PHOTO:柴田直行 TEXT:三橋 淳、月刊オートバイ編集部
ローダウン仕様の弱点を補うESの素晴らしい電子制御サスペンション
第一印象は、多少スリムになったかな? という感じ。全体的に威圧感が減ったように感じる。新型アフリカツインのビッグタンクモデルであるアドベンチャースポーツは、ロングツーリングを想定して24リットルのガソリンタンクを装備する。その風貌は昔のパリダカマシンを彷彿させ、まさにそのレプリカバイクであった初代アフリカツインの姿を継承した「正統」モデルのようである。
しかし、アドベンチャーバイクとしての大柄な車体にも関わらず、さほど威圧感を感じないのは、徹底したローシート化による効果が大きい。標準シート高830㎜は、前モデルのローダウン仕様・タイプLDと同じ。アジア人の体型に合わせてLD化されたものが、日本の標準仕様になったわけだ。これにより、先のスリム化と相まって、とても小さく感じる。
しかし、気になるのはLD化されたことによる乗り心地の問題。正直に言うと、前モデルのタイプLDは、オンロードでのギャップでさえ、ひどい時にはお尻が浮き上がるほどで、ショック吸収性は良いとは言えなかった。それと同じなのではないか? と正直身構えた。
今度のモデルには電子制御サス採用の「ES」が設定されていて、今回の試乗車はそのES。この電子制御サスペンションが、その不安要素を見事に消し去った。簡単に言えば、底付きすることがほとんどないのだ。
意地悪にオフロードでジャンプしてみたが、ライディングモードを「オフロード」にしておけば底付きは皆無。ただし、戻り側がスプリングの戻る速度以上に早く戻ってくるので、アクセルを開けるタイミングがそれと同じになってしまうと、前方に弾かれてしまう。
もっとも、アドベンチャーバイクでジャンプ「してしまう」ことはあっても、ジャンプ「させよう」などというシチュエーションは少ないので、万一のジャンプ時に、素早く姿勢を戻すためのものなのだろう。このあたりは慣れの問題かもしれない。
このESのライディングモードには「ツアー」「アーバン」「グラベル」「オフロード」の4つがあり(他にユーザー設定が2つ)、それぞれエンジン出力、サスペンション制御、ABSが連動して変化する。その差は誰でもわかりやすく体感できるほど大きく変動する。
例えば「ツアー」はもっともスポーツ走行に適したモードなのだが、サスペンションは相当しっかり踏ん張るようになり、アクセルレスポンスも初期からグッと力を感じるような出力特性になる。一方「アーバン」では全てがマイルドで、サスペンションはとても柔らかく、アクセルレスポンスもトルク変動が少ないものになる。ちなみに、高速道で「グラベル」モードにすると、サスペンションがふわふわとしてラグジュアリーな雰囲気になり、個人的には好みだ。
ちなみに「グラベル」は、林道レベルをコンフォートに乗る設定で、ハードに走るとさすがに底付きしてしまう。ジャンプしなくても、例えばうねった路面のオフロードに入った時には、スピードを出しているつもりがなくても、サスが想像以上に入り込んでしまい、穴を見落とした時などに大きく影響する。
そうした場合は「オフロード」にすればきちんと耐えてくれる。これはレーシングモードで走るためのセッティングではなく、大陸のダートを走っている時に、突発的に出くわしたギャップでも、きちんとサスが納めてくれる。そういう意味合いの仕様だ。
今回は、あわせて欧州向けのロングサスペンション仕様の〈S〉にも試乗してみたが、テストコースを走る限りは、特性的には国内仕様と似たフィーリングだった。サスストロークの短さを、電子制御が上手くカバーしてくれている、と言っていいだろう。
ディテールチェック
RIDING POSITION 身長:182㎝体重:80㎏
830㎜のシート高は182㎝のテスターではかなり窮屈なポジション。シート形状の工夫のために、足つき性はシート高の数値以上に良好。大型タンクだが、ライダーのポジションに影響を与えないように、膝が当たる部分はスリムになっている。
アクセサリーも豊富に用意!
新型のアドベンチャースポーツは純正アクセサリーパーツのラインアップが豊富。アドベンチャーモデルらしい「旅アイテム」を豊富にそろえている。
三橋 淳
2輪、4輪の両部門でダカールラリーに15回参戦。4輪では5度のクラス優勝を果たしたトップラリースト。現在は各地でノマドライフを楽しみながら、MTBやカヌーなど、アウトドアスポーツにも活動の場を広げている。
PHOTO:柴田直行 TEXT:三橋 淳、月刊オートバイ編集部