レース前に事件続出!

MotoGPはいよいよ最終の3連戦。この週末にバレンシアGP(名称はヨーロッパGP)、翌週に再びバレンシアGPがあって、その翌週に最終戦がポルトガル・アルガルベサーキットで行なわれます。
マルク・マルケスなきシーズンのチャンピオン争いも佳境で、ここへ来てまだ上位6人が32ポイント内にいるという大混戦! 

画像: シーズン序盤にエンジントラブルが多発したといわれていたヤマハYZR-M1 ここへ来て大きなツケが…

シーズン序盤にエンジントラブルが多発したといわれていたヤマハYZR-M1 ここへ来て大きなツケが…

そして3連戦の初戦は、レース前から話題に事欠かない一戦となりました。
まずパドックを騒がせたのはヤマハのエンジン改良違反について。ご存知のように、現在のMotoGPはシーズンを通して5基のエンジンを事前申請→登録して、それを1シーズン回していく、というシステムを取っています。
事前申請を通ったエンジンは封印をして、つまり改良や加工、改造は禁止。今回、それをヤマハが破ってしまったというニュースが報じられたのです。
これはエンジン内部に「承認を受けたパーツ」でないものを使用した、というもので、ヤマハによるとMotoGP開幕戦ヘレスでエンジントラブルが発生し、エンジン部品を交換した、と。
その際、本来は届け出義務のあるエンジン内部品交換に関して、無許可で封印を解いてしまったようで、これがレギュレーションに抵触。もちろん、性能向上やオーバーホールでなく、危険防止のための部品交換ということで、ルール的にOKと理解してしまったのかもしれませんが、封印を解くというのは特別な場合のみ、それもMSMA(MotoGPエントラントのメーカーによってつくられたマニュファクチャラー協会)に許可を得て初めて可能になるものだけに、ヤマハはこの裁定を受け入れた、というものでした。

これによって、ヤマハはコンストラクターズポイントを50P、チームポイントも、モンスターヤマハファクトリーが20P、ペトロナスヤマハが37P、剥奪されることになりました。ライダーポイントに関してはお咎めなしで、違反を犯したエンジンで戦ったレースに対するポイントが剥奪されないなんてどうなんだ――という声も上がっています。当然ですね、特にチャンピオン争いをしているライバルは、言いたかないけど言わずにはおれないでしょう。

画像: 速さは充分、終盤に向けてラストスパートを期していたはずのビニャーレス 万事休す…か

速さは充分、終盤に向けてラストスパートを期していたはずのビニャーレス 万事休す…か

さらにもうひとつは、マーベリック・ビニャーレス(モンスターヤマハ)の「6基目エンジン」使用問題。ヤマハはビニャーレスが今シーズン6基目のエンジンを使用する、と決定したことで、ビニャーレスはこのバレンシアGPの決勝レースを、予選順位にかかわらずピットレーンスタートとなりました。
6基目のエンジンを使用するというのは、5基で回せなくなってしまった、つまりエンジン1基についての使用可能想定距離をオーバーしてしまった、ということ。
もちろん、シーズンイン前に1基についてのエンジン使用距離については充分に準備して開発しているはずなので、これについても上記の「エンジントラブル→エンジン内部品交換」の影響があったのかもしれません。

ビニャーレスにしてみれば、バレンシアGPを前にランキング3位、それもトップまで19P差と、充分に射程距離にあっただけに、大事件。下手すればこの決定でチャンピオン争いから脱落してしまうかもしれません。もちろん、この決定もチャンピオン争いのライバルたちにしてみれば、1戦だけピットレーンスタートで2戦目以降は(ほぼフレッシュエンジンなのに)通常スタートだとペナルティの意味になってない――という風にも取られてしまうわけです。
そんなドタバタでスタートしたバレンシアGPだったんです。

画像: 朝に雨ふり、晴れていって路面はウェット--そんな2日間でした

朝に雨ふり、晴れていって路面はウェット--そんな2日間でした

決戦の地、バレンシアはレースウィークスタートから不安定な天候。金曜は雨のち回復、土曜も同じような天候で、ウェットコンディションの予選を制したのはポル・エスパルガロ(レッドブルKTMファクトリー)、2番手にアレックス・リンス(SUZUKIエクスター)、3番手に中上貴晶(LCRホンダIDEMITSU)が入りました。

ここまでのチャンピオン争い候補者でいえば、ジョアン・ミル(SUZUKIエクスター)が2列目5番手、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナスヤマハ)は4列目11番手、ビニャーレスは15番手だけれどピットレーンスタート、フランコ・モルビデリ(ペトロナスヤマハ)は3列目9番手、アンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティチーム)が4列目12番手。
不安定なコンディションだったとはいえ、チャンピオン争いのライダーのなかで順調に予選を終了したのはスズキのふたり、ということになりますね。

画像: 決勝レースはドライコンディション スタートは予選フロントローの3人が好発進

決勝レースはドライコンディション スタートは予選フロントローの3人が好発進

そして決勝でも、この予選結果が反映されることになります。
スタートで飛び出したのはポールシッターのエスパルガロ。リンスが続いて中上が3番手、その後方にミル。大集団がバレンシアの2コーナーをクリアした頃、ビニャーレスがピットレーンからスタートします。

画像: 素晴らしく安定したハイペースで周回したミル 初ワールドチャンピオンは目前!

素晴らしく安定したハイペースで周回したミル 初ワールドチャンピオンは目前!

オープニングラップでミルが中上をかわして3番手に浮上すると、大事件が発生! クアルタラロがアレイシ・エスパルガロ(グレシーニaprilia)とほぼ同時に転倒! 接触もない、時々みられる「シンクロ転倒」でした。クアルタラロはすぐにマシンを起こして再スタートしますが、これで最後尾までポジションダウンし、なんと20台のMotoGPマシンの19番手にビニャーレス、20番手にクアルタラロという、ヤマハにとっては一気にチャンピオン候補がふたりともいなくなってしまうといってもいい惨劇。

画像: 1周目、クアルタラロ悔やんでも悔やみきれないスリップダウン! こちらも万事休す…か

1周目、クアルタラロ悔やんでも悔やみきれないスリップダウン! こちらも万事休す…か

さらにヤマハの不運はこれに終わらず、新型コロナウィルスに感染して2レースを欠場し、このバレンシアGPの土曜FP3から復帰したバレンティーノ・ロッシまでが5周目にエンジンストップでリタイヤ。ビニャーレスのマシンで起こることは、時期をずらしてロッシのマシンにも起こりえますから、ロッシは2戦あとの最終戦で6基目のエンジンを下ろすことになるのかもしれませんね。

画像: スズキが1-2フィニッシュ! MotoGP期はもちろん、2スト時代にさかのぼっても、1982年の最終戦西ドイツGPのマモラ-フェラーリ-レッジアーニの表彰台独占レース以来のようです

スズキが1-2フィニッシュ! MotoGP期はもちろん、2スト時代にさかのぼっても、1982年の最終戦西ドイツGPのマモラ-フェラーリ-レッジアーニの表彰台独占レース以来のようです

レースは2周目にリンスがトップに立ち、4周目にはミルが2番手に上がってスズキ1-2フォーメーションが完成。3番手にエスパルガロ、4番手にはレース中盤に中上にかわされるまで、ミゲル・オリベイラ(レッドブルKTM-TECH3)が走ることになります。
リンスが前、ミルが後ろ、というスズキGSX-RRの1-2体制は、17周目にミルがトップに浮上。ミルとリンスは同じようなぺースで周回しながら、ミルがジリジリとリンスを引き離す走りを見せ、最終的に1秒半ほどの差をつけながら完勝! 

19年にMotoGPクラスに昇格したミルが、MotoGP29レース目にしてキャリア初優勝を達成! 2位にリンスが入り、これでスズキは3戦連続W表彰台です。3位にシーズン4回目の表彰台となるエスパルガロ、中上が自己最高タイの4位でフィニッシュしました。

画像: 予選フロントローの3番手、決勝は4位と、あと一歩!なタカ 同コース2週連続開催が得意なだけに来週は!

予選フロントローの3番手、決勝は4位と、あと一歩!なタカ 同コース2週連続開催が得意なだけに来週は!

これでランキング争いは、転倒から再スタートしたクアルタラロが14位=2ポイント獲得に終わったことで、残り2戦でミルの37ポイントリード! クアルタラロと同ポイントのランキング2位にリンスが上がってきましたが、次戦で2位に26ポイント以上の差をつければ、ミルのワールドチャンピオンが決まることになりますから、クアルタラロかリンスが優勝すると125P+25P=150P、対してミルは150+26-162=14、つまり3位=16ポイントを獲得すれば決定、つまり表彰台に上がればチャンピオン確定です!

決して易しい条件ではありませんが、ミルの初戴冠がグッと現実のものになってきましたね。最終3連戦の初戦でのこの展開は……ちょっと予想外でした!

※MotoGP第13戦 バレンシアGP01正式結果※
□MotoGP
1 ジョアン・ミル       SUZUKIエクスター
2 アレックス・リンス     SUZUKIエクスター
3 ポル・エスパルガロ     レッドブルKTMファクトリー
4 中上貴晶          LCRホンダIDEMITSU
5 ミゲル・オリベイラ     レッドブルKTM-TECH3
6 ジャック・ミラー      プラマックDUCATI

チャンピオンシップポイント
①ジョアン・ミル 162P ②ファビオ・クアルタラロ 125P ③アレックス・リンス 125P ④マーベリック・ビニャーレス 121P ⑤フランコ・モルビデリ 117P ⑥アンドレア・ドビツィオーゾ 117P ⑦ポル・エスパルガロ 106P ⑧中上貴晶 105P ⑨ジャック・ミラー 92P ⑩ミゲル・オリベイラ 90P

写真/motogp.com MICHELIN 文責/中村浩史

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