今年の全日本MXは「D.I.D全日本モトクロス選手権」です
この週末は九州・熊本、HSR九州に行ってきました。ん? 全日本ロードレースって、先週もてぎで開幕したんじゃなかった? しかもHSRってミニコースじゃね?って思ってくれたあなたは正解。この週末、HSRはオフロードコースの方で、全日本モトクロスの開幕戦が開催されたのです。
昨年は、シーズン開幕直前に新型コロナウィルス感染拡大が本格化して、開幕が大きく8月30日までずれて、シリーズが全4戦でしたからね。まだまだ感染拡大のないように気をつけながらでも、予定通りに開幕できただけでもひと安心。
今シーズンの全日本モトクロスは、D.I.Dチェーンでおなじみの「大同工業」がシリーズ冠スポンサーとなっての「D.I.D 全日本モトクロス選手権」。いいですね、単発レースじゃなくシリーズ全体に冠がつくなんて、日本の二輪モータースポーツでは初のこと。僕らメディアも、出来うる限り「全日本モトクロス」ではなく「D.I.D 全日本モトクロス」と表記するように心がけます。
まず今シーズンは、ロードレースの方でもたくさん議論を呼んだ「希望ゼッケンナンバー廃止」ルールで、前年のランキング順がそのままゼッケンになります。チャンピオン山本は400ではなく1、ヤマハ富田と渡辺は317と110じゃなく2と3です。
ほかレースフォーマットや運営方法などの変更もあるんですが、それはあくまでインナーのお話。MFJは、ファンのみんなにわかりやすく、見やすいモータースポーツを目指そうとしてくれています。会場に来てくれるファンだけじゃなくて、ライブ配信や情報発信とか、より広くレースの世界を届けてくれるようにお願いします!
今シーズンの大きな変化と言えば、まずはライダーの移籍ですね。IA1のビッグニュースはランキング5位・能塚智寛がホンダドリームレーシングHAMMERからTeamカワサキR&Dに、入れ替わるように同4位・小方誠がTeamカワサキR&Dからホンダに6年ぶりのカムバックでドリームレーシングHAMMERへ、そして星野裕がホンダ系チームHAMMERからスズキ系チームSBEへ移籍。
さらにスズキのチーム運営をしていたマウンテンライダーズがマシンをスズキからカワサキにスイッチしています。これで、スズキRM-Zのユーザーが一気に減ってしまいました。
IA2では、2020年シリーズを圧勝したTeamカワサキR&D横山遥希が、オーストラリア選手権へ転出し、ゼッケン1不在のシーズン。このクラスでは、ランキング3位の内田篤基がマウンテンライダーズ所属のまま、マシンをスズキからカワサキにスイッチしています。
レディスクラスでは、ランキング3位の久保まながハスクバーナからホンダにマシンをスイッチ、ホンダドリーム京都東チームHAMMERから、スポット参戦を表明しています。
そんなこんなでの開幕戦。九州・熊本HSR九州は好天に恵まれて、コースはカラッカラ。そうするとホコリがすごく(きっと)路面もハードパックなスリッパリな状態になるはずです。それで、コース整備は何度も何度も散水をすることになります。土曜から幾度となく散水されたコースは程よく湿ってくれて、歩くだけでいかにもコンディションがよさそう! 散水されていないコースサイドはサラサラのカラッカラでしたから、いかに路面管理が重要なのか、思い知らされました。セッションが終わってすぐに散水車がコースイン、って手順、本当に頭が下がります。
2日間で実に10レース!幸せなにおなかイッパイっす
そして全日本モトクロスは、土曜~日曜のひと週末にかけて、開催クラスが5つ。JX(ジュニアクロス)、LMX(レディスモトクロス)、IBオープン(国際B級オープンクラス)、IA2(国際A級250ccクラス)、IA1(国際A級450ccクラス)です。このうちIBオープンは20分+1周の2ヒート制、IA2が30分+1周の2ヒート制で、IA1は今回、15分+1周の3ヒート制。このIA1のトリプルヒートレースが、この数年の全日本モトクロスの目玉のひとつとなってますね。
このうち、土曜のうちにジュニアクロスとIBオープンのヒート1の決勝が行なわれ、日曜にレディスクラス→IA1ヒート1→IA2ヒート1→ジュニアクロスのもうひとつ年下のチャイルドクラスが行なわれて、午後にIA1ヒート2→IBオープンのヒート2→IA2ヒート2からの、最終レースがIA1のヒート3です。もう、モトクロス観戦おなかいっぱいです(笑)。ひとつのレースが最長でIA2の30分+1周だから集中して見られるんですね。
レース結果はMFJのYouTubeチャンネル<https:www.youtube.com/watch?v=Q11QQ-VMNrM&t=6994s>でたーっぷりフルレースが見られます。ロードレースでも配信<開幕戦もてぎ大会は https:www.youtube.com/watch?v=poZSVxIj2I0&t=25295s>されているレース動画ですが、ロードレースの方はどうしてもカメラが遠く「引き」の映像が多いんで、ちょっと臨場感に欠けることは仕方ないんですが、モトクロスはコースサイド、それもコースそば数10cmにカメラを設置してあるから、もうコーナーごとのバトルが見られるんです。定置カメラの数も多いから、動画配信の充実度はモトクロスの方が上ですね!
4月とは思えない、まるで夏のような陽気で、気温はそれほど高くなく、コース散水のおかげもあって、観戦にはサイコーの開幕戦でした!
日曜の決勝デーだと、レディスモトクロスが楽しかったなぁ!
スタートから飛び出した小野彩葉(いろは、って読みます T.E.スポーツ)を本田七海(bLUcRUチームKOH-Z with 秀光ビルド)と川井麻央(まなか、って読みます T.E.スポーツ)が追っかけながら、本田は接触転倒で後退、先行する小野をジリジリと追い詰めた川井がトップでゴールしました。川井は20年シーズンを4戦全勝し、これで5連勝目。その川井とチームメイトの小野は2着が自己最高リザルトで、3位には序盤の後退から追い上げた本田が入りました。
レディスクラスは4ストローク150ccマシンと2ストローク80ccが混走で、川井&小野はホンダCRF150、本田はヤマハYZ80LW(ラージホイール=前19後16インチホイール)。スズキ、ヤマハは4ストロークモトクロッサーを作ってないんですね、スズキRM85LやハスクバーナTC85なんてモデルもエントリーしています。
IA1は各ヒート15分+1周の短期決戦! いや、モトクロスの15分なんて短期決戦でもなんでもなくて超ハードな肉体酷使レースだとは思うんですが、2ヒート制の時には30分+1周で1レースでしたからね。前半トバして後半タレる、後半にパワー温存して序盤はボチボチ、なんて戦略も大きく変わってきます。なんたってモトクロスは、マシン+ライダースキル+体力のうち、体力の占める部分デカいですから、レース時間って重要なはずです。
このクラスでは、19~20年チャンピオン・山本鯨(29歳・けい、って読みます ホンダドリームレーシングBells)が脂の乗り切った走りを見せています。
そこに対抗するは富田俊樹&渡辺祐介のヤマハファクトリーレーシングデュオに、今シーズンからカワサキに乗る能塚智寛、ホンダに乗る小方誠、ここまでがランキング5位以内。それからランキング6位に小島庸平(Bells Racing)、7位の大塚豪太(T.E.スポーツwith GOSHI)、8位の星野優位(bLU cLUレーシングチーム鷹)、10位の横澤拓夢(TKMモータースポーツいわて)までが赤ゼッケンをまとうことになります。モトクロスも今年から、前年のランキング10位以内が赤ゼッケンなんです。昨シーズンまでの現時点のランキングトップが赤ゼッケン、ってルールもわかりやすかったけどなぁ。
ヒート1ではチャンピオン山本とランキング2位の富田が激しい戦いを見せました。スタートから山本が先行、富田と渡辺、能塚がそれを追い、一時は富田、能塚が山本をパスして先行。ただしこれは、山本がふたりを前に出したようにも見えました。
レース残り3分ほどで、山本が能塚をパスして2番手へ、そしてジリジリと先行する富田を追い上げ、4秒ほどあった差を1周ごとに削り取って最終ラップ! 最終ラップでは1秒5あった差を、山本はコース前半で削り取り、ビッグツリーって呼ばれている登りの左ヘアピンで富田をパス! この時、ふたりは接触があったんですね。そこから今度はジャンプ後のダブルへアピンで、ジャンプ→左ヘアピン→右ヘアピンの最後、右ヘアピンで富田が山本に接触! いや、接触っていうよりTボーンアタックでしたね。アウトいっぱいを曲がって立ち上がる山本のどてっぱらにまだ向きを変えきれない富田が突き刺さる、と。
もちろん、故意ではないんだろうけれど、ラインを変えて山本をパスしようとした富田が止まり切れずにドン――そんな風に見えました。
これで3~4番手を走っていた能塚、渡辺が1~2位フィニッシュ、転倒から無我夢中にマシンを引き起こして再スタートした山本が3位でゴール。あの突き刺さりでは富田にペナルティあるだろうなぁ、と思ったものの、それはありませんでした。富田はレース後、コントロールタワーに呼び出しを食らっていましたが、正式裁定は発表ありませんでした。
ヒート2でも、やはりヒート1でトップグループを走ったメンバーがレースを作っていきます。山本がスタートで出遅れて集団に飲まれ、富田、渡辺のヤマハYZ勢が先行。序盤には町田旺郷(あさと、って読みます チーム887with YSP浜松)が3番手、星野が4番手、その後方に能塚、山本がいます。
ここからぐいぐいペースを上げてトップ争いに加わりたい能塚と山本。しかし、山本のペースがもうひとつ。レース序盤では無理しなくとも、能塚にくっついてトップグループとの差を縮めたい局面なんですが、能塚が乗れていたし、山本はデカい泥つぶをまともに食らったか、走行中にゴーグルを投げ捨てて走っていたので、これはペースが上がんないわけです。
順調にトップを走る富田、つかず離れずの渡辺との差を詰めた能塚が3番手で、4番手を走っていた山本はラスト2周でスリップダウンを喫し、小方が4位、山本は7位でゴール。
しかしレース後の車検で、能塚のカワサキKX450が音量オーバーを取られて失格! 小方が3位に繰り上がりました。
ヒート3では山本がホールショット、そのままヒート1の再現を見せるか、と思ったんですが、オープニングラップのコース前半で小方、渡辺、能塚が先行。4番手を走る山本は、後に小島にもかわされてペースが上がらない? レース後に写真をチェックしていたら、1コーナーを立ち上がってすぐ「あれ?あれ?」って感じでエンジン回りをのぞき込んでいました。レース後に、山本のマシンのエキパイに穴が開いていたと言いますから、おそらくこの時に飛び石を食らったんでしょう。山本のマシン、走行音も大きかったからね。後で聞いたらヒート1の転倒で指も負傷していたのだそうです。
レースは能塚が序盤にトップに立って、小方、渡辺、小島が続く展開。レース中盤にはトップから5番手まで、ゼッケン5能塚→4小方→3渡辺→2富田→1山本と続いていましたね。
レースは終盤に2番手小方がトップ能塚を追い詰め、ラスト2~3周に小方が2~3回パッシングを見せながら、最終ラップでもう1回前に出るものの、最後は能塚が差し切って優勝! うわぁいいレース! 能塚はヒート1で3位を走りながら前2台が転倒してタナボタ優勝、ヒート2では3位でゴールしたものの音量オーバーで失格、そしてヒート3で文句ない逆転優勝を遂げました! ヒート1のタナボタだって、そこの位置を走ってなきゃ取れないボタモチですから、文句なし! 音量違反ったって何馬力も上がるわけじゃないんだから、ルール上は失格でも今日の殊勲は勝手に能塚、って認定します。
3ヒートを終えた総合結果では、渡辺が2位/2位/3位で総合優勝。総合2位に優勝/失格/優勝の能塚、総合3位は5位/優勝/4位の富田でした。
チャンピオン山本はヒート1でブツけられ、ヒート2はゴーグルの中に泥入っちゃって視界不良、ヒート3は指が痛いしマシンにもトラブルがあっての5位フィニッシュと、不運がいくつも襲い掛かりましたが、これがチャンピオンのプレッシャーなんでしょう、まわりからの徹底マークがすごい! これを跳ね返して初めて、常勝チャンピオンとなれるのです。
ちょっと長くなっちゃいましたが、IA2クラスは大城と内田のスピード、それに20年の地方選手権を全勝して特別昇格した柳瀬大河(Bells Racing)が、両ヒート7位とはいえ、ズバ抜けたスピードを見せてくれました。柳瀬、実は19年シーズン、ここHSRの開幕戦のジュニアクラスのウィナー(当時は14歳!)だったんです! 当時のWebオートバイ<https://www.autoby.jp/_ct/17266359>でも掲載してました。若い芽が着実に育ってる、いいねぇ!
次回D.I.D全日本モトクロス第2戦は5/1~2に開催の広島・世羅グリーンパーク弘楽園大会! MFJのYouTubeチャンネルがあるとはいえ、現地観戦のド迫力がぜぇっっっっったい楽しいですから、ぜひ現地へ! 詳細の開催情報も、MFJウェブサイト<https://www.mfj.or.jp>へどうぞ!
写真・文責/中村浩史