スポーツツアラーVFR800Fのツーリングへの適性をさらに高めるべくオフロード車のテイストをミックスしたクロスオーバースタイルを取り入れたVFR800X。その特徴と魅力を詳解する。
文:太田安治、小松信夫、ゴーグル編集部/モデル:葉月美優/写真:柴田直行

ホンダ「VFR800X」車両解説(太田安治)

画像1: ホンダ「VFR800X」車両解説(太田安治)

大人の旅バイクとして独自の個性が光る

「アドベンチャーモデル」というセグメントに、パリ~ダカールラリー出場マシンをイメージする人は多いだろう。実際、1980年代に相次いで登場したBMWのR80GS、ホンダXLV750R、ヤマハXT600Zテネレ、スズキDR‐Z800、カワサキKLR650テンガイといったモデルたちは「デュアルパーパス」を標榜し、ヨーロッパ山岳地帯の荒れた舗装路やダート路面での走破性が高く評価された。

現在でもダカールラリーの主役は大型アドベンチャーモデルだが、市販車ではダート走破性を要件としない車種が主役だ。タフなルックスを採り入れているが、構成的には実用性、快適性重視のツーリングモデル。自動車のSUVと同じく、実用性とファッション性を両立させるパッケージングが人気を呼んでいる。

そうしたオンロード指向のアドベンチャーの中でも別格の快適性を見せつけるのがVFR800X。「クロスランナー」と別称を持つ通り、そもそもスポーツツアラーのVFR800Fと基本コンポーネンツの多くを共用している兄弟車だけにオンロード適性が高いことは当然。しかもVFR800Fのルーツは1994年に登場したRVF750(RC45)に繋がる。出自からしてバリバリのスーパースポーツなのだ。

画像: ホンダ RVF/RC45

ホンダ RVF/RC45

取り回しでは246kgの車重なりの重さを感じるが、このジャンルのオートバイとしては足着き性抜群で、身長165cm程度のライダーでも両足が接地し、跨がったままのUターンやバックも安心して行える。

高くて幅の広いハンドルにより走行中の上半身はほぼ直立。座り心地のいいシートは着座位置の自由度も高く、見通しが効いて開放感も大きい。大型アドベンチャーにありがちな高い位置から遠隔操作しているような違和感はなく、首や腕に負担がかからないから長時間走行も街乗りも楽だ。ただしステップ位置はスポーツモデルのごとく、膝の曲りがきつめ。

シート高は835mmまたは815mmに調整できるが、足着きに不安がなければ高くセットした方が自然な姿勢が取れ、ライダーの重心位置が上がることでハンドリングが素直になってコーナリング中のライン修正もしやすい。

画像2: ホンダ「VFR800X」車両解説(太田安治)

前後サスペンションは高い剛性を持つが、ストロークを有効に使って乗り心地を確保するためソフトめの設定。加減速にメリハリを付けるとピッチングモーションが大きめに出るが、スプリングプリロードとダンパーの設定を調整するだけで、かなりスポーティーな走りにまで対応できることは実証済みだ。

しかしVFR最大の魅力はV型4気筒エンジンの特性だ。高めのギアに入れて3000回転以下で走らせると、V4エンジン特有のバラついた排気音を響かせながら穏やかにレスポンスする。しかしフル加速でハイパーVテックが作動し、2バルブから4バルブに切り替わると豪快な吸排気音に変わり、パワーが湧き出してくる。

12500回転でレブリミッターが作動するまで軽く一気に吹け上がる感覚はRC45を彷彿とさせるものだ。ただ、スーパースポーツ由来のエンジンゆえに極低回転域でのトルクは細い。ゼロ発進時、特に上り坂やタンデムライドでは丁寧なアクセル・クラッチ操作が必要になる。

画像: ライダー:葉月美優

ライダー:葉月美優

6速・100km/h時はおよそ4000回転だが、元々が高回転型エンジンなので振動や音による「回っている感」はまったくない。80~120km/hの高速クルージング域ではまるで滑空しているようにスムーズ。車重も味方してドシッとした直進性を見せ、山間部の高速コーナーでのスタビリティーも文句なし。クイックなレーンチェンジでは反応が鈍く感じるが、長時間ライディングではこの適度な鈍さも疲労を抑えてくれる。

アップライトなライディングポジションとスクリーンを含めたウインドプロテクション性能が生む快適さも特筆もの。上下54mmの範囲で調整できるスクリーンを一番高い位置にセットしておけば、走行風はヘルメットに受ける程度。肩を揺すられることもなく、高速連続走行がまったく苦にならない。

画像3: ホンダ「VFR800X」車両解説(太田安治)

ガソリンタンクは20Lと大容量で、ABS、トラクションコントロール、グリップヒーター、オートキャンセルウインカー、ETC車載器、12Vアクセサリーソケットまで標準装備。オプションのナックルガードを追加すれば寒さや雨に対する防御力はさらに高まる。

V4エンジンのスムーズさと豪快さ、剛性の高いフレームとソフトな設定のサスペンション、アップライトなポジションと素直なコーナリング性能。それぞれがプラス・マイナスの対をなして幅広いシチュエーションに対応する。こうした固定観念にとらわれないコンセプトがVFR800Xの魅力。大人の旅バイクとして独自の個性が光る一台だ。 

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