文:小松信夫
バイオエタノール燃料にも対応するブラジルならではの仕様
ホンダがブラジルで、独自の進化を遂げた超ユニークなアンダーボーンモデル「ポップ110i」を販売しているのは先日紹介した通りです。しかしブラジルのホンダには、さらにユニークな独自モデルが存在してたりするんですよ。その最右翼が、ブラジルで現地開発・生産されているアドベンチャーモデル「XRE300」という訳で。
くちばし状のノーズが目立つ印象的なスタイリングと、オフロード走行を重視した本格的なメカニズムを兼ね備えた「XRE300」は2009年に誕生し、現在まで進化を続けながら生産されてきた人気モデル。2021年モデルではスタンダードモデルであるABSに加え、アドベンチャー、ラリーという車名を与えられた計3モデルが設定されている。とはいえ、この3車は事実上は同一モデルで、異なっているのはボディカラーのみのようですな。
メカニズムの面で注目したいのはエンジンで、専用の空冷単気筒エンジンが採用されてる。しかもホンダの空冷オフローダーでは珍しいDOHC。CRF250/300L系の水冷シングルを空冷化? と思ったら、クランクケースカバー形状とか、各部のスペックを付き合わせてみると、かつての大ベストセラー・XR250系、あのRFVC4バルブなOHC空冷シングルがベースらしい。
その腰下に新しい4バルブDOHCヘッドとPGM-FIを載せ、79mmピストンを組み合わせて排気量は291.6cc。ブラジルでは広く普及してるバイオエタノール燃料にも対応する仕様になっていて、最高出力25.4PS(ガソリン使用時)と十分にパワフル。スペックを見ると、エタノール使った方が少しだけパワー出るのね。
フレームはスチール製のセミダブルクレードル形状。シンプルな造りに見える足回りは、250ccトレール車と同じフロント21インチ・リア18インチホイールを採用し、オフロード向けのタイヤを装着。サスもフロントが正立フォークで、リアがモノサスなのはまあ当然としても、ストロークがフロント245mm、リア225mmと長めに取られている。
しかもスイングアームもアルミ製だったりして、かなりオフロード走行を重視した造り。ブレーキも前後ディスクで、ABSも標準装備なあたりは、型落ち感がなくて今時のモデルっぽい。
メーターは液晶パネルを使用したコンパクトで機能的なもので、ヘッドライトにはLEDを採用するなど、装備類も現代的。燃料タンクは13.8Lという大容量なのは、アドベンチャー的な長距離走行を重視してる。
このまま国内で売ってても違和感のない感じ? でも仮に日本で買えたとして、一般的なライダーには860mmと高めのシート高や、148kgという同クラスの純粋なオフロード車よりはやや重い車重が気になりそう。ま、体格の良さそうなブラジルのライダーはそんなこと問題にしない、ということですかね。
単純に考えると、タイで生産されているCRF250LとかCRF250ラリーを、ブラジルでも売ればいいんじゃないか、と思ってしまうんですけどね。しかし、そこにはわざわざ「XRE300」を開発するだけの大人の事情ってやつがイロイロとありまして。
その最大の理由は、ブラジルの非常に高い関税ということらしい。自国の産業を保護するためのものだから、海外から輸入されるオートバイもね、税金乗っかってえらくお高くなるんですと。というわけで、遠くブラジルの地で、独自進化した空冷アドベンチャー「XRE300」が生み出された、ということらしいですよ。
文:小松信夫
ホンダ「XRE300」の主なスペック
全長×全幅×全高 | 2195×838×1215mm |
ホイールベース | 1417mm |
シート高 | 860mm |
車両重量 | 148kg |
エンジン形式 | 空冷4ストDOHC4バルブ単気筒 |
総排気量 | 291.6cc |
ボア×ストローク | 79×59.5mm |
圧縮比 | 9.0 |
最高出力 | 25.4PS/7500rpm(エタノール使用時25.6PS/7500rpm) |
最大トルク | 2.76kgf・m/6000rpm(エタノール使用時2.8kgf・m/6000rpm) |
燃料タンク容量 | 13.8L |
変速機形式 | 5速 |
タイヤサイズ(前・後) | 90/90-21・120/80-18 |
ブレーキ形式(前・後) | φ256mmディスク・φ220mmディスク |