インディアン「FTRラリー」インプレ・解説(松下尚司)
インディアンのストーリーとFTRが持つ新たな価値観
インディアンといえば、アメリカ最古のバイクブランド。年代物ともなればヴィンテージバイクとしての価値の高さは言わずもがな。その一方で、昨今フラットトラックレースの世界でナンバー1ブランドとして君臨している。アメリカン・フラット・トラック・レースの最高峰クラスで2017年から4年連続でチャンピオンを獲得中だ。
そのチャンピオンマシン「Indian Scout FTR750」をイメージして作り出されたのがFTR1200。つまりはフラットトラックのレーサーレプリカのような存在なのだが、そのFTRシリーズに2020年加わったのがFTRラリーだ。ラリーはオフロードテイストをプラスしていると考えれば分かりやすい。具体的にはスポークホイール、ブロックパターンのピレリ・スコーピオン・ラリーSTRタイヤ、メーターバイザーに2インチポジションを上げるT-6アルミハンドルバーなどが専用パーツだ。
そのプラスされた専用パーツ部が効果的に感じられたのは実走行でのこと。約5cmほど高いポジションとなったハンドルが、Uターンやギャップを超える際の扱いやすさに直結する。オフ車とまでは言わないが、フラットトラックイメージのスタイルもあって、十分な足長感はあり、操作がしやすいのである。
乗らずとも感じ取れるキャラクターと存在感
1203ccのV型2気筒エンジンはパワフルながら、ブロックパターンのタイヤのおかげで乗り心地はしなやか。最近のこの手のタイヤには本当に感心させられるが、ワインディングはもちろん、想像以上に高速走行時も気持ちよく走れてしまう。特性上ライン変更はクイックではないが、じわっとしたしっかりとしたグリップ力で接地感が強く安定していて怖さがない。制動系の装備にも抜かりはなく、ブレーキの効きもコントロール性も文句なしだ。
注意したいのはエンジンに余力があるので、4000回転も回すことなくオーバースピードとなってしまう。高速道路ではせっかくなので搭載されているクルーズコントロールで、おまかせにするのもありかもしれない。
インディアンにはクルーザーモデルが多くラインアップしているが、それらがブランドの長い歴史が培った存在だとしたら、FTRはフラットトラックチャンピオンというバッググラウンドに新しい価値観を注入したモデル。FTRブランドから新しい歴史が始まり、新しい価値観を生み出していく。
軽快でファッショナブルなモデルなだけにストリートで強い存在感を見いだせるが、フラットトラックというキーワードは決して借り物ではなく、チャンピオンマシンの血統を受け継いだ本物である。この説得力は、乗らずとも感じ取れるキャラクターとして、車体デザインや力強いエンジンサウンドにも宿している。
何かと大排気量化をしていくクルーザー系の一方で、この排気量でストリートでも高速走行でも高い満足度の走りを手に入れられるのは、FTRシリーズの魅力。特にラリーはスタンダードよりも、ひと回り扱いやすさを手に入れたモデルとして、長距離ツーリングだって勧められる。
ヴィンテージとしてではなく、既存のアメリカンモーターサイクルでもない、インディアンの新しい価値観は乗るべき候補の1台だと言える。