アフリカツインを「真のオフロードバイク」にする!
今回はアフリカツイン を真のオフロードバイクにすべく、私・三橋淳流のカスタムを紹介していこうと思う。
このコーナーで何度も書いているのだが、アフリカツインはもともとはラリーバイクのNXR750の流れを受け継いだモデルだ。今でこそ、そのNXRという原型を失ってはいるが「ラリーマシンから生まれたツーリングバイク」というコンセプトは今も変わらないはずだ。
第一、このプロモーションビデオでは砂漠でドカーンと走らせているじゃないか! これだけの走りでオフロードバイクじゃないとは言わせない。フロント21インチにこだわっているのも、アフリカツインのアイディンティティがオフロードにあるからだろ? 私はそう思っている。
私はこれを見て、アフリカツインに乗ると決めたんだから!
つまりアフリカツインは紛れもなくオフロードバイクだということだ。
だがしかし! 現状では、アフリカツインはオフロード走行はできるけれども「真のオフロードバイク」だとは言い難い。
なぜか?
その答えを話す前に、まずは「オフロード走行において必要な性能って何か?」から考えてみよう。
一番大事なこと。それは「転んでも壊れない」こと!
オフロード走行にもっとも必要なもの。それはオフロード走行に適したエンジン特性? それとも、ジャンプもこなす長いサスペンションストローク?
もちろん、それらも重要な要素ではある。実際、アフリカツイン はアドベンチャーバイクの中ではかなりのロングストロークサスペンションを装備しているし、エンジン特性だってパルス感を大事にしたトルク重視のもの。ディメンションだって、オフで安定して走れる仕様になっている。
でも一番大事な要素が抜けている。それは
「転んでも壊れない性能」だ!
アフリカツインは転んでしまうと、ラジエターシュラウド周りがごっそり傷つきやすい。傷がつくのは仕方ないとしても、それが気にならないような傷ならいいのだが、ガッツリガリガリ傷がつくと、オーナーとしては悲しくなってしまう。せっかく大事にしているバイクが傷だらけになるのはやっぱり忍びないよね?
でも、傷つけたくない→オフロードは走らないとなってしまうことだけはないようにしたい。
もっとも、転んだらガッツリ傷がつきやすい、というのは、アフリカツインに限った話ではなく、他メーカーのアドベンチャーモデルにもありがちな弱点でもあるんだけど。
転ばなければどういういうことはない!
などという、シャア・アズナブルみたいなセリフを吐ける奴はこの世にはいない。だって、オフロードは転ぶ危険性がかなり高いエリアだからだ。オンロードのツーリングなら転ばずにライダー人生を終えることも不可能ではないだろうがオフロードでは無理無理!
凸凹路面に石があったり滑りやすいポイントやぬかるみがあったりと、転ぶ要素てんこ盛りのワンダーランド。それは林道とて同じこと。土の上を走るというのは、そのくらいリスクがあることなのだ。
だから、オフロードバイクは転んでも傷つきにくい構造なのが常識と言ってもいい。
250ccクラスのオフロードバイクは各社そういう設計になっているし、それはレーシングモデルも同じ。もちろん、勢いよくぶっ飛んでしまったとか、転んだ先に大きな石があったというような場合は仕方ないこともあるが、ただの立ちゴケ程度ならせいぜいハンドルグリップエンドが傷つく程度。打ち所が悪ければレバー類も折れたりするが、それもハンドガードをつけていればかなりの割合で防げるものだ。
それと、市販の250ccクラスのオフロードバイクは転んでも傷がつきにくく、もし傷がついてもあまり目立たず気にならない、柔軟なプラスチックでできた外装を使っている。
ところが、アフリカツインをはじめとしたアドベンチャーバイクではそうはなっていない。だから、もし転んだら? と思うライダーがオフロードに入ることを躊躇してしまうのは当然のことだ。
だから「転んでもバイクは傷まない」と言えるような「性能」をアフリカツインに与えたいと思ったのだ。
そこで、カスタム第2弾ではアンダーガードを作ることにした!
どんなアンダーガードが理想か?答えはラリーマシンにある
アフリカツインには、社外パーツメーカーから強固に守ってくれるパイプガードが販売されているし、それをつければ傷つき防止には安心。だが、私はつけない。
何度もいうが、私はラリーライダーなのだ。ラリーバイクにパイプガードはついていないでしょ?だから絶対つけないのである。
これはダカールラリー2020年優勝マシンのCRF450RALLY。ガード類なんてついてないでしょ? それは、このバイクが転んでも大丈夫な設計になっているからだ。
そこでパイプガードではなく、アンダーガードをつけたいと考えたわけだが、普通、アンダーガードは下回りの保護が本来の目的。飛び石だったり、石に乗り上げたりした時にエンジンやフレームを守るものだが、それを大型化して、横に転んだ時でも、そのガードが最初に接地するように作りたい、と考えたのだ。
今のラリーバイクはそのように設計されている。こうして前から見れば、まるでダルマの様にエンジン底部あたりが一番張り出しているシルエットをしているのだ。
なぜそうなっているかというと、燃料タンクがそこまで伸びてきているからだ。こうすることでバイクの低重心化が図れる上に、転んだ時に接地する位置が低くなるので、車体のダメージも小さくなる。もし上の方に当たれば、それだけ倒れた時にかかる力は大きいもんね。低いところが最初に当たったほうがダメージは低いのだ。
CRF450RALLYも、ほらこの通り。下側が膨らんでいるでしょ!
ダカールマシンのタンク形状の変遷はラリーマシンの歴史!
実は、このタンク形状の変遷こそ、ラリーバイクの歴史そのものと言ってもいい。もともとパリダカに出るバイクは、市販のオフロードバイクにビッグタンクと大型ライトをつけたモデルがほとんどだった。アフリカの砂漠を長距離走れるだけのガソリンと、夜でも明るいライトの装着。これらの改造で走っているライダーがほとんどだったのだ。
1982年に優勝したシリル・ヌブーのXR500は市販モデルをベースにビッグタンクとライトをつけたもの。これがダカールラリーの「定番スタイル」だった。
前から見るとこんな感じ。大きくタンクが張り出しているのがわかる。この時代のマシンでは、転ぶとこの大きなタンクが凹んだり、穴が空いたりしたのだ。
その後、BMWのGSがやってきてパリダカマシンの歴史は変わるのだが、実はその時のGSだって、基本はビッグタンクに大型ライトという構成。もちろん、エンジン、サスペンション、フレームと大幅に改造してはいるけれど、ワークスマシンとしては当たり前のレベルアップであり、ダカールを走るためにビッグタンクにした、ということに変わりはない。
なぜなら、BMWはダカールラリーのレースフォーマットを見て、これはGSに向いてるんじゃないか? と考えてパリダカに参戦してきたからだ。
これはBMWがワークス参戦したときのマシン。ワークスらしく細かいところに手は入っているが、ビッグタンクに大型ライトというシルエットは従来のままだ。