文:小松信夫
ビジネスモデルの極北? フィリピン独自のヤマハ「YTX125」
一見するとどこにでもありそうな普通のバイクだが……
今回取り上げるのは、ヤマハがフィリピンで販売してる「YTX125」というモデルなんですけども。パッと見、東南アジアとかアフリカあたりで各メーカーがラインナップしてるような、シンプルで地味〜な125cc実用車ですね。でもこれ、特にフィリピン専用に開発されたモデルなんですってよ。一体どこがどのようにフィリピン専用なのか?
エンジンはなんの変哲もない、125cc空冷2バルブシングルで、当然のようにキャブレター仕様。粘り強いパワー特性、少々のことでは壊れない頑丈さ、整備性の良さを重視。燃料タンクに「SUPER GAS SAVER」なんて書かれてるから、きっと燃費もいいはず。
シートはロングシートで、タンデムもしやすそうなビッグサイズ。もちろんクッションが良さそうな造り。この辺は東南アジア市場の実用車では重視されるポイントだから良いとしても…。
だけど、タンデムステップじゃなくて、どこでも足を置けるようなフットボード(板状じゃないけど)が付いてるし。
フレームのダウンチューブの上の方には、こんな大きな穴の開いた謎の頑丈そうなパーツが追加されてるし。
そして何より、ここまでの画像で気付いた人もいるでしょうが、リアサスが「2本ショック」じゃなくて「4本ショック」なんですねー。なんじゃこりゃ? となりますが、要するになにか普通じゃない用途に特化したモデルということなんですよ。
で、その用途というのが、コレです。東南アジアで庶民の足として盛んに使われている3輪タクシー。国によっては3輪の小型トラックベース(というかタクシー専用モデル)だったりしますが、フィリピンでは「トライシクル」と呼ばれてる、オートバイをサイドカー化したものが主流。見ての通り屋根とかライダー側のキャビンまで装着してたりもする。
現地では新旧さまざまなバイクがベースになってるようなんですが、そんな中でトライシクルのベースモデルとして専用に開発されたのが「YTX125」である、と。実は「STX125」という先代モデルが存在するくらい、長く続いているそうで。わざわざ専用開発、しかもモデルチェンジするだけの根強い需要があるんだねぇ。
公式ホームページにも「YTX125」をトライシクル仕様にした参考画像がある。あのダウンチューブの謎パーツは、サイドカーとの接続のためのものなのでした。だからあんなにしっかりした造りなのです。
サイドカーにして、屋根やキャビンまで追加して、おまけにサイドカーとリアシートにお客を乗せて、場合によっては荷物や3人目のお客(?)まで乗せるんだろうから、その大重量を支えるためにはリアサスペンションも4本付けなきゃ! となる訳ですよ。
日本的に考えれば専用の高荷重対応サスを作るんだろうけど、汎用性の高いサスの数を増やして対応するシンプルというか力技の方が、現地の事情には合ってると。パーツ供給とかがね。あと、スイングアームも相当頑丈な造りらしい。
そんなトライシクル向けモデルな割には、なぜかボディカラーがブルー、レッド、ブラックと3色も用意されてたりする。業務用の特殊モデルっぽくないなぁ、フルカバーのキャビンとか付けてトライシクル化するとほとんど見えなくなっちゃうのに。
多分トライシクルじゃなくて、ノーマル状態のままで2輪タクシーとして使うようなライダーへの配慮なのかなぁ。あと、とにかく頑丈なのが欲しい! 俺はとてつもなく重〜い荷物をリアシートに積むのだ! というちょっと変わった一般ユーザーがフィリピンには一定数いるのかも。よう知らんけど。
文:小松信夫
ヤマハ「YTX125」の主なスペック
全長×全幅×全高 | 2040×700×1070mm |
ホイールベース | 1265mm |
シート高 | 800mm |
車両重量 | 114kg |
エンジン形式 | 空冷4ストOHC2バルブ単気筒 |
総排気量 | 125cc |
最高出力 | 8.2PS/7000rpm |
最大トルク | 1.0kgf・m/4500rpm |
燃料タンク容量 | 7.6L |
変速機形式 | 4速リターン |
タイヤサイズ(前・後) | 3.00-17・3.00-17 |
ブレーキ形式(前・後) | ドラム・ドラム |