文:濱矢文夫、小松信夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
トライアンフ「タイガー1200XRT」インプレ・解説(濱矢文夫)
気分やシチュエーションに合わせてライディングモードをアジャスト
トライアンフのアドベンチャーでは最上位機種。電子制御技術などが急速に進化して先鋭化していく競争相手に負けないように多くの技術を投入した意欲的なオートバイ。タイガー1200には3種類ある。
ワイヤースポークホイールのXCAとデザートエディションはよりオフロード走行性能も高めたもので、このキャストホイールを履いたXRTは、オンロードでの使い方に主軸を置いたグランドツアラー的なモデルとなる。
トライアンフの代名詞と言える水冷直列3気筒エンジンは、ショートストロークの1215cc。141PSの最高出力は9350回転で、122Nmの最大トルクは7600回転で発生。3気筒というのもあって、リッタークラスのアドベンチャーの中ではトップクラスの高回転型だ。
5種類のライディングモードがあり各々で特性が違うけれど、2000回転を超えたところから8000回転を超えるところまで、概ねフラットに近いトルクが出てくる。
こういうところも市場のイニシアチブを取ろうと肩を並べ競っている他社機種と似た、扱いやすくて汎用性が高いアレンジだ。
それでも140PSオーバー。2気筒エンジンとは違う、滑らかさで素早く回転が上昇するから、加速に気持ちいい伸び感がある。実際にタイム計測したわけではないが、感覚的には高い速度に達するまでが早い。
低中回転域を使って実用的な速度で走る、いわゆる普段頻繁に使うゾーンでのエンジンマネイジメントも巧みだ。クルマで混雑した街中の道をノロノロと走っても唐突なところがなく、電子制御スロットルを右手で操作するライダーはナーバスにならずにすむ。
やっぱりオートバイのキャラクターを決めるのはエンジンだ。タイガー1200は直列3気筒エンジン独特のフィーリングがタイガーだけのオリジナリティを作り出している。スムーズとワイルドが共存した魅力。
スポーツモードにして、シフトアシストによりクラッチ操作なしで変速しながらアクティブに走ると、上昇していく速度に胸がすく。ハンドリングもドライ路面の舗装ワインディングでは、スポーツツアラーのような動きだ。リーンアングルをフルに使うような走りでもへこたれたところがなく、パワフルなエンジンの力を使いこなせる。
スポーツライディングを重要視しているのは独特もクセをほとんど感じられないシャフトドライブからもわかる。シフトアシストとの相性が良く、知っていなければシャフトドライブだと気が付かない人がいてもおかしくない。
ブレンボ製4ピストンモノブロックキャリパーとニッシン製ピンスライドキャリパーを使った前後のブレーキは強力かつコントローラブル。効きだけでなく効かせかたにも文句のつけようがない。
重要な持ち味として、WP製のセミアクティブサスペンションを採用していることをはずせない。フロントとリアのダンピングとリアプリロードを電子的に制御するもの。ライディングモードによって走りに明確な違いが出る。
他に切替式ABSやトラクションコントロールといったライダーを補助する装備も充実していて、幅広いライダーと走行シーン対応する。
高速道路では電動調整式スクリーンを高い位置にしてウインドプロテクションを高めると快適性が確実にあがる。足が長く背が高いけれど、路面のギャップやうねりは前後のサスペンションがいなし優れたスタビリティを発揮する。
だからクルーズコントロールを使っての走行でも、強い緊張感を持つこともなく、ライダーはそっとハンドルに手を添えて周りに注意しているだけで体力の負担は小さい。いつもの距離が短くなった気にさせる。他にもグリップヒーターや電源ソケット、LEDの補助ライトなど細かいところまでこだわった装備が盛り込まれており、フラッグシップアドベンチャーらしい豪華さだ。
どこでも、どこまででも快適で安全に走れるアドベンチャーの基本を大切にしながら、トライアンフ3気筒らしい刺激のある走りの醍醐味。誕生した頃は第三の選択のようだったタイガーが、今や主流として不足のないものに仕上がっている。