ホンダのプロテクター開発理念は「ハードとソフトの両面から安全と安心を」
株式会社ホンダモーターサイクルジャパン
営業本部 パブリックリレーション部
安運・モーレク課 チーフ
安藤 達哉 さん
株式会社ホンダモーターサイクルジャパン
アフターマーケット本部
部洋用品部 部洋用品販売企画課
天野 光太郎 さん
――ホンダがオリジナルプロテクターの販売を始めたのは、何年頃ですか。
天野光太郎(以下天野)「ホンダ独自のプロテクターアイテムとして、最初の『ボディプロテクター』を発売しましたのが1996年になります」
――ホンダはかなり早い段階から、プロテクターを推進していたのですね。
安藤達哉(以下安藤)「そもそも、なぜホンダがプロテクターをはじめ安全装備の開発に取り組むのかをご説明しますと、ホンダの姿勢として『ハード(技術)』と『ソフト(教育)』の両面から安全を追求するというものがあります。バイクのハードですとABSですとか、ゴールドウイングのエアバッグ、考え方によってはトラクションコントロールも安全のための装備と言えると思いますが、そうしたハードとセットで、ソフトの面でも安全をお届けする。その2つが合わさって初めてホンダの商品が成り立つという考えが根本にあります。私どもは、そのような考えのもと、プロテクターなどの安全運転に繋がる装備を提供しています」
天野「ホンダは、ソフトの部分で安全性を訴えるアイテムとしてプロテクターを世に出す狙いがありましたので、まだ世間的にプロテクターの認知が広まる前の、かなり早い段階から商品として販売を始めました。プロテクターに関しては、現在に至るまで『ゴツくて、大きくて、高価』というイメージが根強いので、つねに最新の素材を使い、よりお客様に快適に使っていただける商品の開発を進めています」
――ホンダのプロテクターならではの形状や素材のこだわりはありますか?
天野「初期の商品は胸部を守ることを大前提に、かなりワイドで幅広く、広範囲を守る形でした。ですが着用時の快適性というと、そういった形状は乗車時の快適性を損ねてしまいます。なので現在はそうした問題を解消するために、RSタイチさんとのコラボレーションを図り、『テクセル』という超軽量かつ高硬度の素材を採用することで、守備範囲の面積は従来より小さくしつつも、安全性は損なわれない強度と、軽さという快適性を兼ね備えた商品に進化しています」
安藤「従来品と現行モデルを持って比べていただくと、かなり軽くなったことを実感していただけると思います」
――本当だ、とても軽くなってます!
天野「1996年のボディプロテクター販売当時は、まだプロテクターの強度や衝撃吸収度に対する基準が整備されていなかったんです。ホンダのボディプロテクターは耐陥没性テストの数値もかなり高かったので、プロテクターのひとつの指標になればと、耐久テストの具体的な方法とデータを公開していた時期もあります。後にヨーロッパのCE規格が整備されましたので、現在はホンダも、CE規格の統一基準に基づいた試験を行なっております」
――胸部プロテクター開発における難しさは、どのような点でしょうか。
天野「快適性の向上は現在進行系で苦労している点です。また、プロテクターが入るとウエアのシルエットが変わってしまうので、ウエアの邪魔にならない形にするのもかなり苦労しています。特に女性向けのウエアは難しく、男性の骨格とは形から違うので、同じようにはなかなかいかないですね」
――なるほど。確かに安全性は理解していても、格好悪いと身に着けたくなくなるのがユーザーの心理ですよね。
天野「強度に関しては、年々新素材が出てどんどん進化していますし、素材自体の強度でまかなえてしまうのかなと思います。なので今後も課題として残るのは、つけ心地や快適性、デザインの向上になってくると思います」
――実際、ライダーのプロテクターへの意識は高まっているのでしょうか。
安藤「最近の話ですと、弊社のSNSで『#週末は安全運転について考えよう』と、安全運転に関しての啓蒙活動を行いました。安全にまつわるさまざまな話題をクイズ形式で問題にしたのですが、胸部プロテクターについてのクイズが、一番反響が大きかったんですよ」
――関心度は確実に上がっていると。
安藤「販売店の皆さんが口をそろえるのが、最近は10代や20代の方が二輪免許を取ると、親御さんと一緒にお店に来て、『親を心配させたくないから防具を着けるんだ』とバイク用ジャケットとプロテクターを買っていくそうです。また現在の二輪ユーザーが多い40~60代の方たちも、若い頃と違って家族や周囲の方など、守ることが増えて怪我はできないと仰るとか。これまでプロテクターに対する考え方は、自分自身を守るためのもの、という考えが主流だったと思いますが、今は周囲に心配や迷惑をかけないためのもの、と考え方が変化しているのかもしれないですね。今後はきっと、速く走るためにプロテクターを着けるというよりも、より安全に、よりスマートにバイクに乗るためにプロテクターを身につける。そういう意識が広まっていくのではないかと思います」
ホンダの最新胸部プロテクターはRSタイチとのコラボモデル
着脱の利便性を高めたセパレートタイプ
高い剛性と衝撃吸収を備える一体型タイプ
ウエアを選ばないフィッティングベルト付き製品もある!
文:齋藤春子/写真:南 孝幸/取材協力:ホンダモーターサイクルジャパン