『楽しいバイクテクニック入門』 著:J・S・ポポフ / 訳:進士古径(1983年・現代教養文庫)
今はもう版元の社会思想社ごと無くなっちゃいましたが、ちょっと昔に現代教養文庫というレーベルがありました。なんせ「教養」ですから、エンタメな小説とかはあまり出してなくて、メジャー路線とかけ離れた人文科学・自然科学・歴史・思想・古典系の固い本が多いイメージ。しかし、一方では80年代に流行ったゲームブックをいち早く手がけてたりしたし、映画や演芸関係の本、古典ミステリー小説とかの全集、さまざまなジャンルの小事典、さらに硬派なドキュメンタリーから分類不能のよくわかんない読み物まで、独特なセレクトの面白い本もあるんで、気がつけばウチの本棚でもポツポツ見かけます。
そんな中に「楽しいバイクテクニック入門」なんて本が。いつ買ったんだ? 覚えてないなぁ。作者のヤコフ・サヴェリエヴィッチ・ポポフさんはソ連の人。しかも日本で出たのは1983年(原著は1960年代に出てると思われるけど詳細は不明)、まだベルリンの壁が崩壊する前、冷戦時代の末期。日本はちょうどバイクブームでたくさんバイク入門書は出てだけど、ソ連のバイク入門書を出すってなにか意図があったのか。現代教養文庫らしいけど。
ハッ! これはきっと、バイク入門の形を借りて、共産主義時代のソ連ライダーのあるある話とかが書かれてるにちがいない! カレル・チャペックの「園芸家12カ月」みたいな感じ? とか勝手に思って読んだら、本当に単なる入門書でしたよ…ま、そりゃそうだ。
もちろん入門書らしく基本的なテクニックの説明から、ロードレース入門なんて項目まで、幅広くカバーしてるんですが。
それ以上に、悪路での走り方の解説がやたらと懇切丁寧なのが特徴。ダートはもちろん、雪の中や湿地帯、川、山や森の中、さらには丸太や小枝が並んだ道なんて細かな想定まで、普通のバイク入門書とは一味違うところ。当時のソ連の道路事情が反映されてる…のかも。
さらには「強行渡河作戦」なんて項目まで! 何かと思えば、橋が無くて、水深が深くて走っても渡れない大きな川を越えるのに、イカダを組んでバイクを乗せて渡るという荒技。楽しいのか? それ? ツーリングというか、本物のアドベンチャーですがな。さすが世界最大の大陸国家はスケール違うなぁ…。でもよく読むと「以上の方法はかなりの野生派ライダー向きである。ツーリングを組むとき、屈強なスポーツマンをグループに入れよう」と書いてあるくらいだから、普通はソ連のライダーでもやらなかったんだろうなぁ。