文:小松信夫
東南アジアで幅を利かせるヤマハ「ヴェガフォース」一族
東南アジアのアンダーボーン系、さすがにもうネタ切れだろうと思われそうですが、これも奥が深い世界でして…東南アジアのアンダーボーンモデルの一部モデルが、日本のバイクブームにおけるレーサーレプリカのような恐竜的な進化を遂げている、というのは何度も取り上げてきましたね。
例えばフィリピンで販売されている、ヤマハのスナイパー155R。車名を変えて東南アジア各地でも売ってますが。XSR155とかと同系の水冷エンジン、6速マニュアルミッション、どこがアンダーボーンなんだ? というフレームなどなど、目指してるところはスーパースポーツなんですよ。その背景には、東南アジアで盛り上がってるアンダーボーン・レースがあるんですけど。
とはいえ、東南アジアのアンダーボーンモデルが、全部こんなモンスターになってる訳ではないのです。「どっこいしょ」と足を上げて跨がないで乗り降りできて、誰にでも乗りやすく扱いやすく、大きな荷物も積めて、少々無理しても壊れなくて燃費も良い。本来の実用車としてのアンダーボーンモデルに求められるのはこういったこと。
実際、そういう用途に向けたモデルもあるんですが、「便利だけど、やっぱりカッコ良くてスポーティなのが欲しいんだい!」なんていう、欲張りな要望も強いようで。そういう層に向けてですね、ちゃんとそれっぽいモデルが存在してるのでした。スナイパーを売ってるフィリピンのヤマハでいえば、ヴェガフォースiというモデルが、そんな声に応える存在。
これがまた、フィリピンだけじゃなくてですね、東南アジアのあちこちで売ってる。インドネシアではジュピターZ1という名前でして。
一方、マレーシアのヤマハでは、ラジェンダ115Zという名前で呼ばれております。
さらにベトナムではジュピターFIと名乗ってる。このベトナム仕様のジュピターFIは、チェーンカバーがフルカバータイプ。
リアサスもリザーバータンク付き、よく見るとブレーキやフロントフォークの仕様も違ってて、独自仕様な部分が多い。インドネシア版もマレーシア版も、それぞれ微妙に違いがあるみたいだけど、まあ大枠としては同一モデルね。今回は総称して「ヴェガフォース一族」と呼びましょうか。
スクーター的なヘッドライトを備えたハンドル周りに、YZF-R系スーパースポーツのアッパーカウルみたいなポジションランプを備えたフロントマスク、レイヤー構造風のカウルといったスタイリングが印象的なヴェガフォース一族のスタイリング。
前後17インチ径のキャストホイール、ディスクブレーキも備える足周りなんかは、スナイパーに近い雰囲気ですが。
まず大きな違いはエンジン。スナイパー155Rとかのイケイケな最新モデルたちが、水冷で可変バルブ機構・VVAまで備えてる、まんまロードスポーツ仕様のエンジンなのに対して、このヴェガフォース一族のエンジンは排気量114cc、水平シリンダーで空冷2バルブ、ミッションも遠心4速という、実用性重視のオーソドックスな造りのエンジン。
なんだ旧型? と思えば、一概にそうも言えなくて、ヘッドはローラーロッカーアームを採用、シリンダーもアルミ製でピストンも鍛造と、地味に贅沢な造りだったりする。ちなみに最高出力は10.1PS、車重も100kgちょいだから結構パワフル。
そしてもう一つ、最も需要なポイントが車体の構造。スナイパーとかは燃料タンクを積んでいないだけの実質的にバックボーンフレームなのに対して、ヴェガフォース一族はアンダーボーン構造になってます。シートとステアリングヘッドの間に、ちゃんと空間があるよ! 乗り降りも楽チンだ! まあ、国内向けスーパーカブなんかに比べるとセンタートンネルは高目だけどね。
ちょっと浅くてヘルメットまでは入らないけど、シート下の収納スペースまで用意されてたりして、細かなこだわりで実用性を向上。スナイパーあたりだと、一切こういうの無いから。
アンダーボーン・カテゴリーの中でも、きちんと目的に応じた作り分けをしても利益が出るくらい売れるんだ、東南アジアって。レースのために高性能を追求した先鋭的アンダーボーン・スポーツもいいけど、ヴェガフォース一族のようなバランス型アンダーボーンってのもあるんだねぇ、うん。
文:小松信夫