文:太田安治、小松信夫/モデル:葉月美優/写真:柴田直行
ベスパ「LX 125 i-GET」試乗インプレ(太田安治)
割り切った小径ホイールが生む軽快感!
イタリアの航空機メーカーだったピアジオ社が1946年に送り出したベスパは、モノコック構造の車体と前後片持ちサスペンションなどに航空機技術を活用。エンジンから後輪駆動部までを一体化したスイング機構とともに、独創的かつ合理的な構造として現行モデルまで脈々と受け継がれている。
ベスパのラインアップは豊富だが、2005年にベスパブランド誕生60周年を記念して登場し、数字「60」のローマ数字表記をそのまま車名としたコンパクトモデルが「LX」だ。
まず目を惹くのが曲面で構成された車体デザイン。これならオートバイに乗らない人でも親近感を覚えるだろう。車重が114kgと軽量なうえ、ハンドル切れ角も充分で、狭いスペースでも楽々と取り回せる。数値に出ない扱いやすさへの拘りもベスパらしいところ。
加減速の多い市街地で強く感じたのが車体姿勢変化の少なさだ。減衰を効かせたサスペンションで路面とタイヤグリップの状態が掴みやすく、独自のリンク式フロントサスペンションはブレーキング時のノーズダイブがほとんど起きないため、コントロール性もいい。
フロント11、リア10インチの小径ホイール、短めのホイールベースが生む操縦性は軽快そのもの。引き換えに路面の荒れた場所では車体が跳ね気味になるが、着座位置とハンドルが高めのライディングポジションにより、車体が少々バタついても難なく抑え込める。
エンジンはシンプルな空冷単気筒。静粛性が高く、耳に付くメカノイズもない。エンジンマウントの改良により、車体に伝わってくる振動も前モデルより減った。小排気量スクーターは発進加速性能を重視してエンジン回転を高めに保つオートマチック変速設定になっていることが多いが、LXはゼロ発進が抜群に穏やか。2000回転程度でスムーズに遠心クラッチが繋がり、グイッ! ではなくスゥ~と動き出す。スロットルをじんわりと開けても、ガバ開けしてもダッシュ力の差が少ないので、雨天時や砂の浮いた路面など、滑りやすい状況でも神経質にならずに済む。50km/hあたりから加速の勢いが落ちるものの、そこから先も速度がスムーズに伸び、最高速は100km/hを超える。
ベスパらしい愛らしいルックスと、シティコミューター適性に徹した操縦性/エンジン特性がLXの魅力。いかついライダー装備ではなく、キレイめのカジュアルウエアで颯爽と街中を駆け抜けたい。