文:宮崎敬一郎、オートバイ編集/写真:南 孝幸
ハスクバーナ・モーターサイクルズ「ノーデン901」インプレ(宮崎敬一郎)
しなやかでしっとりした絶妙な乗り味のオールラウンダー
ハスクバーナ・モーターサイクルズはKTMグループの一員で、KTMのコンポーネントを使った独自のモデルをリリースしている。専用の外装、サスペンションに留まらず、あらゆるパートに手を加え、独自のキャラクターを創造し、KTMのマシンとは全く異なるキャラクターのバイクに仕上げている。
このノーデン901もそうだ。メカ部分のベースとなるのはKTMの890アドベンチャーで、このバイクはガソリン増減によるハンドリング、機動性の変化を抑えるため、車体下部にまで伸びる大きなガソリンタンクを持った、独特の車体構成が特徴。
ノーデンはこれを発展させ、重量配分を考慮したスリムな車体に変更。フレームの基本レイアウトはほぼ同じで、エンジンも電制アシスト機構を含めスペックなどもほぼ同等だが、その味付けを左右するセッティングは微妙に違うようだ。外観は見ての通り、まるで別物だ。
そもそも巨大化しやすいこのジャンルの中で、このミドルクラスは程よい車格による扱いやすさ、手頃な価格で近年人気のクラス。オンでもオフでも優れた機動力、走破性を発揮しつつ、オーバーリッタークラスよりひと回り以上小さい車格による取り回しやすさがウリ。大型ビッグオフに近い、快適なロングラン性能も魅力のひとつだ。
ノーデンは、こうしたミドルクラスアドベンチャーの魅力をとことん扱いやすく、誰もが自由に使えるようにしたモデルだ。車体がスリムだという物理的な違い以上に…ちょっと抽象的だが、全てがしっとりした感触で、人に優しく従順な応答をする。
このキャラクターの大きなポイントになっているのが足回り。まずリアショックが非常に上質なものになっている。これだけでも衝撃吸収許容レンジが広がるが、加えて前後ともショック、バネのセッティングが非常にしなやか。ショック本体もグレードアップしていて、初期作動から非常に滑らかに動く。
なので、乗り心地がいい。この車体をどうやって支えているんだろうと思うほど足の動きはソフトだが、減衰はしっかり効いていて、オンでもオフでもしっとり走る。
もちろん、パワーにモノをいわせた豪快なスポーツライディングにも応えるし、オフロードで跳ね回ることもできる、コシのある足回りだ。でも、乗って驚いたのは低速時の走破性。大型オフローダーの常識からは想像できないレベルのしなやかな動きをする。
石が転がっているガレ場や、ゆっくりしか走れないような荒れた道でもバイク任せで走れる。細かいギャップをよく吸収し、大きな凸凹、ウネリをゆっくり越えるような場面でさえ、苦労せず滑らかにトレースしてしまうのだ。突き上げなどが少ない分、ハンドルを抑える力も少なくてすむから気楽だ。
IMUとシンクロしたトラコンは高度に制御され、細かいドリフトの量まで制御可能。ダート専用モード付きのABSも実用的で、どこを走っても電制アシスト機構群の効果は絶大! 優等生のピレリスコーピオンSTRをよくフォローする。このタイヤはオンでもハンドリングが素直で、クイックな峠道ではヒラヒラと身を翻す。
オンでの機動力、動力性能は100馬力クラスのツーリングスポーツそのもの。日本の常用速度域のちょっと上くらいまで振動が少なく、超高速域まで揺るがない、節度ある安定性と低中速域での身軽なフットワークも備えている。でも、その気になればダートでスプリンターにもなるし、フレンドリーで快適なダートクルーザーにもなれ、どこでもバイク任せで気楽に走れるのだ。