「ヤマハのR25とMT-25って、何が違うんですかねぇ」
わたし中村ヒロフミはこう返した。
――カウルじゃ!
(※以下、会話文の「」部はコーハイてっぺー、――部はパイセン中村のパートです)
文:中村浩史/写真:オートバイ編集部
2020年型の「YZF-R25」と「MT-25」を乗り比べてみた!
西野てっぺー、33歳。オートバイ編集部に2018年12月に加入した、編集部イチの若手である。
中村ヒロフミ、53歳。月刊オートバイで仕事を始めて20年。てっぺーの隣の席にいる。私は編集部の中でもほぼ最年長で、もうこの仕事を始めて30年(!)。てっぺーが幼稚園児の頃からこの仕事をしてるってことになる。
若手の素朴な疑問をひと言で返す意地の悪いセンパイ。けれどコーハイもきちんと食らいついてくる。
「いやカウルついてるついてないはわかってますよ。他は違いないのかな?って思ったんでしょうに」
負けじと意地の悪いパイセンも返す。
――そらお前、ハンドルもちゃうからポジション変わって、ハンドリングもちょっと違うわな。
「どんな風に違うんですか?」
――う? そらお前、R25の方がシャキッとしててな……。
「へー」(ニヤニヤ顔)
てっぺー、この辺でパイセンを完全にイジってる。
「んじゃ試乗行きましょうよ。2人で行って検証しましょう。いやいや、パイセンが言ってるのが本当かどうか疑ってるわけじゃないですよ? でも検証って大事じゃないですか」
そんなこんなでパイセンとコーハイの検証がスタートする。走るはYZF-R25とMT-25、2台のヤマハ最新スポーツ250ccだ。正式な呼び名はYZF-R25=ワイゼットエフ・アール・ツーファイブ、MT-25がエムティ・ツーファイブなんだけれど、ファンの大部分はYZF-R25=アールニーゴー、MT-25=エムティニーゴー、と呼んでいますね。
ご存知のように、この2モデルは兄弟車。R25がフルカウルモデルで、MT-25がそのネイキッドバージョン。通常、カウル付きはスーパースポーツ、ネイキッドはストリートリーガルなんて分けられ方をするけれど、この2モデルについては、250ccモデルということもあって、そこまで明確な差はありません。
YZF-R1とMT-10なんかがそうですね。かつては1000ccモデルのFZ-1フェーザーが「日常でも楽しめるバージョンのR1」を目指して開発された関係性と同じです。
そのR25とMTが、初代デビューの2014年12月(MTは2015年10月)以来、第2世代に突入しました。
R25は2019年3月、MTが2020年3月。R25が倒立フォークを採用し、カウルデザインを変更して、いわばマイナーチェンジで、続くMTはR25に準じて倒立フォークを採用し、ヘッドライトデザインまわりを大変更。R25がMotoGPマシンYZR-M1風のイメージになったのに対し、MTはこれもはや怪獣顔。
そういえば、R25がゼッケンスペースを大きく取って、ヘッドライトを薄型ツリ目にした時「エイリアン3、こんなんやったなぁ」と思ったもんですが、MTはコレ完全にプレデターですね。ひょっとしてデザイナーさん、ここイメージしてるんじゃなかろうか……。ちょっと画像検索してみてください。そんなに的外れな感想じゃないから(笑)。
「YZF-R25」と「MT-25」試乗インプレ
モデルチェンジ後のR25には2019年3月に発売した時に試乗済みです。先代モデルとの違いは、まさに倒立フォークの採用メリット通りで、ハンドリングがしっかりしました。
しっかり、って言うのは抽象的ではありますが、ブレーキングで踏ん張り、コーナリングで剛性感が出た感じ。倒立フォークの重量増もあって、初代のフロントまわりの軽快感は失われましたが、それ以上に安心感が増した印象ですね。
エンジン面では変更がないはずですが、パワー特性も熟成されていて、低回転から高回転まで、すごく使いやすいトルクが出ているエンジンです。CBRやニンジャのライバルと比較しても、すごくまっとうなストリートスポーツに仕上がっています。速く走りたい人、のんびり走りたい人、どっちにも満足できる――そんなスポーツバイクですね。
MT-25は今回が初試乗。太田安治さんによるきちんとしたインプレッションは月刊オートバイ7月号(6月1日発売)にも載っています。基本的にはR25に準じたマイナーチェンジのはずですが、変更時期がちょっとズレていることもあって、MTのウィンカーはLEDになってます。
先代のR25とMTの差と同じく、R25がセパハン、MTはアップハンドル。R25のハンドルがトップブリッジ下にマウントされて、さらに低くなったのに対し、MTのアップハンドルは44mmアップ。これ、コブシひとつ分、という感じですね。
まずはパイセン中村がMT-25、コーハイてっぺーがYZF-R25を試乗。一般道、高速道路、ワイデンィングを100kmほど走ってひと休み。一般道をゆるゆる、高速道路は交通の流れに合わせてってくらいで、ワインディングったって、このふたりのペースなんか徐行みたいなもの(笑)。
「パイセン、MT、結構かわりました?」
――うん、基本的に倒立フォークになっただけなんだけどね。パッと乗ってハンドルが高くなったの、ラクだねぇ。
「正立フォークから倒立って、結構かわるんですか?」
――まず重くはなるよ。重いったって、軽快なのがしっとりするくらい。あとは、カチッとした剛性感は出たよね。
「倒立にしてコーナーとか速くなるんでしょう?」
――サーキットじゃなきゃわかんないよ。ただ、ペース上げていって、たとえばワインディングの下りコーナーなんか、少し思い切ってつっこんだってバタバタしないかな。
「へぇ、そんくらいの違いなんですね」
――あとはね、ブレーキ効くようになってる。ローターとかキャリパー、ホースとかマスターシリンダは変更ないはずだけど、フォーク変わって動きがよくなった分、ブレーキ効くようになるんだよ。
「フォークが変わってブレーキよくなるんですか?」
――停まるってのは、ブレーキまわりだけじゃなくてサスの動きとかタイヤのグリップも含めての効果だからね。
ここでコーハイのR25評も聞いてみる。
――てっぺー、R25どうだったのさ。
「乗りやすいですねぇ。ぼく普段トライアンフ・ボンネビルT100に乗ってるんですが、軽いっていいですねぇ! エンジンの反応もいいし、フルカウルと言ったって、乗るのが苦痛なほどのポジションでもないですし」
――んじゃ次、MT乗ってみ。今日の本題は『違いが判るか』ってことなんだろ?
YZF-R25のシート高:780mm
ライダー身長:178cm
MT-25のシート高:780mm
ライダー身長:178cm
こまごまと撮影を済ませて、帰り道へ。今度はパイセンがR25、コーハイがMTだ。
帰り道も、ワインディングを走って高速道路でクルージング、街乗りで締め。1日で兄弟車2台に同じコースで試乗できるなんて、比較試乗にはぜいたくな環境。すると、思ってもみなかった違いが次々とわかってくる。
――R25からMTに乗り換えて、どーよ。
「いやぁ、こんなに違うんですねぇ。まずエンジンからして力の出方が違いました!」
――うん、そんなかんじやったね。でもコレ、試乗車のコンディションの差だと思う。同じエンジンなんだから、こんなに違いはないもん。感じとしては、MTがナラシをていねいに終わらせたばっかりのコンディションで、R25はけっこう距離走ってるね。
「そうなんですか。他の違いってなんかありました?」
――うん、こんなに違うんだなぁ、って思ってたよ。
「そんなに?? エンジン以外で?」
――そう。ハンドリング違うねぇ。MTは倒立フォーク入ってるって言っても、R25よりももっと軽快感を残してある。
「街乗りのバイクだからってことですか?」
――そうだろうね。R25の方がしっとり安定感があって、MTは軽快。これはね、タイヤの違いもあるんだと思う。同じIRCのバイアスタイヤなんだけど、MTよりR25の方がひと世代新しいの。タイヤの剛性感があって、よく言えばしっとり、悪く言えば重ったるい。ただ、高速道路とかでペースを上げてクルージングしたら、R25の安定感は大きいなぁ。こんなに違うとは思わなかった!
「違いはカウルだけだって言ったじゃない」
――ゴメンナサイ。も少し性格の違いもあった、ってことね。
モデルチェンジによる変更内容は、パーツ点数でいうとごくわずか。それでも、R25とMTにはハッキリわかる差がありました。R25はしっとり、MTはヒラヒラ。このハンドリングの性格が、先代の初期モデルより差が広がっているかんじです。
もちろん、R25にはカウルがついてる、という物理的重さもあるでしょう。でもそれ以上にテイストは違いました。
「んじゃ、どっち買えばいいですか?って質問をもらったら?」
――好き好きじゃね?(笑) もちろん、使う用途で街乗りばっかの人、サーキットで走る機会が多めで高速道路も良く走る、って人はいるだろうけど、結局は好きなバイク買えばいいんじゃん。R25はカウル着いてるからって高速道路が圧倒的に快適、なんてほどじゃないからさ。カウル付きの方がカッコいい、MTのプレデター顔がたまらん、って好みだぜ。
「パイセン、それ…参考にならねぇっす(笑)」
文:中村浩史/写真:オートバイ編集部
ヤマハ「YZF-R25」の主なスペックと価格
全長×全幅×全高 | 2090×730×1140mm |
ホイールベース | 1380mm |
最低地上高 | 160mm |
シート高 | 780mm |
車両重量 | 167kg(ABSは170kg) |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 |
総排気量 | 249cc |
ボア×ストローク | 60.0×44.1mm |
圧縮比 | 11.6 |
最高出力 | 26kW(35PS)/12000rpm |
最大トルク | 23N・m(2.3kgf・m)/10000rpm |
燃料タンク容量 | 14L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 25゜ |
トレール量 | 95mm |
タイヤサイズ(前・後) | 110/70-17M/C(54S)・140/70-17M/C(66S) |
ブレーキ形式(前・後) | シングルディスク・シングルディスク |
メーカー希望小売価格 | 税込61万500円(ABSは65万4500円) |
ヤマハ「MT-25」の主なスペックと価格
全長×全幅×全高 | 2090×755×1070mm |
ホイールベース | 1380mm |
最低地上高 | 160mm |
シート高 | 780mm |
車両重量 | 169kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 |
総排気量 | 249cc |
ボア×ストローク | 60.0×44.1mm |
圧縮比 | 11.6 |
最高出力 | 26kW(35PS)/12000rpm |
最大トルク | 23N・m(2.3kgf・m)/10000rpm |
燃料タンク容量 | 14L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 25゜ |
トレール量 | 95mm |
タイヤサイズ(前・後) | 110/70-17M/C(54S)・140/70-17M/C(66S) |
ブレーキ形式(前・後) | シングルディスク・シングルディスク |
メーカー希望小売価格 | 税込62万1500円 |