まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍
伊藤真一(いとうしんいち)
1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2019年の鈴鹿8耐は「Honda Dream RT 桜井ホンダ」チームで見事10位を獲得!
一般公道向けの市販車スーパースポーツは、この「乗りやすさ」こそが武器になる
2016年の夏に試乗したのは、勝手知ったるCBR1000RR。レーサーとしてずっと乗ってきたし、JSB仕様車や8耐仕様車の開発にも関わってきました。
このSC59型の最後期モデルは改良や熟成が進み、各メーカーのスーパースポーツの中でも、特に「乗りやすい」と言われていますが、改めて乗って「確かに乗りやすい」。
街乗りから高速道路まで、一般公道の速度域での乗り味が本当にいいんです。よく曲がるし、反応もいい。ハンドリングも走行安定性も、とても優れています。これならツーリングにも行けるだろうし、もちろん、ハイグリップタイヤを履かせてサーキットを…なんてのも楽しいだろうし。
JSB仕様車など、レーサーは設定する速度域もコンセプトも全く違う。レースでの曲げやすさと公道での曲げやすさは別なんです。だから各部品の作りもマテリアルも全然違う。
エンジンハンガーボルトの締め付けトルクの0.1〜0.2N・mの違いなどでも、オートバイの運動性能は大きく変わってしまうんです。そういう細かな変更・調整を繰り返して作っています。
でも、それはサーキットでの話です。
市販車のセッティングはある意味、「完成形」のレベル。
SC59型のユニットプロリンクは年を追うごとに威力を増した
公道を走るなら、市販車の状態がいちばんバランスよく出来ている。ある意味、完成形です。
レース仕様車のマネをした改造をするほど、峠でも速くなるイメージがあるようですけど、むしろ反対です。レーサーみたいにガチガチなセッティングで峠を頑張ったら、たぶん、すぐ転んじゃいますよ。峠くらいの速度域で走るには、この市販車のセッティングはすごく高評価なんです。
2012年のモデルチェンジで変わった、足回りの話もしましょう。フロントはショーワのBPFが採用されてますが、実はJSB仕様だと、BPFはセッティングで苦労したんですね。
でも市販車だと、乗り心地も良いし、ストローク感もあって、いいサスペンションだと思いました。道路の減速帯を走っても段差の突き上げが気にならなかったですから。
リアはユニットプロリンクサスペンションですが、街中でも安定したトラクションが出ます。登場した当初は、「接地感がわかりにくい」という評価もありましたけど、それは最初だけ。
タイヤとのマッチングも含めて、サスのセッティングも随分変わって、接地感が伝わりやすくなりました。それにユニットプロリンクの車輌は、ハイサイドしづらいという利点もあるんですよ。
リバウンドストロークが結構あるし、伸び側スピードがある程度遅いこともあり、急にリアが伸びようとしないんです。だからタイヤが滑っても横に滑るだけで、ハイサイドしにくい。
ユニットプロリンクは、先にCBR600RRに採用されましたよね。当時、600でSUGOを走った際、3コーナーで真横を向いたことがありましたが、無事に戻れました。
こうして改めて乗っても、本当に乗りやすいオートバイだと思う。全メーカーのSSモデルの中でも、取っ付きやすさは一番でしょうね。
ただ、トラクションコントロールがなかったり、電子制御はあまり入ってない。逆の見方をすれば、SC59型は付いてなくてもちゃんと走れるバイクだからですが、そこに物足りなさを感じる人がいるのも確かですよね。
(後編へ続く)