2020年のビッグニュースは4気筒250cc登場!
そろそろ年末の声も聞こえてくるようになりました。2020年の大ニュースは、コロナウィルスだ鈴鹿8耐の中止だなんてのは置いといて、オートバイ界では四半世紀ぶりの4気筒250ccモデル、カワサキNinja ZX-25rの発売が大事件でしたね! 詳しくは現在発売中の月刊オートバイ12月号をね♪ そこには福ちゃんが筑波サーキットで乗ったインプレッションが掲載されてます。
そのNinjaZX-25R、ついにビッグレースにデビューしました。もちろん、250ccモデルのレースで4気筒マシンのレギュレーションもまともに整っていない状況ですから、NinjaZX-25Rのクラスを新設してのレースでした。
レースは「九州エンデュランスフェスタ」。これは大分オートポリスサーキットと、同じく大分のSPA直入で行なわれる400cc以下のモデルで行なわれる耐久レース。SPA直入は全長1400mあまりのミニサーキットですから、以前は「Under250オープン」って呼ばれる250cc以下のモデルだけの大会でしたけど、現在はオートポリス大会と名称統一をして「九州エンデュランスフェスタ」と呼ばれるようになったんですね。
これは、関東でいう「もて耐」に相当するアマチュアビッグレース。このレースにNinjaZX-25Rが出場する、と。その話を聞きつけて、おぉ、もうそろそろ気の早いショップがテストがわりに始めるんだろうなぁ、なんて思ってたんですが、どうも調べを進めていくと、カワサキ若手期待の岩戸亮介が出ると。井吉亜衣稀も出ると。
なぬ?なんだこのメンバー! バリバリのアジア選手権レギュラーじゃないか、と思ったら、そのペアライダーが清原明彦? 塚本昭一? なんだ、このスゴいメンバー!
そうしたら、全日本ロードレース最終戦MFJグランプリで、久しぶりに清原さんとお会いしまして。カーボンカウルでおなじみのA-TECの宮崎社長と一緒にいらしてね。普段はキヨさん、って呼ばせてもらっている、説明不要のレジェンドです。
――キヨさん、ご無沙汰してます!
キヨさん「おぉ、中村君か。なんやねん、元気しとったんか」
――はい、こないだお店伺おうかと思って新大阪から取材の帰りに電話したら『いま忙しいねん』って断られて以来ですよね。
「ホンマか、そんなことあったか。堪忍堪忍(笑)」
――キヨさん、九州の耐久に出るんですって? もういいトシやねんからケガせんように気をつけなダメですよ?
「お、そうかそうか。取材に来るってか。よっしゃよっしゃ、spaに言うといたるわ」
――いや、そうじゃなくて気を付けて、って……。
「お、待ってるからな。約束したで。ほなワシ行かなアカンから」
――ちょ、キヨさん待って……。
そんなわけで、なんか取材に行くことになったんです。
SPA直入は大分県・竹田市のミニコース。大分の南西、というと僕の大好きな熊本の北西にあたるのかな、ツーリングにサイコーの久住の高原に囲まれた立地。熊本空港から2時間、大分空港から1時間、ってところです。
このコースは、オートポリスと同様、カワサキが所有するコースで、1990年に設立。ちょうどZEPHYRが発売されて、カワサキのファンクラブ「KAZE」が成立した頃です。
「カワサキとしてバイク売るばっかりではイカン、ユーザーと遊ぶこと考えなダメやで」とバイクという「ハード」だけではなく、走りやイベントという「ソフト」を提供しようと山林を造成、設立したサーキットです。
この頃、よくイベントやミニバイクレースが行なわれていましたが、わたくし中村、不覚にもお邪魔したことがなかったんです。前夜、熊本市内に宿泊、クルマで朝2時間くらいで到着しました。
SPA直入は全長1430mのミニバイクコースってことで、関東でいうと筑波1000みたいな感じでしょうか。斜面にレイアウトされたコースで、スタートラインから下っていく、反時計回りのコース。オートポリスもそうだけど、まわりの景色が素晴らしい! ヨーロッパのコースみたいだなぁ、ってサーキット名になったSPAは「おんせん県」ともよばれる大分の環境はもちろん、ベルギーのスパ・フランコルシャンも意識してのネーミングだって言ってました。
ミニコースならでは、コンパクトなパドックは、日曜朝から活気にあふれてました。250cc以下の耐久レースってことで、出場マシンはCBR250R/250RRにYZF-R25、Ninja250/250R/250SLにNinjaZX-25Rが4台。その4チーム、やっぱり九州の有力カワサキショップ系で、キヨさんのチームは「Vamos with PSK&YSS・A-TECH Racing」。キヨさん、塚本さん、亮介に亜衣稀以外にも、西嶋修、松崎克哉、清末尚樹ら全日本のライダーもいます。柳川明も出る予定だったんですが、ケガしてて欠場、と。
MFJカップJP250に出場してるケビン・シュワンツレプリカのヘルメットが印象的な15歳の山浦正司郎もいます。おぉ、現役バリバリの全日本ライダーもいるのかぁ! しかも山浦は2気筒Ninja250――4気筒と2気筒のバトルが見られるんだ!
27台が参加するレース、公式予選はその山浦の所属するTeamWITH87KYUSHUバトラックスがポールポジション、2番手に2気筒Ninja250のTEAM WITH&MA、3番手に2気筒CBR250RRのアサヒコム&現役復帰組Ver1.0、それに続いて4気筒を使うキヨさんとこ。予選タイムは1分を切って50秒ってところ。このラップタイムで5時間耐久って! 5時間走ると300周越えちゃう!(笑)
スタートはルマン式でライダーがマシンに駆け寄って、のローリングスタート。1コーナーが下り坂で台数が多いから多重クラッシュが起こりやすい、って理由でのローリングスタートのようです。
ペースカー退去のあと、やはり初っぱなから飛び出したのは山浦。もう、2番手以下をグイグイ引き離して、開始10分で周回遅れを作っちゃうほど。ちょっとレベチな速さです。
その後方、2番手争いは#94アサヒコム~、#41TEAM WITH MA、#52BS☆グローリベア&ENG林、そして#37キヨさんのチーム、スタートライダーは塚本昭一! ホントはさんづけしなきゃなんだけど、1992年TT-F1チャンピオンだもん、まだ現役みたいなもんだから呼び捨てなのだ。その塚本、チャンピオンを獲ったのが30過ぎでしたから、調べてみたら今年還暦です、つまり60歳です! まじか!
トップの山浦がぐんぐん独走するなか、その2番手争いグループからは塚本が抜け出して、単独2番手へ。その元TT-F1チャンピオンを追うのは、予選9番手あたりからスタートした2気筒Ninja250で走る#69チーム能塚&カツキレーシング。スタートライダーの伊東通敏は2018年九州ロードレース選手権の国内ライセンスJSB1000のチャンピオンで、ことし2020年には国際ライセンスクラスに出場、同ポイントのランキングトップでシリーズを終えましたが、九州選手権がレース開催数不足でシリーズ不成立となってしまって。
実は伊東、いつも僕も参加させてもらっているケニーロバーツ・ジャパンラリーのスタッフのひとりだったことがあって、お知り合いなんですね。今年、カタナで阿蘇ツーリングに出かけたとき<https://www.autoby.jp/_ct/17398791>も来てくれたし。
スタートして20分ごろから、先行する塚本、追う伊東、そこに全日本ライダーの清末尚樹(WITH 87 KYUSHU 不動産部)が追い付いてきての三つ巴。ちなみに伊東はJP250の2気筒Ninja250、清末は4気筒NinjaZX-25Rです。この時点でトップ4が2気筒→4気筒→2気筒→4気筒、というオーダーですね。
伊東はその後、数周にわたって塚本と大バトルを展開し、なんとかかんとかこれをパスして2番手に浮上。これでトップ4は2気筒→2気筒→4気筒→4気筒となるわけですが、トップが15歳の現役JP250ライダー、2番手は49歳とはいえ九州選手権JSB(幻の)チャンピオン、そして3位に還暦ライダー塚本、4位に現役全日本ST1000ライダー20歳――なかなか2気筒と4気筒の比較にはなりませんね……。
実際に4気筒と戦った2気筒ライダー、ナマの声は!
そこでレース後に伊東を捕まえて話を聞いてみました。
――スタートしてしばらく塚本さん追っかけてたね。4気筒追いかける2気筒、どんなでした??
伊東「いや、速いです! ストレートスピードとかエラい差です」
――でもイトーちゃん、こないだカタナでツーリングした時に、NinjaZX-25Rで来てたじゃない? つまり4気筒もよく知ってるでしょ。
「そう、あのときは久留米の能塚モータースさんとこでお借りしてナラシのお手伝いしてたんです。公道では乗ったけど、サーキットでは走ったことありませんでしたからね」
――公道ではどうでした?
「すごくスムーズでエンジンがきれいに回るオートバイでしたね。低回転からスムーズ、これが2気筒にはない絶対メリットでしょう。今はNinjaZX-25Rでしか味わえない」
――その4気筒がサーキットを走ると?
「僕のNinja250はJP250仕様なんです。2気筒エンジンではきちんとパワー出てるんですけど、特にストレートは4気筒が速かったですねぇ! 最終コーナーを同じくらいで立ち上がってもスリップにもつけないくらいでした。アクセル開けるタイミングが同じでも、4気筒の方が一歩目が速い。そこからぐんぐん伸びましたから、spaの短いストレートで1コーナーのはるか手前で抜かれました。もう笑うしかないくらい」
――そんな速度差があったんだねぇ。
「最終コーナー、僕が先に立ち上がっても、すぐ後ろにあのカン高い音が聞こえたらアウト(笑)。抜かれ方、スパッと気持ちいいくらい」
――2気筒の方がいいところは?
「JPの車両ですから、もうサーキット仕様というか、ブレーキングからコーナリングは2気筒の方が速いと感じました。車重が軽いし、セットアップが進んで積み上げがありますからね。ただ、今後NinjaZX-25Rのセットアップが進んで積み上げができてきたらすべてにおいて手がつけらんなくなくなりますね」
――短いコースだし、もう少し動力性の差は出ないと思ってた。
「いや、エントラントでも『まだ2気筒の方が有利なんじゃないか』って話題になってましたけど、ふたを開けてみたら……でした」
――でも街で乗ったり、レース見ていても、もう少し低速コーナーからの立ち上がりなんかでは2気筒の方がいいかな、って思ってた。
「spaは短いコースとは言え、わりと開けていくコーナーも多いし、上りのS字なんかがあって、パワーサーキットですからね。ストップandゴーが続くレイアウトだと面白いと思います」
実際に4気筒と戦った2気筒のナマの声。参考になります。そしてレースは結局、山浦のいる#34 TeamWITH87KYUSHUバトラックスが終盤までトップを独走、2番手以下に3~4周差をつけていたんですが、ラスト15分くらいに他車と接触したのか、コースアウト! 結局コース復帰に時間がかかり、終始2番手を走っていたキヨさんとこの「Vamos with PSK&YSS・A-TECH Racing」が大逆転優勝! 2位に西嶋修のTeamWITH87KYUSHUバトラックス(#34と同チーム名なんです)が入って4気筒が1-2フィニッシュ! 3位にもTeamWITHの2気筒Ninja250、4位にもTeamWITHの単気筒Ninja250SLが入りました。4気筒→2気筒→単気筒という結果に終わりました。
NinjaZX-25Rが21年からJP250公認車両に??
もちろん、これが即「4気筒最高!」につながるわけじゃありませんが、NinjaZX-25Rがアマチュアビッグレースでのデビューウィン(って言っていいのかな)を飾りました。
最後に、また伊東の話。
「今回のZX-25Rには、キヨさん、塚本さんをはじめ、岩戸選手、井吉選手という世界クラスのトップライダーが乗っていたわけで、そこも考えないとですね。2気筒だと、ミニバイクの延長感覚で楽しく乗れます。ただし、4気筒は相応のライディングスキルが必要だと思います。たとえば全日本やエリアのレースで、2気筒のJP250の次はST600になっちゃうので、間にNinjaZX-25Rのような4気筒250ccがあれば、その『いきなり600』リスクは減ると思います」
ロードレースのピラミッドでいえば、たしかにJ-GP3やJPの250ccの次がいきなり4気筒の600ccですから、その「いきなり600」感は減るのかもですね。
さらに、全日本選手権併催のMFJカップで行なわれているJP250でも、いま4気筒250ccを公認車両にしようかどうしようか、ってところで議論が白熱しているようです。
2気筒と4気筒、パワー差があるのはもちろん、4気筒には最低重量とか回転数制限をハンディとして課して、今のCBR250RRとNinja250、YZF-R25と戦わせよう、と。海外のWSS300なんか、イコールハンデを作って、YZF-R3とNinja400、CBR500Rが同じクラスを走ってますからね。
それを考えればきちんとしたレギュレーションを作って、あまりにもNinjaZX-25Rが連戦連勝するようなら、ウエイトハンデを乗せていくとか考えれば、面白いクラスにして行けるような気がします。
ただし、僕みたいな立場から言えば、このspaのような全国にあるミニコースで、4気筒250ccのレースがあるってことがすごく魅力的でした。2気筒はちょっと物足りないな、それが4気筒に対するチャレンジ心を刺激してくれる。
はるか九州・大分まで取材に出かけて「あぁ、出てみたい、走りたい!」って感想がいちばん強かったもの。それが答えです! オレもspa走りたいぃ!
撮影・文責/中村浩史