KTM「890 DUKE R」試乗インプレ(宮崎敬一郎)
使い勝手の良さに加えてスポーツ性能も大きく向上
890デュークRは、790デュークをベースに開発されたハイパフォーマンスモデル。排気量拡大で、パワーは105馬力から121馬力へと大幅にアップしている。約2割ものパワーアップはさすがに強烈だ。
でも、フレームは剛性バランスの調整が中心だし、前後サスペンションはショックそのもののグレードアップとセッティング変更がメイン。外装もデザイン的には大きな変化という印象ではない。
もともと790デュークは手頃なパワーをバランスよくパッケージングしたスポーツネイキッド。それゆえ、そのポテンシャルの高さを活かして、今回ほとんど手を加えずにプラス約20馬力を実現できたと考えていいだろう。
まずこの890、ショックそのものが強減衰を滑らかに発揮する上質なものになっている。これまでより乗り心地も格段にいいが、コースでのスタビリティも向上している。
今回の試乗車の装着タイヤは、ミシュランのパワーカップ2・ハイパースポーツ。ほぼレーシングコンパウンドと言うべき「超」ハイグリップタイヤだが、その強烈なグリップ力で車体を粘着させるものの、タイヤが暖まって空気圧が上がり、多少滑るようになってからでも、前後サスはその暴れによる無用なピッチングなどは起こさない。ハードブレーキングでフロントが少しソフトめに感じたりすることはあるが、それでも底突きはしない。非常に収束性がよく、まるで上等なスーパースポーツのショックのような感覚だ。
上の走り写真は、試乗コースである富士スピードウェイショートコースの最終コーナー。カントが急激に変化し、うねりもあるので、調子に乗ってアクセルを開けると派手に滑る。しかし、890デュークはすぐに落ち着きを取り戻すので、身構えつつではあるが、それを承知で「開けて遊べる」バイクになっていた。旋回性も強力だし、許容リーンアングルも深い。スポーツライディングではその頼れる接地力を武器に、乱暴に使いこなせるのが大きな魅力だ。
峠道、ツーリングで乗り心地がいいのも光る。100km/h・6速はタコメーター読みで3500回転。メカノイズもこのクラスの外国製ツインの中では非常に小さく、滑らかに回る。パワーが盛り上がるのは5500回転あたりからで、9000〜10000回転以上が力の核。この力の増幅に伴ってシートの振動も増幅される傾向で、デニムだと少し気になるかもしれないが、レザーのボトムスなら問題ないレベル。また、タンデムシートには振動は出ない。
タンデム、ソロライディングを問わず、フットワークは軽快で、リーンする時の舵角の反応も素直。扱いやすいハンドリングだ。またエンジンの応答はパワーモードを「スポーツ」にしていても滑らかでコントローラブル。紛れもないスポーツモデルだが、使い勝手はコミューターからツーリングまで変幻自在。この懐の深さも魅力だ。
KTM「890 DUKE R」主なスペックと価格
全長×全幅×全高:NA
ホイールベース:1482±15㎜
最低地上高:206㎜
シート高:834㎜
車両重量:約171㎏(半乾燥)
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
総排気量/圧縮比:890㏄/13.5
ボア×ストローク:90.7×68.8㎜
最高出力:121PS/9250rpm
最大トルク:10.0㎏-m/7750rpm
燃料供給方式:FI
燃料タンク容量:約14L
キャスター角:65.7°
トレール量:99.7㎜
変速機形式:6速リターン
ブレーキ(前・後):Φ320㎜ダブルディスク後:Φ240㎜シングルディスク
タイヤサイズ(前・後):120/70ZR17・180/55ZR17
メーカー希望小売価格:税込146万5000円