文:太田安治/写真:南孝幸/取材協力:(株)モーターサイクルドクターSUDA
「点検整備」とは?
126cc以上のオートバイが道路を安全に走れるコンディションになっているかどうか、1年に1度の頻度で義務づけられているのが「法定点検」。
これは道路運送車両法によって定められているルールだが、点検を怠っても罰則がないので、あまり気にしていないライダーが多い。ただし排気量251cc以上の小型二輪車は車検時に陸運事務所に点検記録簿を提出するので点検整備が必須になる。
自分で点検整備して記録簿を作成し、車両と共に車検場に持ち込む「ユーザー車検」という方法もあり、僕自身は過去30年間すべてユーザー車検で済ませてきた。多くのオートバイに試乗する仕事がら不具合には敏感だし、ショップでのアルバイトやロードレース経験から車検に必要な最低限の整備はできるので、ユーザー車検で不合格になったことはない。
とはいえ、あくまでも素人レベル。取材などでプロの作業を目の当たりにすると、不良箇所の見極めや修理作業の方法に驚かされることが多々ある。
今回の点検整備モデル車は2012年2月に新車で購入したNinja1000。ブレーキパッドやチェーン/スプロケットといった消耗品やエンジンオイル/フィルターなどの交換は適宜自分でやってきたので特に不具合は感じていなかったが、走行距離が4万km近くになったので、4回目の車検を機に、改めてプロの目で点検、整備をしてもらうことにした。
点検整備をおまかせした場所はこちら
車体・前後ホイール・ブレーキ
整備は不調箇所の把握から始まる。試乗で大きな不具合がないことを確認後、整備ピット内で目視と計測で各部をチェック。まずは足回りから作業に取りかかった。
総合的チェック&診断にプロの目が光る!
試乗によってエンジンの反応、音、振動、前後ブレーキのタッチと効き、サスペンションの動き、車体の直進性、ハンドリングなどを総合的にチェック。今回、整備を担当してくれた『ドクターSUDA』の稲村メカニックはライダーとしても豊富な経験を持つだけに、些細な不調も見逃さない。
1:タイヤの溝の深さが0.8mm以下だと車検には通らない。整備記録簿には数値の記入欄があるため正確に計測する。併せて偏摩耗やヒビ割れ、異物刺さり、傷も確認。
2:ホイールを回転させてホイールとディスクの振れ(曲がり)を点検。ダイアルゲージで計測し、ホイールは1mm以上、ディスクは0.3mm以上の振れがあれば修正もしくは交換。
3:市販車のほとんどが採用しているステンレス製のディスクは使用に伴って摩耗する。ニンジャでは新品時の厚さが5.5mm。ダイアルゲージで計測したところ摩耗は0.1mmだったので問題なし。
4:ホイールベアリングの動きは指先の感覚で点検。ゴリゴリとした感触があれば交換を検討する。今回はオイルシールの状態も良く、ベアリンググリスの入れ替えだけで済んだ。
5:記録簿にはブレーキパッドの厚さ記入欄がある。このニンジャはデイトナのゴールデンパッドχに交換後11500km走行で残り1.5mm。許容範囲内だが、念のため新品に交換。
左右同時交換が原則!
ダブルディスク車の場合、パッドは左右キャリパー分を同時に交換することが原則。リアのパッドを交換したのは新車購入後初めて。今回はコントロール性が気に入っているデイトナのパッドに変更した。(デイトナ・ゴールデンパッドχ:1台分で合計1万6830円)
6:キャリパーピストン全周の汚れを洗剤で洗い流し、オイルシール部分に専用グリスを塗布することでスムーズな動きを取り戻す。これでかけ始めのタッチがぐっと良くなる。
7:普通に走っていてもブレーキキャリパーにはパッドの削れカスや泥がこびりつく。ピストンに傷や錆はなかったので丁寧な洗浄とシールのグリスアップだけで済んだ。
8:新品パッドの摩材の角を少し削ることで鳴きを防止し、初期のタッチも向上する。単なる交換で済ませないのがプロの技だ。
9:ブレーキフルードは徐々に水分を吸って変質し、スラッジが発生してマスターシリンダーやキャリパーの機能低下やベーパーロック現を引き起こす。このニンジャは3年ほど前に交換したが、いつの間にか飴色に変色していた。交換した新品フルードは無色透明だ。
FINISH:積み重ねた経験と知識による圧倒的スピート感はプロならでは!
フルード交換後にはマスターシリンダー、ブレーキホース、キャリパー内に混入した空気を排出する「エア抜き」作業が必須。コツが必要で素人には難しい作業だが、プロは専用工具を使って片側10分程度で作業を完了。