文:濱矢文夫、小松信夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
BMW「R1250GS アドベンチャー」インプレ・解説(濱矢文夫)
強烈な個性を生むフラットツインエンジンはハイテク搭載でより魅力的に
この機種がカテゴリーのベンチマークになっているゆえんは乗ってすぐに感じるユーザーフレンドリーさだろう。走り、装備、機械的な特徴を個別に細かくみていくよりも、それらも含めた全体のまとまりの巧みさに感心するのが先にくる。
排気量1254ccの水平対向2気筒エンジンは低回転域からしっかりトルクが出て力強く加速をするけれど、角を丸くしたようなフィール。どんなシチュエーションでもスロットル操作に対して素早くレスポンスしながら、そこに神経質なところがまるでない。上質な制御と表現したくなる。
オートバイという乗り物は経験や運転技量の違いによって印象に大きな差がうまれることがある。このR1250GSアドベンチャーはその差を小さくして誰が乗っても気持ちよく動かせるようにできている。
エンジンのレイアウトもあって重心が低く、目の下にある大容量30L燃料タンクを装備した大柄な見た目から気圧されるかもしれないが、例えば混雑した街中でクルマの後ろについてノロノロと動く場合も実に安定している。
身長170cmの筆者でも困らない足つきも味方をして億劫にもならない。空いた道を流して走るときも頻繁にギアチェンジしなくても、右手の動きひとつでアイドリングに近い回転数から速度をのせていける許容範囲の広さ。
不足を感じさせない下からのトルクを出しながら、回していくと中域から可変バルブタイミング機構であるシフトカムが高速へと切り替わり力強さを増して速度の伸びに拍車がかかる。切り替わるところもスムーズでシームレス。力強いエンジンパワーでも従順で実にイージーだ。
オンロードのワインディングでフロントに19インチ、リアに17インチ外径のホイールを履いた走りは自然で、デュアルパーパスというより、ネイキッドモデルに近いとさえ感じるくらい軽快に走れる。縦置きエンジンのメリットであるヒラヒラとしたフットワークをみせても急がつくようなところがない。滑らかにリーンして旋回体勢を無理なく維持しながら駆け抜けていける。
フロントサスペンションに採用されているBMW独自のテレレバーシステムは一般的なテレスコピックと違い、減速時でつんのめるように荷重が移動せず良好に追従。ピッチングモーションがおさえられ前後のタイヤが路面とコンタクトしているのがダイレクトに伝わり路面が近い感覚。まったりとクルーズのみならず、スタイリングとは裏腹にスポーティーな走りも楽しくこなせる。スタビリティもなかなか。
この御しやすさはダートに入っても続いて、凸凹をいなして倒しやすく、軽いとは言えない車両重量だとは思えないほどグリップの悪いところでもフロントタイヤをコントロールできてしまう。滑って逃げたとしても回復させやすい。結果、車体を無理なく倒せていけるから、ちゃんと曲がる。苦手そうな小さく方向を変えるシーンでもスイスイとこなす。
いろいろなシーンに合わせられるライディングモードがあって、ABSやトラクションコントロールだけでなく、ダイナミックESAによるサスペンションコントロールの作り込みは"見事"と言いたくなるもの。すべての電子制御は出しゃばらずに黒子としてのサポートをこなす。GSが誕生して40年の進化と熟成は、いかにしてライダーの負担を減らし、FUNを与えるかにあるのだと思う。
クルマの高級サルーンみたいな移動中だと思わせない静の世界ではなく、鼓動もあるオートバイらしいダイナミックな動の世界、走る悦びを大切にして、粗をつぶしながら高い次元でバランスさせていくことに向かったベクトルの迷いのなさ。
乗る人が頭でっかちに考えずに意識しないで「これならどこにだって行ける」と思わせるところがGSのすごさである。単純に乗りやすいと思わせるだけでは終わっていない。うがった見方をして、この感想に異を唱えようとしても、個人的な嗜好を排除するとなかなか反論が出てこない。ベンチマークとされるのは伊達ではない。