月刊『オートバイ』で書評コーナーを長年に渡り担当している小松信夫がライダーにおすすめの一冊を紹介します。

『エスパー・オートバイの冒険』著:塩谷隆志(1978年・朝日ソノラマ)

主人公が祖父の家に長年眠っていたインディアン・チーフを直すと、タンクマークの酋長がしゃべり出した…ラノベの元祖(?)今は亡きソノラマ文庫から1978年に出てた『エスパー・オートバイの冒険』は、想像の遥か斜め上を行く怪作。

ラノベで会話するオートバイといえば、『キノの旅』でクールに淡々と話すエルメスが思い出されますが、この「酋長」は昔の西部劇コントみたいに「アホー、わし、オートバイのインデアン」なんて口調で、しかも好戦的という清々しいくらい古典的なインディアンキャラ。

なのにエルメスと違ってライダー無しで走り、空を飛びテレポーテーションや時間旅行までする(これが“エスパー・オートバイ”な部分ね)。最後は異世界で同じく意思を持った四輪車や飛行機と戦うというブッ飛んだ展開…と書くと何やら刺激的だけど、42年前にしてもクラシカルな文体と全体を貫く牧歌的な雰囲気で、今時なラノベと違う不思議な味わい。続編も出てるけど、読みたいような、ちょっと怖いような…。

画像: 『エスパー・オートバイの冒険』著:塩谷隆志(1978年・朝日ソノラマ)

しかし80年代、高千穂遥さんの『クラッシャージョウ』シリーズとか笹本祐一さんの『妖精作戦』とか、ソノラマ文庫はいろいろ買ったけど、『エスパー・オートバイの冒険』はその頃に読んだわけではなくて…多分当時も書店の棚にはあったんだろうけど、まるで眼中に入らなかったもんで(一切記憶にない!)。だいぶ年月を経た後に、いろんな意味で愛すべき本を映画秘宝的ノリで楽しめるようになってから、古本屋でたまたま見つけて面白がって購入。

巻末にある作者紹介によると、塩谷隆志さんはバイク好きだったらしい。だけど、モトクロスじゃなくて「スクランブルレース」とか、刊行された70年代半ばには死語になってたかなり古いバイク用語が多用されてて、インディアン以外に出てくるオートバイも微妙に古い外車が中心。

先に書いたように構成とかストーリー展開、キャラクター造形も少々時代がかってる。ラノベ以前の「ジュブナイル小説」(死語だ)すら通り越して、1950〜60年代の月刊少年誌の読み物ってこんな感じだったのかな? といえば理解してもらえるでしょうか。

でもまあ、その辺が今読むと色々楽しめるわけですが(実際に書かれたのは60年代だったりするのかもしれない)。あとね、カバーイラストと挿絵がすごくイイんだよね。描いたのは祐天寺三郎さん(政治風刺漫画で有名な方だとか)ですが、なんとなくアメリカンぽいバイクのようなものじゃなく、ちゃ〜んとインディアン・チーフを描いてる。トボけた表情のキャラクターたちも凄くイイ味出てます!

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