世界15か国の統一レギュレーション!
今シーズンから日本でもスタートしたMiniGPとは、正式名称「FIM MiniGP World Series」。つまり、世界統一規格のミニバイクチャンピオンシップです。ワンメイクマシン、ワンメイクタイヤで、世界各国の10~14歳が、世界グランプリの最高峰、MotoGPを目指して戦うシリーズのことです。
日本に先立って、2021年にはイタリア、北米、フランス、アイルランド、マレーシア、オランダ、ポルトガル、スペイン、イギリスでスタート。22年からオーストラリア、オーストリア、インドネシア、カタール、そして日本でスタートします。日本開催は22年の年明け早々にMotoGPを主宰するオーガナイザー、DORNAから開催許可が下りたのだといいます。
ジャパンシリーズは年間5大会、1大会2レースで行なわれるため、合計10レース。これで年間ランキングを決め、日本チャンピオンは22年秋にスペイン・バレンシアで行なわれる「MiniGPワールドファイナル」に招待され、世界15エリアのライダーによるレースに参加します。そこを勝ち抜くと、次のステップ=Road to MotoGPの選考会参加、または直接参戦できるというもの。
これは、MotoGPへの新しいルートと見ることができますね。
現在の世界グランプリへのルートと言えば、ひとつは全日本選手権で結果を残してホンダ、ヤマハ、スズキのメーカー契約を勝ち取り、この3メーカーのワークスライダーとしてグランプリに参戦するルート。カワサキは現在MotoGPに参戦していませんから、ワールドスーパーバイクへのルートとなりますが、このルートは現在ほぼ消滅しています。
もうひとつは、全日本選手権とは別ルートで、まずIDEMITSUアジアタレントカップへの参戦権を獲得し、アジアタレントカップからREDBULLルーキーカップ、スペイン選手権=CEV Moto3ジュニアワールドカップへと進み、グランプリに参戦するというルート。いまMoto3、Moto2で活躍している佐々木歩夢、小椋藍らがこのパターンですね。
ここに、このMiniGPが加わるのです。MiniGPからアジア→スペインなのか、MiniGPを勝ち抜いてスぺインとか。もちろん、ジャパンシリーズを勝ち抜いたら、そのままスペインCEVへと進出するケースも出てくるかもしれませんね。
さらに、MiniGPのひとつ前の段階と言えるポケバイからのステップアップにもMiniGPが加わることになります。現在、ライフと74Daijiroで行なわれているポケバイから、それを卒業してNSF100なんかで行なわれているミニバイク、それからJ-GP3というルートがメジャーになりつつありますが、この「ポケバイの後」でどこに進んでいいのかわからないポケバイキッズが多いんです。それが「MiniGP」という世界統一規格ができることによって、きちんと正しい「世界への階段」が提示されるというわけです。
このジャパンシリーズに参加するのは、セレクションを経た15人のレギュラーライダー、さらに各レース3人までのスポット参戦が認められています。10歳=小学4年生から、14歳=中学2年生までで、関東はもちろん、九州からのライダーもいます。初年度ということで、今年のシリーズは準備期間が短く、セレクションがオーディション形式にはなりませんでしたが、23年シリーズあたりからは、より「狭き門」になっていくかもしれません。
開幕戦がすでに育成の場
ジャパンシリーズ開幕戦は、4/16土曜日。筑波サーキットのショートコースであるコース1000を1日占有してのフリー走行、予選、決勝レースと、実に贅沢なタイムスケジュールです。参加するキッズたちはフリー走行を3本合計70分、予選は15分を2回行ない、18周の決勝レースを2回行なうのです。これだけでも練習になる!
参加するライダーは、キャリアもそれぞれ。すでに各ローカルのミニバイクで頭角をあらわしているコもいるし、Daijiroカップで戦績を残しているコも、エリア選手権に参戦を始めた、なんてライダーもいます。お、このコ、名前を聞いたことあるな、とか。
さらに「10歳から14歳」という年齢はわずか4歳差ではありますが、「30歳と34歳」とはわけが違って、まだまだ幼い小学4年生と、そろそろガツンと身長が伸び始める中学2年生、という年齢と体格、そしてライディングキャリアやスキルの差が明確。いきおい、走行が始まっても、数人の飛びぬけた速さがあるライダー、まだまだ伸びしろがあるライダー、そして74からステップアップしてすぐ、という集団に分かれたようです。
感心したのは、明らかに速いライダーに見えるのに、フリー走行でペースを上げていなかったり、予選もアタックをしてすぐにペースを落としたり。実は世界統一レギュレーションに、ワンメイクのピレリタイヤは「予選と決勝の同じものを使わなければならない」と規定されているので、決勝用にタイヤをセーブしていたんですね! おそらく、同行するご家族のアイディアだとは思うんですが、さすが世界へ飛び出そうとしているライダーだけに、ミニバイクでタイヤセーブを考えるんだなぁ……という感じでした。
この日は、朝の内にまだ雨がぱらついていて路面はウェット、そこからフリー走行、予選と進むうちにドライ路面となって、決勝レースは初夏を思わせるコンディション。
決勝レースでは、やはりフリー走行、公式予選で速かった数人がトップ争いをするレースとなりましたが、そのレースぶりも、先行で逃げ切ろうとするライダーを序盤はペースを抑えていたライダーが差し切って優勝というレース1と、レース1で勝ったライダーが、今度は序盤から前に出てレース1ほどは抑えずにスパートして優勝、という展開が見えました。
両ヒートを制したのは松山遥希(はるき)くん12歳。松山くんは20年の「74GP」全国大会で優勝、すでに関係者の間では注目を集めているライダーです。両レースとも2位に国立和玖(わく)くん10歳、レース1の3位に池上聖竜(せいりゅう)くん13歳。レース2の3位に齋藤太陽くん13歳が入りました。国立くんはランバイクと呼ばれるストライダーのワールドカップで3年連続チャンピオンとしても有名な選手だし、池上くんは74の優勝経験者、齋藤くんはエスパルスドリームレーシング(現名称:エススポーツ)が育成しているライダーですね。
「ダブルウィンできてすごくうれしいです。開幕前の桶川スポーツランドでのテストではちょっと苦戦していたので、なおさら嬉しい。今回はとにかくマシンに慣れることを重点的に考えて走って、いいレベルで走れるようになりました。レースではちょっと欲を出してしまったところがあったので、そんな反省点をしっかり解決して次のレースも勝ちたいです」と松山くん。少年が、ちょっと大人びてきて……って感じの段階の松山くん、まずはMotoGPへの階段を一歩だけ登ってみせました。
そして、このレースにアドバイザーとして参加しているのが、元HRCの副社長としてホンダMotoGPの現場を取り仕切っていた中本修平さん。HRCを退職した後は、DORNAのスペシャルアドバイザーに就任されたり、アジアタレントカップの運営マネジメント活動をされていました。もうすぐ、ご自身でテニススクールを主宰されるのだとおっしゃっていました。
「アドバイザーと言うか、中込さんに声をかけてもらってお手伝いしている感じ。ようやくこういったレースで若いライダーたちの育成ができるようになったね。まず74に乗り始めるだろう? それからMiniGPを経て、その選手をアジアタレントカップで預かったり、そこからスペイン、GPへという階段の第一歩になればいいんだ。これがGPへのルートとして確立されたらいいと思うよ。ずっとずっと続いていくジュニアカップになるといいね」(中本さん)
中本さんがいう「中込さん」とは、このMiniGPを主催運営するP-UPワールドの代表、中込正典さんのこと。P-UPワールドは「テルル」のブランド名でもおなじみの、ロードレースをずっと応援してくれている企業で、かつては秋吉耕佑、大久保光や、長島哲太、そして22年全日本ロードレースの開幕戦を制したST600ライダー、羽田太河を応援してくれています。
このP-UPワールドが名乗りを上げてくれなかったら、MiniGPの日本開催はなかったでしょう。シリーズ戦で使用するマシン「OHVALE」(オバーレ)GPゼロを20数台も一括購入、もちろんスペアパーツも込みです。コースを借り切ってレースを開催、キッズライダーの育成に資本を注いでくださっています。
MotoGPのプロモーターであるDORNAがスタートした世界統一ミニバイクシリーズ。
2023年以降は、グランプリに参戦できる最低年齢が18歳となりましたから、MiniGPを勝ち上がったライダーがグランプリデビューを果たすのは、最短で4年後ということになります。2026年、MiniGPのジャパンシリーズを勝ち抜いた少年がグランプリのスターティンググリッドに並んでるかもしれない――なんて考えるとワクワクしますね。なんだか藤島康介先生の「トップウGP」みたいになってきた!
2022 MiniGPジャパンシリーズ開催日程
①4/16(土曜) 筑波サーキット/コース1000
②5/14-15(土~日曜) モビリティリゾートもてぎ/北ショート
③6/18-19(土~日曜) モビリティリゾートもてぎ/北ショート
④8/21(日曜) テルル桶川スポーツランド
⑤9/4(日曜) 筑波サーキット/コース1000
MiniGP詳細は:https://www.minigp.jp
各レースともスポット参戦枠は3台、受付中のレースもあります
写真・文責/中村浩史