文・写真:西野鉄兵
日本を縮めることもなく広げることもない、等身大の旅へ
バイクには、荷物を積んだ瞬間に面白みが損なわれたり不安になるモデルと、荷物を積んでも安心して楽しめるモデルがあると、昔から思っている。
たとえばスーパースポーツなどの荷物を積むことをほとんど想定されていないモデルは前者にあたる。キャンプツーリングとなると、装備を積むだけで一苦労だ。不安な気持ちを残しながら、スポーツ性能がスポイルされたバイクに乗るのは、気持ちいいものだとは思えない。
リアキャリアが備わったアドベンチャーモデルなら完璧……かと思いきや、そうとも言い切れない。キャリアの位置が高いと、荷物を載せた影響で車体の挙動が大きく変わる。普段から足つきや取り回しに不安を感じている場合は、よりプレッシャーも増す。
GB350は、発表時の写真で見ていた通り、荷物が積みやすいモデルだった。今回はメイン気室が容量65Lのシートバッグを積んで、近場のキャンプ場に出かけた。
空荷の状態で街中を軽く走ったときは、最高出力20PSという数値以上にパワーを感じるバイクだと思った。信号が青になった瞬間、単気筒エンジンならではの分かりやすい排気音が響き、力強くスタートをきれる。
車体はほどよいコンパクトさ。ひらひらとした軽快感もあり、街中を思いのままに走れた。ハンドルの切れ角が大きいのも魅力だ。
ところがキャンプ道具を詰め込んだバッグを積むと、印象は変わった。
お尻が下がり、足つき性アップ、わずかに浮いていた踵が接地した。リアシートの高さはライダー側とほとんど変わらない。そのため荷物が高い位置にくることもなく、コーナーも安心できる。
初速の機敏さを失ってはしまったものの、大荷物を積んでいる場合は「これでいい」と思える。もともと「このくらい開ければこのくらい進む」、「このくらいブレーキを握ればこのくらいで止まれる」というのが把握しやすいバイクだ。
現代的な装備は、ABSとトラクションコントロール、アシストスリッパークラッチ。電子制御スロットルによるライディングモード設定などはない。個人的にはこれが好印象。
安全性を高めてくれるABSとトラコンだけ備わっていれば充分。さらにスリッパークラッチまで搭載。ひと昔前では最新装備だったこの3つが採用されていながら、車両価格は税込55万円。売れないわけがない。
高速道路も問題なく交通の流れに乗れる。中途半端に遅いクルマを追い越すのが少し大変だったものの、そもそもGB350はスローペースでもストレスがたまりにくい。
幅広のバーハンドルで、上体は起きている。車上から見える景色は広く、気持ちもおおらかになる。70~80km/hくらいで走行車線をマイペースで流しているときが一番気持ちよく感じた。
一般道におりたら、キャンプ場まではちょっとしたワインディング区間だ。排気音が心地よく、ゆるやかな上りカーブを鷹揚と駆け上がる。地元の軽トラの後ろに付いても「ま、いっか」と思える。
天気はいまいちだが新緑の森は生き生きとして、湿り気を帯びた木々の香りが鼻をくすぐる。「久しぶりにツーリングしてるなあ」と懐かしい気持ちになった。なぜかコロナの流行よりずっと前、学生時代にSR400に乗ってシタミチだけで全国各地を巡ったのを思い出す。
きっとGB350で旅に出る学生ライダーがこれから増えるのだろう。最高に旅を味わえる一台だ。GB350の上から見た風景はきっと心に深く刻まれる。
そして日本のあらゆる景色になじむ。見た目に惚れて選んだのなら、「やっぱり俺のバイクは最高だぜ」と旅の先々で思うことだろう。
キャンプ場に着き、設営をすまして火を起こした。まだ昼前だが、今日はもうダラダラと過ごすだけだ。
ああ、やっぱりGB350はキャンプシーンにも溶け込んでいる。大型のシートバッグを積んだスタイルも勇ましい。
近場でなじみのキャンプ場ながら、不思議と達成感を覚えた。
原付から中型、大型とステップアップしていき、いつしか日本が少し狭く感じた。まだまだ行ったことない場所は無数にあるのに「いつでも行ける」という思いからか、逆に旅する頻度は落ちていった。
GB350とのツーリングは、バイク旅ならではの面白さや辛さ、思いがけない出会いなど、そのすべてを存分に堪能できるはず。
2週間くらい北海道をふらふらしたいなあ……。
かつての思い出と未来の旅の妄想をないまぜにしながら、薪をくべる。分厚く覆っていた雲はいつしか流れたようだ。久しぶりの星空が嬉しい。