

画像2: 「DUCATI Panigale V2」Detail

リアショックユニットは作動ストロークを2mm延長した。ザックス製のそれはリンクを介して搭載される。足との干渉がないよう充分に内側へと追い込まれてマウントされている。コンベンショナルなフルアジャスタブルだが、今回、ヘレスで体験する30Rのタイトコーナーから170km/h程度で旋回する高速コーナーまで十分な性能を発揮してくれた。

画像3: 「DUCATI Panigale V2」Detail

アッパークラスはモノアーム、ミドルクラスは左右持ちのアーム、という流れがしばらく続いていたが、パニガーレV2はモノアームを採用。ホイールデザインがバッチリ見える点でも、スタイルアイコンとしてもやっぱり嬉しいディテールだ。

左右のハンドルスイッチは各種TFTモニターに表示されるライディングモードの変更するスイッチともなるが、ウインカーキャンセルスイッチを併用することでシンプルな構造に。オーナー以外は操作が難しいが、スイッチドリルを受ける、もしくはオーナーとなってマニュアルで一度勉強すればその操作は問題無く行える。

4.3インチ、TFTカラーモニターになったダッシュパネル。11500rpmからレッドライン。最大トルクの60%以上を5500rpm以上の領域で発揮するだけに、エンジン特性はとてもフラットなトルクデリバリーとなる。周囲の明るさにより背景が変わるのも特徴。

ステップ周りの造りも美しい仕上がり。シフトアップ、ダウン双方に作動するDQS EVO2。操作性の良さはもちろん、高回転まで正確な作動が自慢。タッチは軽すぎず重すぎず、いい線をついていた。また、マフラーや、スイングアームとブーツの踵などが干渉もないレイアウトで、走りに集中ができるものだった。

959パニガーレと比較してテールカウルはコンパクト化した。そしてV字だったテールランプから、ウインドウトンネルを縁取るような形状になったのもV4系パニガーレファミリーとう意匠を統一。正直、かっこいい。

955cc、スーパークアドロエンジン。90度Vツイン(Lツイン)は角度を起こして搭載される。V4パニガーレの登場で、呼称をV2とすることに。高回転側、低中速側で各気筒2本のインジェクターを持つのはこれまで通り。しかし、インジェクターの変更やマップの変更、吸排気レイアウトの変更もありその乗り味は進化されている。バルブスプリングを持たないデスモドローミック(メカニカルにバルブを開閉させる方式)がもちろん取られる。

■試乗・文:松井 勉 ■写真:Ducati ■協力:Ducati Japan https://www.ducati.com/jp/ja/home

画像4: 「DUCATI Panigale V2」Detail

■■エンジン:スーパークアドロ、水冷L型2気筒、デスモドロミック、4バルブ
■排気量:955cc
■ボア×ストローク:100×60,8mm
■圧縮比:12.5
■最高出力:114kW (155hp)/10,750rpm
■最大トルク:104Nm (10.6kgm)/9,000rpm
■燃料供給装置:電子制御燃料噴射システム、ツイン・インジェクター、フルライド・バイ・ワイヤ、楕円スロットルボディ
■エグゾースト:2-1-2-1システム、触媒コンバーターX2、O2センサーX2
■ギアボックス:6速、ドゥカティ・クイックシフト(DQS)アップ/ダウンEVO2
■1次減速比:ストレートカットギア、減速比 1.77:1
■減速比:1速2.466 2速1.875 3速1.500 4速1.250 5速1.090 6速0.958
■最終減速:チェーン フロント・スプロケット 15T、リア・スプロケット43T
■クラッチ:湿式多板 油圧式 セルフサーボ/スリッパ―クラッチ機構
■フレーム:アルミニウム製モノコック
■フロントサスペンション:ショーワ製フルアジャスタブルBPFフォーク、43mm径クローム・インナー・チューブ
■フロントホイール:軽合金5本スポーク 3.50×17
■フロントタイヤ:120/70 ZR17 ピレリ製ディアブロ・ロッソ・コルサ2
■リアサスペンション:ザックス製フルアジャスタブル・ショック、アルミニウム製片持ち式スイングアーム
■リアホイール:軽合金5本スポーク 5.50×17
■リアタイヤ:180/60 ZR17 ピレリ製ディアブロ・ロッソ・コルサ2
■ホイールトラベル(フロント/リア):120mm/130mm
■フロントブレーキ:ブレンボ製4ピストン・ラジアルマウントM4.32モノブロック・キャリパー、320mm径セミフローティング・ダブルディスク、コーナリングABS EVO
■リアブレーキ:245mm径ディスク、2ピストン・キャリパー、コーナリングABS EVO
■メーターパネル:デジタル・ユニット、4.3インチTFTカラー・ディスプレイ
■乾燥重量:176kg
■車両重量:200kg
■シート高:840mm
■ホイールベース:1,436mm
■キャスター角:24°
■トレール:94mm
■燃料タンク容量:17リットル
■乗車定員数:2名
■安全装備:ライディング・モード、パワー・モード、コーナリングABS EVO、ドゥカティ・トラクション・コントロール(DTC)EVO 2、ドゥカティ・ウィリー・コントロール(DWC)EVO、エンジンブレーキ・コントロール(EBC)EVO、オート・タイヤ・キャリブレーション
■標準装備:ドゥカティ・クイックシフト(DQS)アップ/ダウンEVO 2、フルLEDヘッドライト、ザックス製ステアリング・ダンパー、ウインカー・オートキャンセル
■オプション設定:GPSモジュール付ドゥカティ・データ・アナライザー+(DDA+)、ドゥカティ・マルチメディア・システム(DMS)
■メーカー希望小売価格:2,250,000円(消費税10%込み。保険料、消費税を除く税金、登録等に伴う費用は含まず)

「Web Mr.BIKE」は新車のインプッレッション記事が満載!

SUSUKI KATANA 試乗インプレッション記事

KAWASAKI KLX230 / 230R 試乗インプレッション記事

YAMAHA Tenere700 試乗インプレッション記事

HONDA 400X 試乗インプレッション記事

マルク・マルケスInterview

Web Mr.BIKE ホームページはこちら!

DUCATI の関連記事はこちら!

This article is a sponsored article by
''.