ヤマハ「AG200」の特徴
ここまでこの連載に取り上げたオートバイは、基本的に日本では販売されていないモデルばかりだった。ただし、今回の車種にはかつて国内正規モデルが存在して、私も乗ったことがあります。そう、ピンときた人がいるかもしれない、それはヤマハAG200!
このAG200、「AG」は「Agriculture=農業」の略で、農作業用バイクなんて呼ばれることも。馬代わりってことで「ワークホース」なんて言われたりもします。別にヤマハだけじゃなく各メーカーに同様なモデルはあって、ホンダのCT系なんかもよくそんな用途で使われてる印象。
農作業用といったって、トラクターみたいに農業機械的な機能を備えているわけではなく、広大な農場や牧場、放牧地とかを見回ったり、牛や羊を追ったりするのが主な用途。だから走る道は大抵整備されていないダートで、下手をすると道ですらなかったりするから、オフロード車的な走破性が要求される。
ただし速さは要求されないからハイパワーも高性能なサスペンションも必要なし。その代わり馬車馬のように使い倒されるので、高い信頼性は必須の条件。
ヤマハにはAG200以外にも、AGシリーズとして125などが存在。オーストラリアやニュージーランドをはじめ、アフリカや中南米諸国など、世界各地で信頼性の高い実用車として今も販売されている。
AGシリーズ自体は1970年代半ばに誕生、AG200が開発されたのは1983年。コンパクトでシンプルな4ストトレールのXT200の基本メカニズムがベースというから、同じくXT200から発展したセローやTWの遠い親戚にもあたる。
用途に合わせて元々タフで扱いやすかった空冷シングルエンジンを、より扱いやすく粘り強い特性にデチューン、マフラーも静粛性を重視したものを装着。
速さではなく低速での扱いやすさ、力強さを重視してトライアラーのように超ローギアードで、シフトパターンもニュートラルが出しやすいボトムニュートラルに変更。また、クラッチを切ったままにできるクラッチレバーロックも装備している。フレームやハンドルなどは、手荒く使われても平気なようにとにかく頑丈な造り。ブレーキは前後ともシンプルで整備しやすいドラムを選択。
外観では、まず作業用の荷物を乗せるために用意されたフロントキャリアと大きなリアキャリアが目につく。
さらに悪路でも快適な大きくフカフカなシート、専用の燃料タンク、フルカバーチェーンケースなど、もはや外観に軽快なXTの面影はなく、機能一点張りの無骨なスタイルに変身。左右どちらにでも停車できるよう、車体の右側にもサイドスタンドが装備されているのも特徴だ。
登場からもうすぐ40年を迎える超ロングセラーとなった現行AG200だが、目立った改良点は当初19インチだったフロントホイールの21インチ化、セルスターター追加、電装系の12V化くらいで、基本的に登場時の姿そのまま。それだけAGの使い勝手の良さが、根強く世界中の農業の現場で評価され続けているということだろう。
ちなみに国内仕様のAG200が登場したのは1985年。ただし日本の農家向けではなかった。考えてみればAG200が必要な広大な農地を持つ農家なんて日本では北海道くらい、近所の田んぼを見回るには原付で十分なのだ。
ヤマハ的にも「ちょっと変わったオフ車」という扱いだったようで、一般用途向けにミッションの6速化など各部も変更されていた。でもバイクブーム全盛の当時、国内向けAG200はあまりにも地味すぎた。ということで、日本の農家さんにも一般ライダーにも受け入れられず、短期間で消えていったのでした。
前述の通り、この国内仕様に以前乗った経験があります。どこにも尖ったところがなく、ノンビリゆったり走るには最適な性格。もちろん乗り心地はいいし、でっかいキャリアで積載性も抜群。おまけに燃費も良くて、少々のダートもへっちゃら、とにかく頑丈で信頼性も抜群。これってツーリングには最高なんじゃなかろうか。
文:小松信夫
ヤマハ「AG200」(海外仕様・現行モデル)の主なスペック
全長×全幅×全高 | 2160×930×1155mm |
ホイールベース | 1345mm |
シート高 | 830mm |
車両重量 | 128kg |
エンジン形式 | 空冷4ストOHC2バルブ単気筒 |
総排気量 | 196cc |
ボア×ストローク | 67×55.7mm |
最高出力 | 14.3PS/7500rpm |
最大トルク | 1.5kgf・m/6500rpm |
燃料タンク容量 | 10L |
変速機形式 | 5速リターン |
タイヤサイズ(前・後) | 80/100-21・4.10-18 |
ブレーキ形式(前・後) | ドラム・ドラム |