ヤマハ「YZF-R1」「YZF-R1M」試乗インプレ(宮崎敬一郎)
エンジンの滑らかさは新型でも素晴らしいまま
最近、YZF-R1/R1Mに乗っていなかったせいか、久しぶりのクロスプレーンクランクの直4は新鮮に感じる。不等間隔爆発なので、排気音は粗野でV4風。だが、他の直4よりずっと滑らかで、フリクションの少ない2ストのような感触がある。
この良質な滑らかさはクロスプレーン直4ならではの感触で、その雑味のない回り方が扱いやすさを支えている。その特徴、そして魅力に久しぶりに再会した気分だ。
そんなエンジンを搭載するR1/R1Mだが、新型ではいくつか変更点がある。まずシリンダーヘッド回りが新作。大雑把に言うと、ドライバビリティに関わる制御をダイレクトに行うための機械的な構造変更だ。
ライディングアシスト機構群の制御プログラムも一新された。KYBサスのR1、オーリンズの電子制御サスを装備するR1Mともに足回りはリセッティング。R1Mのフロントフォークは新タイプに変更された。
今回この2台を乗り換えながら試乗した。まずスタンダードのYZF-R1から見ていこう。
エンジン、フレームは共通で、パワーはともに200PS。ただ、扱いにくさは皆無だ。むしろ、これまでよりドライバビリティが滑らかで扱いやすい。大パワーに対する「身構え」は不要だ。
もっともパワーの立ち上がり方がダイレクトなライディングモードの「A」にしていても、普通に街中から峠まで使える。ストリートモードに相当する「B」やレイン相当の「C」でも、パワーの立ち上がり方はこれまでより格段に自然な繋がり方になった。
エンジンの基本特性として、極低回転域の粘りは希薄だが、3500回転も回していれば峠道を意のままに駆け抜ける。パワーが立ち上がるのは約7000回転以上で、力の核は11000〜14000回転。
減速比から計算すると、たとえローギアでもこの力を堪能したければ、速度は少なくとも130〜140km/h以上になる。100km/h・6速が3700〜3800回転といったところなので、6速でR1のパワーバンドの下端を知るためには、速度は概ね200km/h以上が必要、ということになる。
今のリッターSSとはそんな乗り物だ。
しかし、素晴らしいハンドリングはどの速度域でも味わえる。その魅力は身軽さと、上質なスタビリティ。KYBのハイグレードサスはスタンダードのままだと乗り心地は幾分硬めだが、愚痴が出るほど不快なものではない。荒れた路面にも強く、パワーを掛けて無理矢理に車体を路面に押さえつけなくてもしっかりした接地感でフルバンク近くまで耐える。しかもその機動を軽い操作でできる。
こういった扱いやすさはこのクラスのSSの中でもトップレベル。たとえパワーを使い切れなくても、上手くなったような気分に浸れるだろう。それほど従順だ。
こんな基本特性は上級バージョンのYZF-R1Mでも変わらない。外装がカーボンでいくらか軽いのもあってか、気持ち的にはさらに身軽な身のこなしのようにも感じる。さらに、電子制御サスの威力が絶大。
基本的にスタンダードより乗り心地はいい。足回りの減衰可変レンジが硬めになるモード「A」の「T-1」でかなりハードなライディングをしている時でも同じだ。逆にソフトな「R-1」モードでは、どこでも快適なのに、スポーツランにも耐える接地力まで生む。魅力はこの守備範囲の広さだ。
冒頭で書いた「滑らかで回しやすい」感触。それぞれの素晴らしいハンドリングにコレが加わって、R1のスポーツバイクとしての魅力を光らせている。