インプレッション:北川圭一/インタビュー:濱谷文夫/写真:柴田直行
北川圭一
Keiichi Kitagawa
国内外でスズキ車を駆り数多の栄冠を手にした、京都出身のレーシングライダー。エンデュランスレーサーとして秀でた才能を発揮し、世界を舞台に耐久レースに参戦し、2005年と2006年には世界耐久選手権チャンピオンに輝き、この年に引退を表明。その後は、後進の育成にチカラを注ぐ。
スズキ「GSX-R1000R ABS」インプレ
ライディングモードのセレクトに注目!
「GSX-R1000R本当に誰でも乗りやすいバイクですよ。とても速いハイパワーなスーパースポーツですけれど、他と比べると優しい」
全日本ロードレース選手権で多くの勝利を手にし、ボルドール、ルマンの24時間レースで優勝、世界耐久選手権チャンピオンなどスズキGSX-Rに乗って数々の戦績を残してきた北川圭一さんは試乗した後の開口一番、こう話した。ワインディングというシチュエーションだから控えめにおさえたものながら、減速からコーナーへの進入、加速、切り返し、どの動作もスムーズで安定して無駄のないさすがの走りを披露してくれた。
「この型になってからハンドリングがガラリと変わりました。すごく曲がるようになりながら直進安定性もいい。前のモデルも決して悪くはなかったんですが、今のはそれ以上です。シャシーのしなやかさがあり、旋回後半の向きの変わり方が実にいい。それでいて竜洋(スズキテストコース)の全開走行で時速300キロを出しているときでも、振られないんです。曲がることとスタビリティの両方で以前より確実にレベルがあがっている。僕が現役でレースに出ていた頃のGSX-Rは剛性の高いシャシーだったのですが、ずっとハンドリングに問題を抱えていました。一次旋回はスパッと鋭く曲がるのですが、その後二次旋回へとうまく繫がらなかった。それで車体の剛性を横にたわむようにして欲しいとリクエストをしていたんですが、これでやっとそれができたように思います」
GSX-R1000が登場したのは2001年だった。そこから進化をしながら7代目となる現行機種のGSX-R1000Rが発売されたのは2017年。車体や水冷4ストローク直列4気筒エンジンには、MotoGPに参戦しているGSX-RRで得られたノウハウが活かされている。遠心力を使った可変バルブタイミング機構、SR-VVTなどを採用して国内仕様のエンジンの最高出力は197PS発生する。
10段階の調整が可能なトラクションコントロールと、エンジン制御マップを切り替える走行モードがA、B、Cと3つあるS-DMS(スズキドライブモードセレクター)を組み合わせると30通りの好みのセットが選べる。車体がまっすぐ立っているときだけでなく、コーナーリングしている状況にも応じで作動するABS。急減速した場合に後輪がリフトするのをIMUが検知するとフロントのブレーキ圧を制御してブレーキの性能を最大限に発揮させようとする。ピッチ、ロール、ヨーの3軸に沿って6方向の動きを検知するIMUを使った、ライダーをサポートする電子制御技術が盛りだくさん。他に市街地での発進時にエンジン回転数が落ちすぎいないようにするローRPMアシストや、アップとダウンが可能なクイックシフターもある。
そんな最新の技術を使った最高水準の走行性能を、スズキは一貫してサーキットでの速さだけでなく、公道での走りにもこだわってきた。北川さんも、そこがGSX-Rの強みだと思い続けてきたが、今回乗ってあらためてそれを再確認した。
「誰もが扱いやすいと感じると思います。僕もいろいろなメーカーのものに乗らせてもらったことがあります。最新モデルは加速も最高速がどれもすごいんですけど、中には乗りにくくてびっくりしたものもありました。レース専用みたいなものは一般の人には乗れたもんじゃないですよ。その中でもGSX-Rは抜群に幅広いライダーが楽しめるバイクなんです。難しいところがどこにもない。前傾姿勢にはなりますが無理のない姿勢で、動きが軽くてシビアなところがまったくない。この部分では飛び抜けていますね。だから街中でも乗りやすい」
その点についてもっと具体的にうかがうと興味深い話も出てきた。
「ワインディングでは走行モードはいちばん鋭いレスポンスのAモードよりBモードの方が乗りやすかったりしますね。スロットルワークにダイレクトな反応して加速感を感じられるAモードもいいんですが、1000ccのパワーですから、いろいろな路面が出てくる公道ではより神経質にならなくていいBがちょうどいい。全日本のST1000クラスに出ている津田拓也選手に聞いたらBモードで走っていることもあると言いますから。一発の速さではなくレースディスタンスでタイヤの負担を小さくして最後までグリップをもたせるためには、そういう選択もあるんじゃないですかね」
それまでなかった高いスポーツ性能にこだわった初代のスズキGSX-R750が1985年に登場したことから、スーパースポーツカテゴリーの概念が生まれ発展してきた。GSX-Rは初志貫徹して最も新しいものでもストリートマシンとしての完成度をおろそかにしていない。伝説のGSX-R使いである北川さんが、山道を右に左に倒し込みながら滑るように走ったあとに「これは本当に良くできたバイクだ」と心から認めるようにつぶやくと、とても説得力がある。