みんなが言うほど、250cc4気筒の低回転はスカスカじゃない
かつての4気筒250㏄モデルに改めて試乗する機会は少なくないが、最新の2気筒モデルと乗り比べたのは初めて。いくらZXRが速さを売り物にしたレーサーレプリカとはいえ、30年も昔のオートバイ。最新ニンジャが全てにおいて優れているはずだと思っていたが、走り終わって最初に口を突いて出た言葉は「4気筒最高だぜ!」だ。
3速までしか使わないミニサーキットなら速さはほぼ互角という感じ。Uターンのように小さなコーナーや忙しく切り返す部分では軽快なハンドリングで向き変えが速く、中回転からピックアップのいいエンジン特性を持つニンジャが走りやすいが、ZXRは速度の高いコーナーでの安定性が高く、早めにスロットルを開けていける。でも細かいことはどうでもいい。ZXRのギュワ〜ンッ! と伸びていく特性の前では、ニンジャの乗りやすさもかすんでしまう。
試乗したZXRは1992年型なのでショートストローク化されてより高回転型となった後期型。高回転域で一気にスロットルを開けたときの加速力は回転のシャープさが前期モデルより鋭く、高回転までパワーが伸びていくだけでなく、低回転域(といってもZXRの場合は6000回転以下あたり)でもグズらずに走る。
それでもニンジャの方が力強いが、ZXRのタコメーターの針が1万回転を超えて1万9000回転のレッドゾーンに向かうのを見て、甲高い排気音と金属的なメカノイズが混じったサウンドを聞くと、アドレナリンが吹き出してテンションが上がる。
この音を聞いて思い出したのが、1985年にスポーツランドSUGOで観た4スト250㏄車によるSP-Fレースだ。発売されたばかりのヤマハ・FZ250フェーザーが初参戦したが、SUGO名物の10%勾配ストレートを駆け上がってくるときのジェット機のような、悲鳴のような、それまでに聞いたことのない高周波サウンドに耳を奪われた。
しかも初戦のポールポジションタイムはSP400クラスのFZ400Rの約3秒落ちと、想像よりもはるかに速い。400㏄車よりも車重が軽くてコーナリングスピードが高いこともあるが、同じクラスを走っているVT系やGS250FWが気の毒になるほどストレートが速い。
ただならぬ音を聞いてピット前に続々と集まったライダー達と「SP-Fも4気筒じゃないとダメ」と話したが、事実、翌年からSP-Fは4気筒車だけのレースになった。
フェーザーのレブリミットは1万7000回転だったが、その後に登場した4気筒はZXRを含めて1万9000回転以上回るから、そのサウンドは凄まじいとしか言いようがない。レースで使うのでなければ、パワーもラップタイムも関係なし。純粋に突き抜けるような音と、天井知らずのように回るエンジン特性だけで満足できる。
30年前のオートバイでこれだけ興奮できるのだから、カワサキから「20年秋頃に国内販売開始」という正式な発表があったカワサキ「Ninja ZX-25R」はどうなのか。企画段階からZXRを超えるパフォーマンスを要求されたはずだし、アジアや日本、ヨーロッパでも再び盛んになり始めたプロダクションレースで勝てることを前提に開発されたと思う。
東京モーターショー2019に参考出品された車両はスロットルバイワイヤを始めとする高度な電子制御やラム圧を採用し、レッドゾーンは1万7000回転から。サーキットでの速さだけではなく、市街地での乗りやすさにも注目だ。
個人的には最高出力は45馬力/1万5000回転あたりと想像しているが、何より期待しているのはZXRを超える高回転サウンドと伸びやかな特性。
早く試乗して「4気筒最高だぜ!」と言ってみたい。
文:太田安治/写真:南 孝幸