世界中のスポーツイベントの例にもれず、新型コロナウィルスの感染拡大によって、開催スケジュールが大きく狂わされた世界耐久選手権。当初は2019-2020年シリーズの最終戦の予定だった、7月最終週の(注:今年は東京オリンピックも開催されるはずだったから7月中旬に前倒しの予定でした)鈴鹿8時間耐久が中止となったことで、日本のレースファンの注目もちょっと引けちゃっています、正直なところね。
しかし、Show must go on! 選手権は続いています。この週末には第40回目となるル・マン24時間耐久が行なわれ、あとはシリーズ最終戦・ポルトガル12時間耐久を残すのみ。とはいえ、その最終戦も、まずは鈴鹿が中止になり、9/19~20に開催予定だったボルドール24時間も中止――そこでポルトガル12時間の開催が決まった、という経緯があるのです。
それでは、まずは今年の2019-2020シリーズのおさらいから。開幕戦、どこだったか覚えていますか? そう、2019年の鈴鹿8耐が終わってすぐに開催されたボルドール24時間です。
このボルドール24時間ではSERT(=スズキ・エンデュランス・レーシング・チーム)が勝ちましたね。2位にはヤマハのプライベートチームであるWojcikレーシング、3位にBMWモトラッドが入り、世界チャンピオンチームであるSRCカワサキ、日本代表TSRホンダ、ヤマハの世界耐久トップチームのYARTヤマハはすべてリタイヤしてしまいました。
第2戦は、初開催となったセパン8時間耐久<https://www.autoby.jp/_ct/17325327>。覚えてますか? 鈴鹿8耐出場へのセレクションも兼ねたこのレース、朝から降り続いてた雨が止まず、スタート時刻ディレイ、ローリングスタートが切られたものの、10周弱で再び赤旗中断、結局レースがスタートしたのは、残り3時間弱。セパンで初めての開催となった世界耐久は「セパン2時間50分ほど耐久」となったのでした。
このレースで勝ったのはYARTヤマハで、2位には鈴鹿8耐を見据えてスポット参戦していたホンダアジアドリーム、そして3位にはBMWモトラッド。SERTは5位、SRCカワサキは6位、そしてトップ独走中から転倒を喫したTSRホンダは13位に終わりました。
ここまでが2019-2020のあらまし。そして「セパン2時間50分耐久」から8か月強を経て、ル・マン24時間が開催されたというわけです。
2戦を終わってのランキングは以下の通り。
1:SERT 79P 2:BMWモトラッド 64P 3:Wojcikレーシング48P 4:YARTヤマハ 43P 5:3ARTモト 33P 6:VRD IGOL エクスペリエンス 31P
SERT強いですねえ、BMWもワークスチーム格だし、SRCカワサキは30Pで8番手、TSRホンダは25Pで12番手につけています。
ちなみに12番手のTSRホンダからSERTまでは54ポイント。コレはもうチャンピオン絶望、と思うなかれ、世界耐久には独特なポイント制があって、決勝順位はもちろん、24時間耐久では予選順位や8時間/16時間経過時点での順位にもポイントがつけられるので、優勝して40P、8時間時点とか16時間時点もトップだとそれぞれ10P、予選順位にもポイントがついてと、1レースで60ポイント以上の加算も可能なのです。
そして迎えたル・マン24時間耐久。フランス伝統の耐久レースである今大会、残念ながら無観客での開催になってしまいました。私もル・マンは2度ほど取材に出かけたことがあるんですが、あの独特の雰囲気、バーベキューやってる匂い、移動遊園地の喧騒、観客のおとっつぁんたちの嬌声がない24時間なんてさみしかったろうなぁ。
8/26(水曜)に走行1回目、27日からは公式スケジュールとなり、初日にFP1/QP1/夜間走行が、2日目にFP2/QP2が行なわれ、29日土曜日に決勝レースがスタートするル・マン24時間。予選初日を制したのはYARTヤマハ、次いでERCエンデュランス、3番手にSRCカワサキ、以下Wojcikレーシング、BMWモトラッド、SERTが6番手で、TSRホンダが8番手につけました。2番手のERCエンデュランスは、開幕戦ボルドールではBMW-S1000RRでエントリーしていましたが、ドゥカティ・パニガーレV4Rにホモロゲーションが下りるや、すぐにセパンからマシンをスイッチ! パニガーレでの2レース目ってことで、いよいよ怖い存在になりそうです。
2日目もYARTヤマハがトップタイムをマークし、2番手以下にBMWモトラッド→SERT→TSRホンダ→ERCエンデュランスが続き、SRCカワサキが7番手。いよいよトップチームの準備がそろい始めたな、って感じですね。
これで2日間総合、予選ポールポジションはYARTヤマハが獲得しました。
① YARTヤマハ(カレル・ハニカ/マービン・フリッツ/ニッコロ・カネパ)
② BMWモトラッド(ケニー・フォレイ/イリア・ミハルチク/マーカス・レイテルバーガー)
③ SERT(エティエンヌ・マッソン/グレッグ・ブラック/ザビエル・シメオン)
④ TSRホンダ(ジョシュ・フック/フレディ・フォレイ/マイク・ディ・メリオ)
⑤ ERCエンデュランス(ランディ・ドゥ・ピュニエ/ジュリアン・ダコスタ/ルイ・ロッシ)
⑥ VRD IGOLエクスペリエンス(フローリアン・アルト/フローリアン・マリノ/ニコ・テロール)
⑦ SRCカワサキ(ジェレミー・ガノーニ/エルワン・ニゴン/ダビド・チェカ)
「やっとレースが始まった、という感じだね。とはいえ久々のレースなので、レース勘もなくなっているし凡ミスもでたけど、予選を終了してなんとかまとめ上げられた。転倒もあったし、ケガしたライダーも出たけれど、それよりレースができる喜び、みんなで一緒にパンデミックと戦えることの喜びが大きいね。明日に向けて詰めるところをしっかり詰めて、最後は皆さんと日の丸を揚げて優勝を祝いたい」とはTSRホンダの藤井正和総監督。
TSRは今大会から満を持してNewCBR1000RR-Rを実戦投入! ブランニューマシンって、まだ実戦不足で、高性能が故の初期トラブルだらけ、ってイメージがあるんですが、そんなハンディなんか感じさせない上々のスタートを切りました。
8月29日 現地時刻12時にレーススタート! スタートフラッグを振るのは、昨シーズンに勇退されたSERTの名物元監督、ドミニク・メリアンでした。そのドミニクゆかりのSERTが素晴らしいスタートを切ってホールショット! すぐ後方にTSRホンダ→BMWモトラッド→YARTヤマハがつけます。
レース序盤、ここに割って入ったのがERCエンデュランスのパニガーレV4R! ライダーはドゥ・ピュニエで、YARTヤマハのカネパと互いにベストラップ出し合戦を演じて、最初の1時間はBMWモトラッド→TSRホンダ→YARTヤマハ→SERT→TatiTeam→SRCカワサキがTOP6。
ただし、これはピットインのタイミングが前後しての経過なので、ここまではTSRホンダ→YARTヤマハ→ERC→SERTといったポジション。YARTがトップに立ったりTSRが逆転したり、その後方にSERTが不気味についていて、パニガーレは1時間を前にガス欠だったのかな、大きく順位を下げてしまいましたが、すぐに順位を挽回、またトラブルで後退したりと、やっぱり順位を引っ掻き回したのがパニガーレでしたね。
2時間を過ぎたところで大事件!なんとトップ争いをしていたチームのひとつ、YARTヤマハが転倒! ピットに戻ってマシンを修復、30番手近くまで順位を落としての再スタートとなりました。
100周を過ぎたあたりで#5TSRホンダが単独トップに立ち、その後もTSRホンダを追う形で#2SERT/#1SRCカワサキ/#6ERCエンデュランス/#37 BMWモトラッドがトップグループを形成。#7YARTヤマハが後方から猛烈な勢いで追い上げ、7時間を終えてTOP10圏内まで追い上げてきています。
ル・マンは4時間過ぎに雨に見舞われ、そこから夕暮れを迎えて、このへんでBMWモトラッドのフォレイも転倒。転倒車が増えつつ、ここからナイトランの時間帯にさしかかります。8時間経過時点の順位は①TSRホンダ②SRCカワサキ③SERT④BMWモトラッド⑤VRD IGOLエクスペリエンス⑥3ART Best of Bikeという順。1位から10P/9P/8P/7P……と10番手まで順位ポイントが付きます。一時30番手までポジションダウンしたYARTヤマハが8番手まで追い上げてきましたね。これが24時間耐久のスゴさ。鈴鹿8耐だったら「YARTヤマハ8位まで追い上げて大健闘!」ってとこですが、レースはまだ1/3しか終わってない! TSRが本当にミスなく、少しずつ少しずつ2番手以下との差を広げています。
ここから上位陣に波乱はなく、深夜の走行時間帯へ。24時間耐久のこのへんの時間帯って、順位の変動は少なく、各チームにトラブルが襲い掛かることがまま、あります。本来なら、夜中でペースが落ち、気温も下がってエンジンの負担が少なく、タイヤもいじめない、って時間帯ですね。
けれど深夜2時過ぎ、2番手走行中のSRCカワサキに異変が起こります。チェカが走行中のスティントで、予定周回数よりちょっと早くピットイン! タイヤ、ブレーキパッド交換、給油をしてライダー後退。通常、耐久トップチームはパッド交換するよりキャリパーごと交換しちゃうんですが、英語実況ではパッド交換、って言ってた感じでしたね。SRCカワサキは、次のピットインで予定にはなかったタイヤ交換をしてピットアウト。SRCカワサキは、このレースから新たにミシュランタイヤを履き始めて、特に夜間走行で「1本のタイヤを2~3スティント引っ張れる」と評価していましたからね。
「現在ジェレミー選手がライディングしております。3位を走行してます。エルワン選手がコースからピットに戻って言ってきた事は『リヤ周りにバイブレーションが出ている』と。これに対してタイヤとホイールを変えてコースに出しました。今のところジェレミー選手のペースは悪くないので、もしかしたら直ったのかもしれませんね」とは、SRCカワサキをサポートしている、日本のトリックスターレーシング、鶴田さんのツイッターより。ちょっと便利な世の中を実感します♪
2度目のポジションポイントが与えられる16時間終了ごろ、トップがTSRホンダ、3ラップ遅れで2番手にSERT、そこからさらに2周遅れで3番手にSRCカワサキ、さらに2周後方にBMWモトラッド、その1周後方にYARTヤマハ、というポジション。6番手以降は5番手まで5周以上の差がついています。
18時間を過ぎたところでは、ERCエンデュランスのパニガーレがリタイヤ。でもレースをひっかきまわしましたね! もしこれが鈴鹿8耐だったら、8時間終了時に13位、もちろんあの序盤のガス欠も、きちんとペース戦略を取ればなかったはずでしょうから、ERCエンデュランス、鈴鹿出てほしいなぁ!
20時間が経過した頃、ル・マンに再び雨。この雨はすぐにやんで、トップチームはスリック→レイン→スリックとタイヤ交換祭り。このへんでYARTヤマハのカネパがBMWモトラッドをパス! 鈴鹿8耐だったら8位まで追い上げて終わっていたはずのYARTが、なんとここへきて4位に浮上です! これが24時間耐久の恐ろしさ!
22時間経過。TSRホンダがトップ、2周遅れでSERT、さらに2周後方にSRCカワサキ、YARTヤマハがその2周後方にいる4番手、その1周後にBMWモトラッド。もうこのままのポジションで終わりかな、という残り2時間、またも雨が降りはじめ、ここでビッグアクシデント! なんと、ここまでコツコツと周回を重ねて世界耐久チャンピオンに王手をかけていたSERTのブラックが接触で転倒! SRCカワサキが2番手に浮上、SERTは恐るべきピット作業のスピードでコース復帰し、3番手で復帰! でもここから1時間半くらい、スプリントレース2本分くらい時間が残っています! SERTはマッソンが走行してSRCカワサキのガノーニを猛烈チェイス!
TSRホンダは2番手以降に3周差をつけてほぼ独走! 2番手にSRCカワサキ、3番手にSERT、4番手にYARTヤマハ、5番手にBMWモトラッド。トップチームに様々なアクシデントが襲い掛かる中、ここまで転倒やトラブルに見舞われていないのは、まさにTSRホンダだけです! ラスト10分では、なんとなんとBMWモトラッドが転倒! そのままフィニッシュラインに帰ってくることなく完走扱いとはなりませんでした。さっきまで5位で20ポイント獲得だったのに、結局ノーポイント!なんてこった! あと10分だったのに!
結局レースはこのまま終了! 勝ったのはTSRホンダ、2着にSRCカワサキ、3着にラスト1時間のハーフウェット路面でスリックタイヤ勝負を挑んだものの追い上げ及ばず、でも表彰台を死守したSERT、4位には大カムバック劇を演じたYARTヤマハが入りました! TSRがブリヂストン、SRCカワサキはこのレースからミシュラン、SERTはおなじみダンロップと、表彰台にあがった3チームは、みんなタイヤブランドが違うってのもなかなか興味深いですね。
さらに日本とのかかわりも深くて、TSRはもちろん鈴鹿に本拠を置く日本のチームだし、SRCカワサキは上にも書いたようにトリックスターレーシングのサポートを受け、SERTはもちろんヨシムラがテクニカルバックアップをしています。最終戦が鈴鹿だったらもっとドラマチックだったろうなぁ、いや、言うまい言うまい……。TSRホンダは8時間/16時間もトップで10ポイントを2回ゲット、優勝で40ポイント、計60ポイントと大量ポイント獲得です!
これでチャンピオンシップランキングは以下のとおり。
①SERT 127P(+48P)
②TSRホンダ 87P(+62P)
③YARTヤマハ 82P(+39P)
④BMWモトラッド 82P(+18P)
⑤SRCカワサキ 80P(+50P)
⑥Wojcikレーシング 70P(+22P)
ほんの24時間前には1:SERT 79P 2:BMWモトラッド 64P 3:Wojcikレーシング48P 4:YARTヤマハ 43P 5:3ARTモト 33P 6:VRD IGOL エクスペリエンス 31P でしたから、SERTは着々とポイントを重ね、TSRはフルポイントで大ジャンプアップ、YARTはよーく追い上げました、BMWモトラッドはラスト10分のアレさえなければ2番手で最終戦だったのに!
最終戦は9月27日にポルトガル・エストリルで。最終戦のため、決勝ポイントはボーナス込み、8時間経過時のポイントも加算されます。逆転の可能性は、計算上やはりトップ5チームまであります。うわぁぁぁ、楽しみぃぃ! 長々とレポートお付き合いいただいてありがとうございました。
文責/中村浩史 写真/fimewc.com Honda Yamaha