文:西野鉄兵/写真:若林浩志、西野鉄兵、デイトナ
CBR400Rに大荷物を積んでキャンプツーリングはできるのか?
新東名高速道路は絶好のコンディションだった。暑くもないし寒くもない。しかも無風だ。昨晩はひどい雨だったが、晴れ間も見えてきた。
CBR400Rは時速120kmでたんたんと走ってくれる。乗った瞬間に驚いた。ヨンヒャクってこんなに上質だったっけ?
CBR400Rは2022年1月にモデルチェンジ。主に足まわりに改良が施された。
従来モデルは正立フォークだったが、新型はSHOWA製の倒立フォーク「SFF-BP」(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)を採用。フロントブレーキはダブルディスクになり、キャリパーもラジアルマウント式にグレードアップ。スイングアームの剛性最適化やフロントホイールの軽量化も図られている。
大きなモデルチェンジだが、この上質な乗り味を体感すると、たったそれだけなのか? と勘繰りたくなる。400㏄なのかと疑うほどに余裕があり、快適だ。フルカウルスポーツというよりスポーツツアラーと呼びたい。
CB400SF/SBの生産終了の発表は残念なことこの上ないが、それを踏まえホンダは次世代の400ccとして、新型CBR400Rと新型400Xを仕上げてきたのだろう。新型400Xも私のまわりでは、すこぶる評判がいい。
それにしても今日は少し不思議な気分だ。セパレートタイプのハンドルを握りながら、前傾姿勢でキャンプ場へと向かっている。もちろんリアシートには道具を満載したシートバッグを積んでいる。
バッグは、ヘンリービギンズの「シートバッグPROⅡ」(Lサイズ・容量42L~56L)。あらゆる車種により積みやすいよう固定システムを抜本的に改良した新型シートバッグだ。
北海道や九州などへ行けば、スーパースポーツに山積みのパッキングで長旅をしている猛者にも出会う。自分がラクちんなアドベンチャーバイクだったりすると、気合がちがうと思うばかり。
しかしなかには、大きなネットでざっくりと荷物を積んでいるライダーもいた。そのパッキング落ちませんか? と尋ねると「ときどき落ちますよ! 旅の途中で道具が減ると困るから気をつけてます!」なんて元気に返答されたことも。雨が降ったら?「ブルーシートかぶせるけど、濡れますね!」
ノーマル状態のスポーツモデルにキャンプ道具を積むのは、なかなか大変なことだ。とくに最近の新型車は荷掛フックの類が備わっていないことも多く、お手上げだと感じることもある。
それゆえに「シートバッグPROⅡ」の功績は大きい。バッグをリアシートの上に載せているだけに見えるほどスマートなパッキングが実現できた。固定力も申し分ない。
400ccバイクの進化とシートバッグの進化を同時に体感しながら走るこの旅は、なんだか新時代のツーリングだなあ、とぼんやり思う。
いつもは「長い、横に長い!」と感じる静岡県を疲労を感じることなく走り切った。浜松いなさJCTで道は新東名高速から三遠南信道に変わる。どんどん山深くなる。新緑が眩しい。初夏の香りがする。
鳳来峡ICで高速を降りると、そこは奥三河。ツーリングエリアに突入だ。
不慣れなセパハンの前傾姿勢+積載状態で、感覚をつかむところから始めるが……楽しい。とにかく楽しい。バッグの揺れが思いのほか気にならないことが分かると、さらに楽しくなった。
過去に250ccオフロード車でキャンプ道具を積んで林道を巡る旅をしていた時期がある。走りは当然ながら空荷の方が楽しめる。キャンプは道具が立派な方が快適だ。だけど、走り方や装備・パッキングを調整しながら、どちらもいい感じに楽しめるあんばいを探る。それを積み重ねること自体も楽しんでいた。
スポーツモデルでのキャンプツーリングもそれに似ているのかもしれない。
さて。スーパーで買い出しを済ませ、キャンプ場へ向かう。今宵のサイトは、愛知県設楽町のキャンプ場・つぐ高原グリーンパークだ。道の駅に併設されている新しいキャンプ場で、乗り入れ可能なのが魅力。1サイト税込5000円で、バイクは2台までOK。
今日はここでwebオートバイではおなじみの若林浩志カメラマンと、二輪用品メーカー・デイトナ社員の矢嶋さん、福田さん、森山さんとキャンプをするのだ。
今回CBR400Rに積んできたヘンリービギンズ「シートバッグPROⅡ」に関する話を開発者の福田さんにうかがった。
アウトドア・キャンプ用品部門を担当している森山さんには新開発したテントのことをいろいろ聞いてみた。ここからは、その話をお伝えしたい。
デイトナ初の自社開発テント「ドームルーム」誕生秘話
株式会社デイトナ
二輪事業部 ツーリンググループ 開発スタッフ
森山環姫さん
2022年6月に発売予定のテント「Dome Room(ドームルーム)」。字面と語呂がよく、つい声に出したくなる。
新開発のオリジナル設計ということで、東京モーターサイクルショー2022での初公開時にもツーリング好きの間で話題となった。
開発担当者の森山さんは2018年にデイトナに入社したのだという。
「バイクの免許を取ったのは入社してからで、キャンプもデイトナの開発会員キャンプで初めて経験しました」
それからキャンプツーリングの楽しさに目覚め、現在の愛車はスズキ・Vストローム250ABS。パッキングを見ても、手慣れた感があり本格的にドはまりしていることが分かる。
森山さんの趣味は長年続けているという登山とマラソン。このキャンプの前日には立山黒部アルペンルートを旅してきたのだとか。
もともと登山用品には精通していたようだが、ドームルームをはじめ森山さんが手掛けるデイトナのアウトドア・キャンプ用品は、登山向けではなくまぎれもなくライダー向けの製品だ。
「登山用品は軽さや収納時のコンパクトさが最も大事な要素です。でもバイクの場合はそこまで軽さを求めなくていい、逆に快適性や使いやすさがかなり大事、ということが自分で走る上でも分かりました」
新設計テント「ドームルーム」の収納サイズは435mm×Φ180mm。シートバッグやサイドパニアに入れることも考えながら、シートバッグの上部などに単体で積載することも考慮した形状だ。ちなみにデイトナのアウトドア関連の製品は、横幅46cm以下がひとつの基準となっている。
総重量はペグ15本や張り綱6本など付属品を含め3.9kg。生地はポリエステルではなく高価で軽量なナイロンを選択。これにより4kg以下を実現した。
「設営を素早く行なえて、初めてテントを使う人でも組み立てやすい構造にすることを重視しました」
そう言って森山さんは数分で設営を終えた。“ひとりでも簡単に建てられる”ことにこだわったようだ。
前室が広々していて、立派な家構えをしている。ピシッと張りがあり、天井が高い。
「ソロツーリング向けではありますが、前室でゆったりくつろげるように、天井はコットを使用した場合も窮屈にならないよう高めに設計しています」
前後両開きで後室も用意。ベンチレーションも豊富で通気性も高いだろう。内部に備わっているポケットは大きくて使いやすそうだ。
「ポケットは出入り口のパネルを丸めるのが面倒な時に入るようになっています」
ドームルームは、デイトナが発売するテントでは初めてのオリジナル製品となる。イチからの開発には苦労も多かったことだろう。
「開発期間は2年以上かかっています。試作品は5回も作っちゃいました。でもそのおかげで、満足のいくものができたと思っています」
初心者向けといいながら耐風性にもこだわったようで、頑丈さにも自信をのぞかせていた。
適度な収納サイズと快適な居住性を両立。実物を見て、登山用ともファミリー用ともネットの安物とも異なる、これぞツーリング用テントといえるものだと分かった。
ドームルームでキャンプをして、「キャンプってツラいな」と思うことはそうそうないだろう。キャンプはツラいと感じると途端に面倒でつまらないものになる。
私の場合は、高校生の頃ツーリングでの宿代を浮かせるために寝袋を持つことから始まった。大学時代に安物のテントやマット、食器が増えた。ツラい→道具をそろえる→ツラい→道具をそろえる、を繰り返すことで、いつしかキャンプは宿代の節約ではなく、旅の目的に変わっていった。
キャンプ道具の主役は、やはり旅先での住まいとなるテントだ。以前はアウトドア用品・登山用品メーカーのものから吟味してツーリングに向いているものを探す必要があった(何度、安物買いの銭失いをしてきたことか……はぁ)。高価なテントを買っても失敗と感じる場合もあり、バイク乗りのテント選びはつくづく難しいものだと思う。
老舗デイトナが満を持して発売する「ドームルーム」は、いわばライダー専用品。これからキャンプを始めたいと思っている方はもちろん、いまのテントが何だかイマイチと感じていた方にも、間違いない選択となる可能性は高いだろう。
文:西野鉄兵/写真:若林浩志、西野鉄兵、デイトナ