この週末は全日本ロードレースの開幕戦にワールドスーパーバイク・ヘレス大会、それにMotoGPがヘレス2連戦から移動してのチェコGPが行なわれました。
このチェコ・ブルノ戦前には、マルク・マルケス(レプソルホンダ)の欠場と、ステファン・ブラドルの代役出場が発表されましたね。マルケスについては、第2戦ヘレス1での大クラッシュからの右前腕部骨折を押してのヘレス2出場(決勝へは不出場)で、ケガがひどくならなきゃいいなぁ、完全に治ってから出りゃいいのに……って世界中のみんなが思っていたでしょうに、2度目の手術に臨む、と発表されました。
舞台をチェコ・ブルノに移しての第4戦。金曜のFP1から「珍しいこと」の連続でした。
最初のサプライズはFP1。このセッションのトップタイムは、なんと中上貴晶(LCRホンダIDEMITSU)。2番手にジョアン・ミル(TeamスズキECSTAR)、3番手にポル・エスパルガロ(レッドブルKTMファクトリーレーシング)。4番手にジョアン・ザルコ(Esponsoramaドゥカティ)を挟んで、いつものマーベリック・ビニャーレス(モンスターYAMAHA)、アンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティチーム)までが2列目。タカ、いいですね。前戦アンダルシアGPから、マルク・マルケス(レプソルホンダ)欠場を受け、ホンダのエースとしてふさわしい走りを見せています。
FP2ではファビオ・クアルタラロ、フランコ・モルビデリのペトロナスYAMAHAデュオが1-2、3番手にはミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)がはいります。2列目にザルコ、ビニャーレス、ミルが入り、なーんかいつもとちがう顔ぶれが続きます。マルケスがいないと、こうも違うか、くらいに思っていたんです。
土曜のFP3ではモルビデリ→ザルコ→クアルタラロがTOP3、エスパルガロ弟→バレンティーノ・ロッシ(モンスターYAMAHA)→アレイシ・エスパルガロ(アプリリアRTグレジーニ)と続きます。おぉ、アプリリアも来たかぁ!
そしてFP4でクアルタラロ→エスパルガロ弟→モルビデリがTOP3、アレックス・リンス(TeamスズキECSTAR)→ロッシ→ドビツィオーゾが続き、Q1/Q2を経てのポールポジションは、なんとザルコ! 昨年KTM脱退→一時ホンダに代役参戦で籍をおき→今シーズンDUCATIへ、というドタバタ劇を引き起こしたザルコでしたが、18年シーズンにヤマハYZR-M1を走らせていたころのスピードが戻ってきましたね。
クアルタラロ→モルビデリのペトロナスYAMAHA勢が2-3を占め、4番手にはエスパルガロ兄のアプリリアと、ビニャーレスのYZR-M1を挟んでエスパルガロ弟のKTM!
やっぱ、いつもと顔ぶれが違うなぁ。ここまでで、今まではトップ争いに絡むことも多くなかったKTM、アプリリア勢が顔を出していますね。決勝日朝のウォームアップもエスパルガロ弟のKTMがトップタイムですからね!
果たして決勝レースは、モルビデリの好スタートから始まります。オープニングラップはモルビデリ、エスパルガロ兄のアプリリア、クアルタラロ、エスパルガロ弟のKTM、そして予選7番手のブラッド・ビンダー。ビンダーはポルと同じKTMワークスチームです。
2周目にはクアルタラロが2番手に浮上して、ペトロナスYAMAHAが1-2。あぁ、これはこのふたりが前を走って、しばらくしてクアルタラロがモルビデリを料理して3連勝、後方からビニャーレスやドビツィオーゾが上がってきて表彰台かぁ、なんて思っていたんですが、なんとレース中盤にはずっとクアルタラロの後方につけていたビンダーが2位浮上! それでも、今までこんな位置を走ったことがないKTMは、終盤にペースが落ちて後方集団へ――なんて思っちゃうのが古いレースファンの悪い癖ですねぇ。クアルタラロも、前2戦の勢いがちょっと感じられませんでしたね。
レースが半分を越えたら、なんとビンダーがトップに浮上! この頃の英語実況も「おーっとブラッドがトップに立った、ハッハッハハ」みたいなノリでしたから、この時点ではまだ誰もKTMがこのままいくとは思っていなかったんでしょうね。私もそうでした。
しかしビンダーはこのままペースを落とすことなくラップごとにモルビデリとの差を広げながら走り切り、なんとなんとこのまま優勝! ビンダーはMotoGP3レース目で初優勝それよりなんとKTMが、MotoGPクラス参戦4年目にして初優勝を飾ってしまったのです。2位にはモルビデリ、3位にはレース中にエスパルガロ弟と接触したことでロングラップペナルティを受けたザルコ! あの接触がなかったら、ザルコも上に行ったかもだし、なによりエスパルガロがビンダーと1-2を決めていたかもしれません、そんなペースでした。
「まだ落ち着けないよ、今日は僕の人生の中でいちばん信じられない日だ。この日が来るのを、子供のころから夢見てたよ! まだMotoGP3レース目なのに、それが実現するなんてなんだか怖いね。正直言って、まだ信じられない気分だ。レッドブルルーキーカップのころから、この日が来るのをずっと夢見ていた。ずっとレッドブルKTMとやってきたんだ。とうとう勝ったぞ!」(ビンダー)
ビンダーの名が世界じゅうに知れ渡ったのは2016年でしょうか。このシーズン、Moto3クラスにフル参戦5年目のビンダーは、全18戦で7勝を含む14回表彰台に立つという驚異の安定感をみせ、チャンピオンを獲得。この年のランキング4位がフランチェスコ・バニャイアであり、5位がジョアン・ミル、今ではMotoGPクラスのチームメイトであり、ライバルです。
17年からはKTMがオリジナルフレームを引っ提げてMoto2クラスに参戦するというプロジェクトと同時にMoto2クラスに参戦し、シーズン終盤3戦で連続表彰台を獲得。ランキング8位は、中上貴晶のひとつ下で、同時にこのプロジェクトに合流していたオリベイラはランキング3位、この年のチャンピオンが、このチェコGPで2位入賞を果たしたモルビデリなんです。つながってるなぁ、Moto3→Moto2→MotoGP。さらにビンダーの優勝は、レッドブルKTMのエリートプログラムがひとつの成果をあげた、ということなんです。
18年にランキング3位、19年にはマルケス弟と最後までチャンピオ争いをしての2位となったビンダーは、満を持して今シーズンからMotoGPに昇格。Moto2時代のライバル、マルケス弟よりもオリベイラよりもバニャイアよりも、そして中上よりも早くMotoGP初優勝を達成したのです。
KTMにとっても、これは悲願の優勝! パイプフレームじゃ勝てないよ、WP(=ホワイトパワー)じゃ優勝はムリだ、なんて言われている現在のMotoGPの常識さえひっくり返してしまいましたね! それにしてもビンダー→モルビデリ→ザルコなんて顔ぶれが表彰台に上がるなんて、だれが予想できたでしょうか!
写真/motogp.com 文責/中村浩史