■試乗・文:松井 勉 ■写真:Ducati ■記事協力:WEBミスター・バイク
959パニガーレの事実上後継モデル。しかし、細かな改良はV2トップの座にふさわしい
70年代に入るとドゥカティは、以降の同社のアイコンとも言えるエンジン形式、Lツインを搭載したモデルをリリースする。GT、スポーツ、スーパースポーツと次第にスポーツ色を強めたラインナップ構成は、今のドゥカティというブランドの礎にもなった。
また、750㏄だったそのエンジンと、450㏄クラスまでの単気筒エンジン搭載モデルの間を埋めるべく、当時からミドルサイズモデルを見据えてきた。そのドゥカティの近代史において、おなじみなのはスーパーバイク系の兄弟構成だ。
916と748、999と749、1098と848、1199パニガーレと899パニガーレ、1299パニガーレと959パニガーレというふうに、プレミアムクラスとミディアムクラスをお互いの存在を使って引き立ててきた経緯もある。
しかし、2018年にドゥカティがスーパーバイクモデルとしてパニガーレV4をリリースし、ついに2気筒から4気筒へとシフトしたことを踏まえ、兄弟車にもポジショニングに変化の時が訪れたのだ。
それが先日アンベールされたパニガーレV2である。
このパニガーレV2の特徴は少なくない。まず、外観の特徴はV4シリーズが持つ意匠に近づけていることだ。燃料タンク、フレームは先代の959パニガーレと同じというが、ノーズ周りや、カウルのサイドパネルやテールエンドなどのスタイルはもちろん、片持ちスイングアームの採用で、一気にトップレンジ風に仕立てられているのが特徴だ。
これまでプレミアムさでドゥカティのスーパーバイクを選択していたユーザーにとって、エンジン排気量はともかく、そうした外観がもたらす「押し出し」も見逃せないポイントだった。それだけに、排気量や最高出力、最高速などの性能面ではV4には及ばないが、V2が持つスタイルは大いに価値観をあげたともいえるだろう。
もちろん、それだけではない。サスペンションの設定や車体姿勢の見直し、またエンジン吸排気系の諸元などを一新しているため、ライダーが受ける印象は、先代959パニガーレと大きく異なるはず。また、2020年モデルのV4シリーズと同等の電子制御をフル装備するV2は、街乗りからサーキットライドまでライダーを楽しませることは間違いなさそうだ。
この電子制御周り、MotoGP用ワークスマシン、GP18(つまり昨年のワークスマシンだ)が採用していた電子制御をベースに開発されているだけに、6軸加速度センサーからの情報を得ているのはもちろんだが、ロジックも細やかでライダーの感覚に沿うような進化があるという。
コーナリングABS、トラクションコントロール、ウイリーコントロール、クイックシフター、エンジンブレーキコントロールなど、ドゥカティ独自の味付けを施している。例えばトラクションコントロールは、制御の細やかさが進化したのと同時に予測制御も入るため、ライダーがその作動で違和感を覚える前にシームレスな走りを提供するという。
このトラックがわかりやすい。だからヘレスにしたんです
メディアを集めた試乗会はスペイン南部にあるヘレスサーキットで行われた。MotoGPが開催されることでおなじみのコースだ。コントロールラインの真上にUFOのようなVIPルームがあることでおなじみのコースである。
ドゥカティの開発者がここを選んだ理由は、パニガーレV2の特性を味わい尽くせるトラックだからだという。全長4423m。最も長いストレートは600mほど。全部で13のコーナーがあり、その内訳は右が8、左が5だ。私自身、これまでカタール、バレンシア、もてぎ、鈴鹿、セパン、エストリルなど現役、退役したグランプリコースをメディアテストで体験したが、ヘレスははじめて。
宿泊したのはサーキットに隣接するホテルで、そこに行くまでに眺めたサーキットの施設はどこかクラシカル。それでもレース人気の高いスペインではここに十万人を超す観客が集まるという。
お断りをさせていただくと、今回のパニガーレV2のテストは、ヘレスサーキット内だけで行われ、タイヤもOEMでは無くサーキット用に履き替えた状態だった。しかし、結論から言えば、このバイクはなるほど、V2スポーツモデルの頂点に値するものを持っている。
意外に手強いヘレス
パニガーレV2は見た目通り、スリムでコンパクトに見える。しかし、840mmあるシート高と、アップライトになったように感じるライディングポジションがあるとはいえ、やはりスポーツマシンらしい車体の成り立ちだ。
スクリーンの形状が戦闘機のキャノピー的なスタイルになり、ストレートで伏せたらヘルメットを潜り込ませることができそうだが、カウルのショルダーラインなどは低く戦闘的。とにかくかっこいい。スポンサーロゴをはずしたプレシーズンテスト時のMotoGPマシンが、効率最優先でどこかヌルっとしたつかみ所がない造形なのに対し、やっぱりパニガーレV2のスタイルは描かれた画のように美しく官能的。
テストの走行枠は全部で5本。最初の10分は慣熟走行(といっても別に先導があるわけでも無い)として、午前に2本、午後2本、それぞれ15分を走り、合計70分用意されている。途中、2時間のランチブレークをはさみ、撮影もスチール、動画それぞれ行われる予定だ。
最初に走り出した印象は、エスケープが狭いということ。鈴鹿にも似た印象だ。セパンのように見渡す限り広大な土地の中をコース貫く印象ではない。途中にあるバックストレッチを境に前半、後半を分けられるが、それぞれに醍醐味と難しさが同居する。
曇り空から時折霧状の雨が落ちてきてコースを濡らす。YouTubeで研究したところ、多くのオンボード映像で縁石部分からコーナーへとアプローチしているが、いきなり試すにはちょっと恐い。
パニガーレV2はそれでもとても乗りやすい。エンジン特性はトップエンドまでパワー感が一定に加速を続けてくれる。ブレーキとサスペンションのマッチングもよく、フロントフォークがしっとり荷重を受け止める所作など、包容力あるまとまりだ。
プロダクト説明の時パニガーレV2の特徴は、ライダーに「自信が持てる。楽しい。」という言葉が何度かでたのを思い出す。なるほど、恐くない。これはスポーツバイクの性能を高める、引き出す上でとても大事なキーワードだ。
10分の慣熟を終え、インターバルを置き1本目の走行へ。ライディングモードをスポーツからレースへと切り替える。ストリート、スポーツ、レースという3つあるモードはそれぞれでABSの介入度やエンジンブレーキの作動など電子制御セッティングやエンジンキャラクターが異なる。
すべてのモードで最高出力は155馬力を発揮するが、アクセルに対するレスポンスなどでボトムからマックス領域までの出力特性の描き方に変化を与えているのだ。
慣熟で好印象だっただけにペースを上げてみることに躊躇が無い。しかし、1本目はコースとのマッチングを考慮することで時間が無くなった。もてぎが4800m、ヘレスが4423mとその差400m弱だが、ヘレスのほうが断然コンパクトに感じる。それは13あるコーナーのなかに連続性のあるコーナーが多く、まったく退屈しないのだ。
旋回性は充分に鋭い。しかしそれはクイックという意味ではなく、思った通りにコントロールがしやすい、ということだ。どこか4気筒モデルのような手応えさえある。不慣れなコースでペースを上げれば、アプローチに失敗したり突っ込み過ぎたりもする。それでもだらりとアウト側を曲がっているというより、軌道修正を含めてしやすいのだ。
旋回性云々はタイヤの性格が多分にあるので言えない部分もあるが、それでもベースキャラクターとしてこのパニガーレV2のそれはピーキーとは対局にあり、高性能を綺麗に丸めて手触りよく操作できる印象なのだ。成功も失敗もわかりやすい。だからこそ自信が持てる。